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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
137/426

137  全ての失敗は精神力の問題


 パワーヒッターであるにも関わらず、足を生かした内野安打を量産するAKIRAは無敵呼ばれるようになっていた。たとえ打ち取った当たりをしてもピッチャーは気を抜けない。なにせ内野にゴロを放てばヒットにされる可能性があるので精神的にもかなりくるだろう。そういう意味ではAKIRAは打席だろうが守備だろうが走塁だろうが何処にいても相手にプレッシャーと威圧感を与える特別な存在だとも言える。相手からしてみればこんなに怖い相手はいない筈だ。センターという外野の中心を守っている彼は、その足を生かしてとてつもない守備範囲を誇っている。それこそライトやレフトが打球を見失った時には余裕でバックアップ出来る程の余裕を持っているのだから相手打者は何としてでもセンター方向には飛ばさないようにと自然に消極的な態度をとってくる。このようにAKIRAという選手が一人いるだけで、相手チームは行き場の無いプレッシャーを与えられるのだから大したものだ。しかし、ここまで珠玉の技術を持つAKIRAだとしても、自分を平凡な選手だと思って日々の努力を絶やさないから他の選手の見本にもなれる。練習はとても退屈な作業で、面白みなど何一つないからどんなに偉大な選手でも練習を嫌がってやりたくないというネガティブな気持ちになりがちだ。しかし、AKIRAはそんな気持ちが出てきても抑えるだけの精神力を持っている。それはやはり自分が誰よりも平凡だから練習を疎かにしてしまうと、すぐにでも寝首をかかれてしまうというのを自負しているのが要因だろう。プロ野球界は9名のスタメンの座を争うスポーツなので結果が出なければ当然ベンチスタートを余儀なくされて、最終的には解雇の可能性も十分にありえる。そういう危機感を持っている人間はAKIRAのように嫌な練習でも積極的に取り組む事が可能だ。彼は毎日8時間以上も野球の事を考えていて、夜寝る前にも明日の試合のシュミレーションをしているぐらいだから本当に野球漬けの日々を送っている。そんな事をしていれば趣味の時間など無いんじゃないかという声がファンの間から飛び交っているが、心配は御無用だ。AKIRAぐらいの努力家になれれば自然と24時間という決められた時間を如何に効率良く使えるかという術は身に着けている。だから他人からしてみれば野球漬けの日々で大変そうに思えるが、本人は至って平気だ。毎日5時間以上は寝ているし、好きなバラエティ番組を欠かさずチェックし、アイドルグループの曲を聞くだけの時間は残されている。このように本当に忙しい人間こそが結果を残せるのは言うまでもない。


 だが、世の中には口だけは達者で何もしようとしない人間が大勢溢れている。例えば大学野球でちょっとばかり活躍して好い気になっている新人選手は高確率で練習嫌いなのだ。これまで野球エリートとしての道を散々歩んできたから本当の挫折を経験した事が無いのでプロ野球界に入っても練習をしようともしない。自分は練習しなくても活躍出来るという空想に入り込んで、努力を放棄してしまうのだ。だからこそ、大学で活躍した人間の多くがプロ野球の厳しさを知ってわずか数年で引退に追い込まれる。これまで体験してきたのはアマチュアの世界なので誰でも本気になればある程度の活躍は可能だ。だが、プロ野球界はそうじゃない。技術の壁も当然あるが、それ以上に精神面の強さが重要になってくるので高校や大学でチヤホヤされていた人間はあまり活躍出来ずに引退に追い込まれてしまう。高校野球で活躍したAKIRAが、プロ野球界でも満足のいくプレーが可能なのは精神面ではそこらの大人以上の物を持っているからこそだったという訳だ。



 ****************



 結局、山室はこの試合で3打数3安打の固め打ちをして最高のスタートダッシュを成功させていた。それもこれも山室の精神面が強くなったのが原因であるのは言うまでもない。人間はどうしても技術や体力だけでは活躍するにも限界がある。やはり最後は個々の精神が重要となる職業なので、メンタルを強くするのは選手として活躍するためには重要な事だった。それを後輩から教えられたのはちょっとしたアイロニーかも知れないが、また安打製造機として活躍出来るだけの切っ掛けを得られたのだからそれも良しだろう。


「さすがだな。本当に猛打賞を獲ってしまうとは夢にも思わなかったぞ」


 二人はロッカールームで着替えながら喜びの瞬間に浸っていた。やはりAKIRAとしても山室が復活の兆しを見せてくれたのがかなり嬉しくて舞い上がりそうになっている。普段は冷静沈着に物事を判断するAKIRAでも、野球という名の仕事が終われば元の笑顔が似合う好青年に戻るので、今のAKIRAはどちらかというと実生活の自分に近かった。


「お前のおかげさ。本当に感謝してるよ」


 山室はそうだと言うのだった。感謝しているのだと。



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