106 象徴的日本人メジャーリーガー
メジャーリーグの技術は最先端である。今の日本がここまで成長を遂げたのも全てアメリカから輸入した野球技術を応用しての結果だと言える。低反発球が主流となっているのも、アメリカが打低投高の時代であるが故に、それを真似ているからだ。
しかし、メジャーは打低と言っても選手の数が日本とは圧倒的に違うため、50本近くホームラン打つ選手も中にはいる。そういう選手に限って、国籍はベネズエラやキューバだ。彼らの身体能力は常識を逸脱しているのだから仕方がないかもしれないが、つかはアジア人で50本以上ホームランを打つメジャーリーガーを見てみたいものだ。
メジャーリーガーの象徴とも言える鬼崎喜三郎でさえ、ホームランを40本以上打ったのは片手で数える程しかなく、50本以上打ったのはただの一回も無い。彼は日本時代に50本以上を何度も打っている強打者だったのだが……ついにメジャーで50本の大台を乗るのは難しいようである。
何を隠そう、彼は今年で72歳の高齢メジャーリーガーだ。打率こそ3割前後と安定しているが、ここ最近ホームランの数は激減している。全盛期は30本や40本を当たり前のように放つ長打力を誇っていたのだが、今では10本がやっとだ。それでも年齢を考慮すれば十分過ぎる。なんせ、70歳以上で現役のプレイヤーは鬼崎ただ一人であるのだから。それでいて戦力として稼働しているのは実に見事だ。
元祖5ツールプレイヤーの異名を誇る鬼崎は、その名の通り走攻守揃った選手だ。心技体も完璧で、その中でも精神力は特にずば抜けている。自分の哲学を持っているのは勿論、あらゆる面で意識が高い。メジャーの過酷な日程スケジュールと時差に耐えられるのは強靭な肉体だけではなく、彼の恵まれた精神力の強さにあった。
今でこそDHや代打の出場が多いが、昔は守備の名手としてゴールデングラブ賞やゴールドグラブ賞を総なめにした。そして、守備において彼の特徴的な事は全ポジションを守れるという点である。メジャーでは中継ぎ不足の時は野手が投げるというお決まりがあるので、それを考慮すれば投手としての起用もあるという事だ。実際に、彼は一時期二刀流プレイヤーとして活躍していた時代もあるのだから。
彼は元々キャッチャーとして阪海に入団しているが、あまりにバッティングが良すぎるため右翼手にコンバードされた。しかし、完全主義者である鬼崎は右翼手だけでは満足できず、わずか半年で外野全てのポジションを守れるようになったと思うと、3年かけて内野のポジション全てを守れるようになった。それも、全てのポジションにおいて解説者からお褒めの言葉を頂き、某番組でも『あっぱれ!』を貰う程のファインプレーを全ポジションで叩きだした。
まさに次元を超えた選手なのだ。
だが、そんな選手でも老いには勝てなかった。58歳の頃、急にエラーが頻発していく。それも本業である右翼についている時でさえも捕球ミスや送球ミスが相次ぎ、次第に彼はファーストを守るようになっていた。守備での負担を減らすためにと監督が本格的にコンバートさせたのだ。
結果的にはそれでも守備の改善は見られずにファーストでさえロクに守れなくなった。シーズン終盤には代打で出場したり代走での起用もしばしば増えていく。DHには他の選手を使っているので鬼崎を使ってまでDHの枠を減らす訳にはいかなかったのだ。
結果的に60歳を迎える歳にチームから放出された彼は、古巣の阪海ワイルドダックスに戻ったという訳だ。阪海でも守備に就くことは無く、代打だけの起用だった。それでも彼は40本ものホームランを打ち、まだまだバッティングは衰えていないと日米に知らしめた。そして彼はその翌年にメジャーリーグに復帰し、今の今までメジャーのダイヤモンドを駆け抜けているという訳だ。
まさに日本を誇る最高のメジャーリーガーと言って過言では無い。そんな鬼崎喜三郎ですら達成出来なかった50本以上のホームランだが、それを達成できるのはAKIRAしかいないと言われている。
日本人離れをしたパワーの持ち主である彼だからこそ、周囲の期待は高まる、と言っても、彼はまだ19歳という若造であるためメジャーに挑戦するのだいぶ先になりそうだ。普通のFA権でさえまだまだだと言うのに、海外FA権となればまた話しが違ってくる。それなりに成績を残さないといけないし、好成績を何年も続けないとメジャーでは通用しないとまで言われている。
かなり先の話しであるが、AKIRAもメジャーの舞台で活躍する時は来るのだろうか。それとも突如として不振に喘ぎ、メジャー挑戦もままならない状況になるのか、それは誰にも分からない。
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「そうか。君もメジャーに行ってみたいのか」
「あそこは野球の原点であると同時に、頂点でもある。世界で最も優れた野球リーグで自分の力がどこまで通用するのか気になるのでな」
メジャーに挑戦する選手の大半はそう思っている。野球というスポーツが生まれた国で野球をする喜びに浸り、最高の瞬間を体験したいのだと。
「結果はどうなるか分からないが、少なくともお前なら通用する筈だ」
「そう思う根拠でもあるのか?」
「タフネスだよ。それがお前の一番の強みだ」
監督の言葉をある程度聞き終わると、AKIRAはバットとヘルメットを持ってネクストバッターサークルに向かった。




