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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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011  地味な貢献


 山室は緊急事態に陥っていた。このままでは守備と走塁だけでプレイする事は年齢を考慮しても難しいだろう。若干18歳の身でありながら、AKIRAは感じ取っていた。まだ山室はバッティングを開花する才能を奥底に眠らせているのだと。まず、AKIRAが彼に指示したのはバントの基本的なやり方だった。バントが出来る選手は、やはりバッテイングも上手い。世間一般では誤解されているが、強打者にバントを苦手とする者はほとんどいない。強打者はバントをやらないだけで、本当はできるのだ。それぐらい、バントというのはバッテイングの基礎となる重要な技だった。


 AKIRAはこれまでにバントを使って、多くのヒットを生み出してきた。強打を警戒しているシフトの中、隙をついてドラックバントで塁に出る事は多かった。交流戦が終わるまでバントヒットの数は15。自身の例から推測するに、山室は足も速いので、バントヒットを狙わせることを考慮しているのだ。


「送りバントの場合、ランナーの状況に応じて三塁線か一塁線に転がすか、自分自身で見極めてくれ」


 AKIRAはそう言うのだった。


「分かった。で、やりかたは?」


 山室は尋ねてくる。


「バットを顔の近くに持っていくんだ」


「え?」


「最初は腰が引けてしまうかもしれんが、とにかくやってくれ」


「分かった」


 AKIRAは再度バッテイングピッチャーとなって球を投げた。球速は130キロほどだろう。山室はなんとかバットに当てたが、キャッチャー方向に球が飛んでしまった。


「三回バントを失敗すると、アウトだからな」


「それぐらい知ってるよ。俺をなめてんのか」


 さすがの山室もこれぐらいは知っているようだ。


「よし、続けるぞ」


 こうしてAKIRA指導官のバント練習は一日中行われた。山室は最初こそバットに当てるだけで背一杯だったが、段々とコツが分かったきたらしく、上手く三塁線と一塁線のキレるかキレないかのところに転がせるようにもなっていた。一日でここまで辿り着くのは、やはり山室のセンスだろう。山室は理想的な指導者とあっていなかったようで、打撃センス自体は秘めていたらしい。AKIRAはそれすら見破っていた。


「ハアハア」


 さすがに、ひたすらバント練習をするのは疲れたのか、山室は肩で大きく息をして疲れた表情を見せていた。そんな山室の近寄ったAKIRAは練習の終わりを告げる。


「良くやったな。今日はこれで終わりだ」


「へへ、兆しが見えてきたよ。ありがとう」


 山室は立ち上がってAKIRAと熱い握手を交わしたのだった。




 ●




 交流戦が終わり、普段のDHが無い状態での試合となった。交流戦後の初戦は因縁の相手であるツネーズだ。その中でも正捕手の矢部はとことんAKIRAを見下しており、面と向かっては言わず、ワザとAKIRAに聞こえる声で他の選手に愚痴をこぼしているのだ。「あいつは嫌いだ」「早く怪我しないかな」「顔も見たくない」などど文句を言っていた。他人には愚痴をこぼすが、当の本人に向かって愚痴を言わない人間は最低である。しかし、矢部はそんな汚らしい性格とは裏腹に、残している成績は圧倒的だった。打率、打点、本塁打はリーグトップ。一時期はAKIRAと熾烈なホームラン争いをしていたが、いつのまにやら矢部の独走状態になっていた。それでも矢部はAKIRAを心底憎んでいた。


「若い種は早めに潰しておかないと」


 今日の矢部もAKIRAに対しては強気なリードを取っていた。プラッシュボールは当たり前で、常に顔面擦れ擦れのボールを要求していた。しかし、AKIRAは回避しまくって、四球を選んだ。矢部は聞こえる音で「っち」と大きく舌打ちするのだ。


 ところが、AKIRAは完全無視を貫いていた。それ矢部にとって一番のストレスになることが分かっているからだ。


 七回の表、ワイルドダックスの攻撃。ノーアウト一塁。先発投手の疲れが見えていたので、ワーグナー監督は投手に代打を送った。その代打とは、山室だった。あの守備と走塁のスペシャリストである山室を代打で出場させるのは、観客のブーイングを誘う事となった。


「自動アウト製造機を代打に出すとは何事だ!」


「天誅! 天誅! 天誅!」


「そんな采配するならやめちまえ!」


「地獄に堕ちろ!」


 ワイルドダックスには熱狂的なファンが大勢いるため、毎度ながら野次が凄い。それでも山室は野次に気迫負けせずに、初球のボールにタイミングを合わせた。


 コンッ。


 ボールは一塁線に転がり、見事に送りバント成功。すると、いつの間にか、野次は歓声に変わっていた。


「やればできるじゃねえか!」


「その調子だ」


「バントぐらいでいい気になるなよ。次はヒットを打て!」


「キャー山室さん!」


 山室は送りバントを決めただけで拍手が送られていた。それをネクストバッターボックスで見ていたAKIRAは「うんうん」と嬉しそうに頷きながら、左打席に入った。


「山室のバントを無駄にしてなるものか」


 初球だ。顔面擦れ擦れのプラッシュボールを打ち返し、ライトの深いところに運んだ。二塁ランナーは激走してホームに帰還。チャンスに強いAKIRAは、値千金となるツーベースヒットを放ったのだ。



 そして、試合は終了した。1対0で阪海ワイルドダックが勝利したのだ。今季初、ツネーズから白星を奪ったので阪海ファンは大喜びで、スタンドで小躍りしていた。


 今日のヒーローインタビューはAKIRAだったのだが、インタビュー中にAKIRAは「真のヒーローは山室先輩です」と言って、球場を盛り上がらせた。送りバントは地味だが、確実にチームに貢献できる。自己犠牲が最高に美しいとされる日本では、やはり送りバントはチームの花形である。地味を制する者が勝利を手にするのだ。


「よっしゃ。今日は焼肉食いに行くぞ!」


 ザ・キャプテンの石井が言い始めたので、山室とAKIRAも焼肉屋に行った。そこで石井にひたすら褒められたのは言うまでもない。結局、深夜の1時までどんちゃん騒ぎをしたのだった。





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