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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
104/426

104  よく考えると似ていないプレースタイル


 AKIRAは身長が203センチで、体重が119キロという偉丈夫の中の偉丈夫だ。一般人が見れば山が動いているような錯覚に陥るだろう。当然、日常生活では不便な事が多くて何かと苦労する。自転車に乗っているだけで、木々にぶつかりそうになる。しまいには、手を伸ばせば二階の看板に届きそうな勢いである。


 そんな豪快な見た目とは裏腹に、AKIRAはとても繊細で美しいプレーを魅せる。そのギャップがまたファン達を虜にしているのだ。まず、彼には誰も負けない足の速さがある。その足を生かして素早く打球の落下地点に潜りこむと、整えられた一連の守備動作を見せて白球をキャッチする。


 無論、守備だけでは無い。打撃フォームも日本のわびさびを感じられる国宝級の美しさを誇るのだ。まるで一本の桜のように煌びやかで、なおかつ威厳を感じさせられる。あまりにも美しく、打席に立っているだけで相手のピッチャーが見惚れてしまう場合もあるぐらいだ。そしてホームランを打つ動作にも決められた法則を感じさせられる。


 豪快なスイングスピードが放たれたと思うと、目に求まらぬ速さでバットを置き、ホームランを確信した表情で飛んでいく打球を見つめる。あまりにも特徴的だが、今までにAKIRA以外の日本人バッターが高速バット置きを披露するのはあまりお目に掛かれない。それぐらい、彼の打撃力は日本人離れしているという事だ。


 やがて打球は放物線を描いてスタンドに飛び込み、とても綺麗なアーチを作りだす。AKIRAのホームランはどれもが飛距離が圧倒的であり、それと同時に優雅である。まるで、中学校の音楽の授業で習いそうな曲が良く似合う。AKIRAのホームラン集を見ながら紅茶を飲んで過ごせば、それだけで貴族の雰囲気を味わえる。


 彼はまさに美しい野獣だ。例えるならばジャッカルに近い。そんな彼が、因縁のクレイジーモンスターズと闘おうとしている。過去に起きた出来事を完全に払拭するためには負ける事は許されない。ここで楔を断ち切るのが、彼なりの目的であり目標でもあった。



 ****************



 石井が四球で塁に出るとネクストバッターの知念が右打席に入っていた。相変わらずメジャーリーガーのような特徴的な打撃スタイルをしており、どちらかといえばオープンスタンスに近い。見るからに不安定そうな打ち方なのだが、それで結果が出ているのだからコーチや監督も文句は言えないだろう。というよりも、本人は意地でも今のフォームをやめようとはしないだろうが。


「2番ライト知念」


 相変わらず髭をボーボーに生やし、ガムをクチャクチャと食べながら野球をする彼だ。確かにガムは集中力を持続させる効果を持っているが、髭には何のメリットも無い。と言っても、AKIRAにも多少の髭は存在しているが。


 それでも、知念の髭量は度が過ぎているのだ。まるで、どこかの赤い靴下球団から一人借りてきたような出で立ちをしており、とても高卒一年目には思えない。ある意味、黄金ルーキーなのだ。度胸もあって成績も良い。お世辞にも性格は良いとは言えないが、それでも犠牲フライなどで多少はチームに貢献してくれている。


「2番に知念を起用するのは、中々いいと思うぞ」


 AKIRAは監督の隣に座って、話し掛けていた。バントをまったくしない知念だが、それでも2番に強打者を置くだけで打線に厚みがあると相手に錯覚させられる。実際は、知念を適正打順が分からなくて、ためしに2番に置いてみたらバカスカ打ち出したという実態なのだが。


「そうだろう。奴はバントこそしないが、1回に強打者が出てくると思えば相手にも精神的苦痛を与える事出来る」


 それにより、相手は集中力をかいて甘い球などを投げてくる可能性が高まるというのだ。


「今じゃ知念はウチのチームに必要な強打の2番打者だな。他の球団には中々いないぞ……ホームランを量産できる2番打者は」


 全面的にAKIRAの言う通りである。とりわけ日本は2番にバントの達人を置くことが多く、むざむざ相手に1つアウトを献上してしまう。確かに時と場合に寄ればアウトカウントを増やしてでも塁を進ませるというのはアリだ。しかし、塁にいればなんでかんでも犠牲バントを打たせようとするのは駄目だというのもAKIRA自身でもよく分かっているのだ。


「そして彼には足もある。まるで君の右打者バージョンのようだな」


「よしてくれ。奴と俺ではプレースタイルがまるで違う」


「というと?」


「奴は本能的に野球をしすぎている。だから落下地点を誤ってポロリする瞬間が度々現れるのだ」


 彼の言っている事は最もだ。なんせ、知念という男はルールブックもしらずに野球をしているようなものであり、野球の知識はまるで無い。だが、知識が無くてもヒットを打って塁に到達する力を何時の間にか手に入れていた。それはまさに努力をした結果である。


「うむ。AKIRAの言う通りだ。奴の脳内で働いている思考回路はそこまで頑丈ではないらしい。例えるならば幼少時代からすでにだまされていたのだろう」


 監督はそう言うのだった。



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