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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
133/426

133  緊張感


 山室はベンチに座っていて苦悩していた。歯を噛みしめるようにした苦い顔を浮かべて、呆然と試合の様子を眺めていた。誰が見ても緊張していると一目で分かるような雰囲気を醸し出していたのだ。ここで普通の人間なら「緊張するな、気軽に行け」という労いの言葉でも掛けるだろうが、AKIRAはそうじゃない。むしろもっと緊張してくれという願いの方が強かった。なぜならば人は緊張する事で初心に戻れるからだ。もしもここで「リラックスしろ」などとトンチンカンな言葉を掛けてしまえばとたんに山室のオーラは消え去ってしまうだろう。リラックスしていいのは精々大学野球までであり、プロ野球選手がリラックスして野球をするなど有りえないとAKIRAは考えていた。去年144試合を休まずにプレーしていると、緊張している時の方が体に力が入っていて記憶に残りやすい。どんな人間でも入学式の雰囲気や入社した時の気持ちなどは決して忘れないのと同じで、緊張していると体と脳の記憶力は凄まじく向上する。だが、緊張もせずにリラックスした状態でゲームで臨むのは危険だ。その場はいいとしても帰った後、試合の反省点をまとめる時に困ってしまう。いざ試合を振り返ろうとしても、緊張していないから全く記憶に残っていないという出来事が当たり前のように起こってしまう。反省とは小学生にも社会人にも共通する大切な行いだからこそ、AKIRAは敢えて緊張感を保ったまま野球を続けているのだ。これがプロ意識である。


 最近の若者はプロ意識が欠如していると言われているが、そんなのは団塊世代の戯言だと思って構わない。AKIRAのようにプロ意識が非常に高い若者は大勢いるのだから日本の未来はとても明るいと言っても良いだろう。しかし、ただ意識が強ければいいという問題ではない。頭の中で考え抜いた事を行動に移して実戦しないと、ただ頭でっかちになってしまうばかりなので意味が無い。せっかく意識が高くても行動しなければ全てが水の泡となってしまうのだ。


 その点、AKIRAという男は実に行動的だ。頭の中で考えた事を忠実に再現して人々の脚光を浴びている、人間はどうしても体を動かすという動作が苦手なので、前述にも言った通り頭でっかちで終わるパターンが実に多い。しかし、AKIRAのように行動に移せばそれなりに支持されるようになるのだから一歩前に足を踏み込む動作は学生や社会人にとってはかなり重要になる。言葉で表すのは非常に簡単だが、中々上手くいかないのが現状である。しかし、挑戦する事を恐れずに逃げてばかりいては成長する切っ掛けにもならないのだから、いつまでも現状維持のままである。AKIRAはそれを分かっているからこそ態度を行動に現しているのだった。



 *************



「緊張するのは当たり前だ。だからもっと緊張してしまえ」


 山室の背中をポンポンと叩きながらAKIRAはそう言っていた。これではどちらが本当の先輩なのか分からなくなってしまいそうだが、山室の方が10歳年上の先輩だ。しかし社会に出ては年齢など関係ないので先輩後輩の上下関係などたかが知れている。学生時代の上下関係が異常過ぎるだけであって、学生気分で先輩に話しかけるのは逆に感じが悪いと思われる要因になるのでやめた方がいいだろう。むしろ友達のように喜作な感じで喋りかけた方が良い印象を持たれる。かといって、AKIRAのようにタメ口を使って喋るのは御法度だから注意が必要である。AKIRAは色々な意味で常識を超越している男だから許されているだけであって、基本的には敬語を使って先輩と触れ合おう。だが、40歳を過ぎると若干のタメ口も許されるようになるのでAKIRAのように先輩と気軽に喋ろうとするなら40歳を過ぎてからだ。つまり、AKIRAという人間は生物学的に言えば19歳という青年にも関わらず、周りからは40歳を超えた大人に見られているという訳だ。それを証拠に、インターネットアンケートで『理想の上司、理想の父親、理想の夫』の三冠王を獲得しているぐらいなのだから、実際年齢より老けて見らているのは確かだ。それに若者離れした独特の低い声を持ち、武士のような髭を蓄えているので、そんじょそこらの19歳とは訳が違うのだった。



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