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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
107/426

107  素晴らしき三振


 見た目は身長203センチ、体重は119キロ。もはや野獣そのものと言われているAKIRAだが、彼のプレーはまるで白鳥のように美しく、見る者全てを魅了する。何故そこまで華麗に野球が出来るのかと言えば、自分を落ち着かせるためだ。彼は所謂完全主義者であり、何事にも完全を求める。だから、半端なプレーをするのは自分でも許せずに、ただ結果を残すという選択肢は彼の脳内には無い。結果を残して、なおかつ自分が納得するやり方じゃないと気が済まないのだ。


 だからこそ、彼はジャッカルの異名を持っている。ホームランボールをジャンピングキャッチして捕球する事からそう言われたのだが、細かく分析すれば彼のプレー全体がジャッカルのように俊敏だ。スイングスピードも常人の領域を遥かに超えており、それでいて頭がまったくぶれない。それだけではなく、彼には100メートルを9秒台で駆け抜ける走塁がある。


 彼はホームランバッターだが、足もあるためゴロで打ち取ったと思っても決して安心出来ない。しかも左打席のため一塁に到達する可能性は格段に高くなる。実際、彼の単打の内、4割以上が内野安打となっている。


 AKIRAの内野安打を見ていると、まるで陸上競技を見ているのではないかという錯覚が観客たちには起こるそうだ。それぐらい彼の走力はずば抜けており、他競技に思えるぐらい鮮麗されているという事だ。


 そして現時点で4割の打率をキープしているのはAKIRAしかいない。彼はまだ19歳という若さであるにも関わらず、既に技術力はベテランの領域に突入している。何故彼がここまで優れた技術力を持っているのか、それはスケジュール管理にある。


 1日が24時間という法則は決して破れないが、この24時間を上手く活用すれば有意義な1日を過ごす事が可能だ。何もせずにボーっとしていれば、あっという間に過ぎてしまう。そうではなく、スケジュール管理をする事によって時間を節約するのが大事だとAKIRAは結論に至ったのだ。


 そうする事によって、彼は他の選手よりも何倍も充実した1日を過ごしていた。時間を節約したおかげで、練習時間を効率良く伸ばしている。それが結果的に成功したのは今の成績を見れば言うまでもない。


 好き勝手にやっているだけで成功するのは一部の天才だけだ。AKIRAのような凡人は常に思考をフル回転させて、『どうすれば効率良く出来るのか』という考えを持たないと成功の道は閉ざされてしまうだろう。


 効率、意識、哲学。今シーズンのAKIRAはこの3つを目標に掲げてプレーをしている。やはり考え方によって、野球という職業は大いに意味が変わってくる。完全結果主義の世界だからこそ、結果に囚われてはいけないというのがAKIRAの考え方であり、恐らくこの考え方が変わるとAKIRAの成績は大きく落ち込んでしまうだろう。


 それぐらい精神状態はプレーに大きく響く。彼の場合は家の中ではとても悲観的だが、いざ球場に運ぶとポジティブに物事を考える自分にチェンジする。そうでもしないと体が思っているように動かないのだと、昨シーズンに嫌という程思い知らされた。


 だからこそ、ネクストバッターサークルにいる今のAKIRAは集中力を高めている。人によっては『昨日の晩御飯何食べたっけな』と思う選手もいるそうだが、AKIRAは決してそうではない。相手投手を威圧の目で睨み、必ず打ち砕くという信念を心に秘めて、目の前のプレーを集中してみていた。


 すると、3番バッターの松本が右翼手へのポテンヒットで塁に出たではないか。度重なる出塁に、場内は異様な盛り上がりを見せている。それも無理はないだろう。


 なんせ次のバッターは国民的スーパースターのAKIRAなのだから。彼はもはや日本野球の象徴的ポジションに座しており、彼が出場するだけでテレビの視聴率は20%は固い。今時、視聴率20%のスポーツ中継など滅多にお目に掛かれない。それぐらいのスター性を彼は持っているという事なのだ。無論、瞬間最高視聴率は大体彼が活躍している時である。


「4番センターAKIRA」


 アナウンスと共に、AKIRAはいつもの左打席に入った。そしてこれまたいつも通りに、相手を威圧するバッテイングの構えを見せる。彼の姿はまるで研ぎ澄まされた大剣のように重々しく、見た目だけでパワーヒッターだと分かる。相手投手もここまでされれば、萎縮して身震いしてしまうのも仕方ないのかもしれない。


 だが、そう感じるのはルーキーや2軍レベルの選手だけだ。エースクラスとなるとAKIRAの威圧感では動揺する事もなく、軽くボールを投げてくる。この時もそうだった。バシャバシャスキーはAKIRAの得意なコースである内角にフォーシームを投げ込んできた。


 いける。


 そう確信したAKIRAだったが、バットは空を切り、空振り。電光掲示板の速度表示を見ると、なんと156キロではないか。精々148キロが関の山だろうと踏んでいたAKIRAのミスだった。


 どうやらバシャバシャスキーは相手が強打者であればあるほど、力を発揮するタイプのようだ。なので、彼は先程とは別人のような投球を見せて、AKIRAはあっという間に追い込まれた。しかも2球続けて得意の内角にストレートを投げ込まれたのだから精神的にもかなりこたえる。


「次は何を投げてくるんだ」


 AKIRAは一瞬戸惑いを見せた。すると、それを見透かされたのかバシャバシャスキーがニヤリと笑いながらボールを投げ込んできた。


 ボールは渦を巻きながらキャッチャーミットに直進していく。


 ストレートだ!


 そう思ってフルスイングをした時にはもう遅かった。後少しでバットがボールに当たろうとする瞬間。ボールがカクンと下に落ちて、またしてもバットが空を切る。


「ストライーク! バッターアウト」


 見ると、AKIRAのフルスイングで風が舞い起こったのか相手捕手が尻餅をついて倒れていた。久しぶりの三振という事もあってか、場内も湧き上がっているではないか。しかも三振をとったバシャバシャスキーでは無く、AKIRAに祝福が送られているのだと気が付くにはそう時間もかからなかった。


 このように、AKIRAは三振する姿でも華がある。




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