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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
134/426

134  コンビニ店員とプロ野球選手の違い


 緊張感を全身から放出している人間はそれだけでプロフェッショナルな人間だとAKIRAは感じていた。緊張しているという事はすなわち、それだけ集中しているという証なのだからリラックスをするよりも更に緊張した方が自分本来のポテンシャルを発揮できる。しかし、緊張するにしても『ポジティブな緊張とネガティブな緊張』に別れるのをAKIRAは身を以って受け取っていた。前者のポジティブな緊張とは緊張しているのはそうだが、肉体的にはむしろ前向きでやってやるぞという強い意志を持っている。だが、後者のネガティブな緊張は肉体的にも疲労していて更に精神も硬直した状態なので肉体的にも精神的にも辛いだけで何の意味もない。だからこそ、人は緊張すればいいという訳ではなく、たとえ緊張していたとしても意識が前に向いていないと意味が無い。その点、隣に座っている山室は前者の緊張感を保ってベンチに座っているから大したものだ。やはりメンタル関連の本を読みこんだからこそ、この前向きな精神状態になっているのが良く分かる。プロになってからプレーする野球はまったく楽しくないかもしれないが、それでも気持ちを昂ぶらせて物事に取り組めるのは良い傾向だ。


 これは全ての職業に共通している点だが、好きでやっていた趣味を仕事にしてしまうのはあまりオススメ出来ない。例えばゲームが好きな人間がゲームを創る仕事に就いたとすると、とたんにゲームというコンテンツを楽しめなくなる。それは何故か。ゲームを創る過程は同じ事の繰り返しだったりするので遥かに疲れるてしまう。同じステージを何度も往復してプログラミングする作業は眼精疲労とドライアイを引き起こし、確実に視力は低下するのだからデメリットばかりだ。勿論肉体の疲労だけではなく、精神的な部分でのストレスも溜まってくる。こんな辛い作業を退職するまで延々と繰り返すのだから考えるだけでも嫌気が差す。だから、自分の好きな趣味を仕事にするのは誰にもオススメ出来ないし、やるべきではないだろう。仕事は嫌な出来事が当たり前なので、本来は自分が絶対にやらないような職業に就いた方がストレスは以外にも感じないし、意外と得意分野であると感じたりする。そういう意味ではプロ野球選手も趣味を仕事にしているのでとても辛い部分はある。プロ野球選手は中学時代や高校時代のように野球と勉学を両立する多忙な生活から離れて、ある程度時間の余裕があるので、そこでリズムを狂わせてしまう選手が実に多い。時間的に余裕があるから何をしていいのか分からなくなり結局、ゲームや漫画をして時間を潰すという最悪の結果に終わってしまう選手が実際にいるのだから恐ろしい。野球選手になると勉学の時間が無くなるので、そのぶん暇になるのだが、だからと言ってゲームや漫画という明らかに練習の妨げになる事をしていては意味が無いのは明白だ。真のプロフェッショナルは『一日中野球の事を考えられる』と心の底から喜ぶものだ。時間の余裕があると言って、自分の趣味を好きなだけしてしまうのはプロ失格だろう。無論、AKIRAは野球を一番に考えて生活を過ごしている人間だ。天才ならば練習をせずとも結果を残せるだろうが、AKIRAは自他ともに認める平凡な選手なので練習を怠ってしまえば、技術だけではなく精神も後退してしまう。せっかく誰もが羨む仕事に就いたのだから、プロ意識を持ってプレーを続けるのが正しい筈だ。少なくともAKIRAはそう考えていた。


 だからこそ、山室にはプロ意識を胸に秘めて野球をして欲しかった。ファンの人達に見られる職業に就いたからには半端な気持ちでプレーをするのは御法度だと言い聞かせる。去年、たった一年だけプロ野球の世界を経験したAKIRAでさえ精神状態を深くえぐられたのだ。山室はAKIRAよりも長い間プロ野球選手として活躍していたにも関わらず、低い姿勢で野球をしているのは甚だおかしい。ファンの人達が見ているのは野球選手がどれだけ当たり前の事を簡単にこなすか、それを焦点にしている。だからこそ強いプロ意識を胸に秘めて、どうすればお客さんを喜ばせられるかという考えを常日頃から持っていなければいけない。野球選手は接客業と同じなのでお客さんをどれだけ満足させられるか、そこが重要だとAKIRAは結論に至った。しかしだからといって接客業のように笑顔を振りまくのはプロじゃない。プロ野球選手は苦しさとプレッシャーがのしかかる辛い仕事をしているのに、それでも白い歯を見せて笑顔になるというのはファンに対して嘘をついているという事に繋がるからだ。もしも子供達が「プロ野球は面白い世界なんだ」と勘違いしてしまい、その感覚のままプロ野球に入ってしまえば誰の責任になるのかという話しだ。それ故に、AKIRAは厳しい表情を浮かべて苦しそうに野球をしている。実際毎日吐きそうになるぐらいのプレッシャーを受けているのだから本当に苦しいのだ。しかし、山室という男は自分に嘘をついてファンの人達に笑顔を振りまいているような男なので、そこのところを注意してその考えを改めなければならない。当たり前だが、野球選手にはコンビニ店員のような作られた笑顔は必要とされないのだ。



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