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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
120/426

120  成功するための絶対条件は、凡人である事


 今ならハッキリと言える。野球哲学こそ1軍で好成績を残すための絶対条件なのだと。思想無き者には目標が無いのと同等であり、考え方一つで次元を超越した選手にもなりえる。ここでいう次元を超越した選手とは、凡人でありながらも圧倒的な成績を残してレジェンドの称号を獲得した者達の事だ。世の中は凡人が成功する仕組みになっているのはほぼ間違いない。それは数々の歴史が証明している事であり、努力を知らない天才で歴史に名を残した偉人は存在しないと言っても過言では無い。偉人と呼ばれる者達は毎日血の滲むような努力を繰り返し、やっとの思いで栄光を勝ち取った、ある意味執念深い人間ばかりである。そういう執念と呼べる感情を持っている者こそが、真に次元を超越した凡人と言えよう。


 そう言う意味では、野球界は凡人の集まりである。特に秀でた才能が無く、ただ野球が好きで、その延長線でテスト入団を果たしたり、育成選手として契約する選手は何人もいる。そして、その中で結果を残し第一線で活躍する選手は一握りしかいない。その内の一人が山室といい選手だ。彼は育成契約から一軍への切符を掴み取り、今に至る。平凡だからこそ誰よりも努力して上へ目指そうという意欲が生まれる。初めから天才には向上心も無く、あるのは慢心だけだ。そういう意味では、第一線で活躍している者こそ凡人であり、その他の人物は努力を放棄した天才達である。人はよく、天才に憧れを抱くが、憧れを抱く者が天才であり、憧れの対象となっている者が凡人だというのはあまり知られていない。


 どんなに秀でた才能を持っていても、努力したり行動に移したりしないと意味が無い、せっかく持っている才能を無駄にしてしまう。というよりも、天才は自分の叡智には全く気付かない性質を持っている。それは努力こそが叡智を引き出すトリガーとなっており、中途半端な天才はそれに気が付かないまま、人生を無駄にしている。だからこそ、平凡な人間であるほど向上心が高く、人生を成功させる確立は高くなる。理由は不明だが、天才であればある程、努力を放棄する傾向にあるのだから恐ろしい。その力を存分に使えば凡人など光の速さで抜き去る才能を持っている筈なのに、自らその才能を捨てたがるのだ。


 無論、AKIRAは凡人タイプである。自分には最初から才能など無い事を分かりきっているからこそ努力して上を目指そうとする。その結果、今の好成績を維持している要因となっている。もしもAKIRAに少しでも野球の才能があればプロ入りはおろか、高校野球のレギュラーにもなっていなかったかもしれない。それぐらい才能というのは恐ろしい存在なのだ。むしろ才能なんて無い方が満足感のある人生が過ごせるのだから。


 そしてAKIRAと山室は凡人なりの考え方で、激動の野球界をどうやって生き抜いていくかの話し合いをしていた。試合が始まるまでの間、どうやってスランプを脱出するのかAKIRAに意見を仰ぎたかったようだ。もはや山室は完全にAKIRAを信頼している。なぜならば、彼には他の選手には無い独自の思考を持っているからだ。皆、誰しもがテンプレ的な考え方をしていて、スランプ脱出の方法を聞いたとしても似たような答えしか返ってこないだろう。だが少なくとも、AKIRAは違う。異国の地で育ったから日本人の感性とは少し離れているのか、周りとは隔離された独自の思考を持っている。その思考こそが山室の求めるスランプ脱出の鍵である事は言うまでもない。


「俺達は平凡な選手だ。それ故に誰よりも自分の本質を知らなければいけない。それこそ、行動パターンや潜在意識に至るまで、ありとあらゆる意識を知る必要がある」


 スランプを脱するためには自分が何者であるか見極める必要があるというのだ。そうする事で、普段見えてこなかった部分がハッキリとイメージ出来るようになる。


「自分の意識を知る?」


 山室はチンプンカンプンのようで頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。


「そもそもスランプとは自分の考えが至らなかった結果だろう。自分に非があるからこそ、何故そうなったのか理解しなければいけない。そして、理解するためには自分の生活を見つめ直さないと駄目だ」


 そう、スランプとは案外身近な事が原因で起きているものだ。ただし、それを理解するには相応の時間と切っ掛けが必要なのだが。


「つまり……ヒットが打てないからと言って闇雲に素振りをするのはいけないって事だ。これは断言できるが、スランプに技術的な問題は無い。むしろ、自分の精神状態にスランプの原因が眠っている」


 去年、AKIRAがスランプに陥った時も技術的な問題は無かった。それよりも野球に関しての考え方が至らずに、後半戦は無様な醜態を晒してしまった。しかしAKIRAはその教訓を生かして自らの思考を変えて、野球哲学を学んだ。最初こそ上手くいかなかったが、徐々に野球選手としての感覚が研ぎ澄まされるようになった。思想こそが選手としての個性を作りだす要因となるため、考えを放棄した者にはやがて試練が訪れるのだ。その試練が、今の山室には起きているという訳だ。



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