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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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010  覚醒の布石


 スーパーサブ。それはプロ野球チームには欠かせない存在だ。決して打撃力は良いとはいえないが、その類まれなる守備センスと足の速さに、チームを何度も助ける事となるだろう。


 無論、阪海ワイルドダックスにもスーパーサブは存在する。外野全てを守れて、脚の早い選手が。その名は山室。27歳でプロ入りしたのだが、その打撃力の低さにスタメンを奪うとまではいかず、29歳の今まで守備固めと代走に起用される機会が圧倒的に多かった。バントも下手で、打撃は中学生並だとも言われている。しかし、守備のセンスは両リーグでもナンバーワンと言っていい程の守備力を持っていた。ダイビングキャッチ、背面取り、レーザービーム、時には走者を翻弄するトリックプレーも見せるのだ。そんな山室は守備と足で金を稼ぐ選手の代表的存在であり、ベンチメンバーながらも、4000万円の年俸を貰っているのだ。まだ二年目の新人という事もあり、今後も年俸は増えていくだろう。いくら打撃が中学生レベルであっても、チームには欠かせない存在になりつつあっていた。


 しかし、ワーグナー監督は不満げだった。もしも山室をスタメンレベルの打撃力に育てる事が出来れば、守備のスペシャリストが初回から外野の何処かを守っている事になるのだ。これは集客率アップに繋がり、山室自身の知名度アップにも貢献できるかもしれないのだ。さっそく、ワーグナーは練習場に足を運んでいた。お目当ては無論、山室である。外野の守備ノックを受けていた山室は、同じ外野手のAKIRAと共にスーパープレイを連発していた。二人は足も速く守備範囲も広いため、レフトが取る筈の球をライトのポジションから捕球したり、また逆のプレイもしていたのだ。互いに肩も早く、ホームベースまでノーバウンド送球を当たり前のようにしていた。


 ここでワーグナー監督は思った。『AKIRAの打撃を上手く吸収できれば、山室も開花できるだろう』と。さっそく、ワーグナーは二人を呼び出したのだった。


「今日からAKIRAに打撃練習を手伝ってもらえ」


「AKIRAにですか?」


 山室やまむろはおもむろに嫌そうな顔をしていた。それも無理はないだろう。十個も下の高卒ルーキーに打撃練習を手伝ってもらうからだ。プロとしては大変プライドが傷つくだろう。


「そうだ。なんとかうまいことAKIRAの打撃を吸収してくれ」


「分かりました。他ならぬ監督の頼みならば」


「期待してるぞ」


 そう言って、ワーグナー監督はベンチに戻って、二人の練習風景を観察することにした。


「そうだな。とりあえず、フリーバッティングを見せてくれ。それで先輩の打撃力をチェックする」


 AKIRAはそう言っていた。


「俺の打撃力なんて見なくても分かると思う」


 山室は悲観的に言っていた。


「投げてもらいたい投手はいるか?」


「お前でいいよ」


 なんと、山室はAKIRAをバッティングピッチャーに指名した。


「お、俺か?」


「最近は二刀流として頑張っているそうじゃねえか。お手並み拝見といこうと思ってな」


「分かった。取り敢えず10球投げるぞ」


 こうしてAKIRAは18.44の距離から山室めがけてボールを放った。緩めに投げたつもりの130キロの真ん中高めのストレートだったが、山室はその球にあっさりと空振りした。


「…………」


 AKIRAは思わず声を失った。130キロの真ん中ストレートをプロ野球選手が空振りしたのだ。しかもフリーバッティングで。


「後9球か」


「次はフォークボールを投げるぞ」


 まだキレも変化量も少なく、球威のないフォークボールを投げるというのだ。恐らく、AKIRAなりの優しさだろう。


 ところが、山室はそんなフォークボールにもかすりもせず、ハーフスイングを余儀なくされていた。これは思っているよりも重要だと、ワーグナー監督は席に座って考えていた。


「山室先輩……」


「どうした。後8球残っているだろう。やるからには最後まで投げろ」


「分かった」


 AKIRAは120キロから130キロのフォーシームを中心に投げていた。が、やはり山室のバットは火を噴かず、沈黙を続けていた。そして、最後の直球もフルスイングをして空振りをしたのだ。最後の球は126キロ。体感速度は高校野球のピッチャーレベルだろう。山室はそれさえも打てないのだ。AKIRAが本気を出すまでもなく、山室は10球10三振という史上最低の成績を叩きだしてしまった。


「からかっているのか」


 AKIRAは思わずそう口にした。


「からかってなどいないさ。これが俺の実力だ」



 実力だと言うのだ。実際問題、山室はバットを地面に置いて『ハアハア』と肩で息をしていた。恐らく、体力もあまりないのだろう。


「さっきの球は素人でも当てられるぞ。それを三振とは」


 ぶっちゃけ発言だ。同じプロの先輩に向かって。


「笑っていいぞ。だが、事実は変わらんがな」


「何故、そんなに打てないんだ?」


 AKIRAは疑問に感じていた。


「もう一年近くバットは触っていない、今日が今年初めてバットを持った日だ」


「なに。普段からバッティング練習をしていないのか?」


「俺は野球の中で一番打撃が苦手だ」


「俺もそうさ」


 AKIRAも打撃は苦手だと言うのだ。


「どの口が言ってるんだよ。高卒ルーキーで怪物クラスの成績を叩きだしている奴が」


「俺は打撃が一番苦手だから人一番練習しているだけだ。だれだって、昔からホームランを量産していた訳じゃない。自分に合った練習法と努力を積み重ねた結果が今の俺だ」


「そうなのか、ということはつまり、俺も打撃が良くなる可能性が?」


「あるかもな」


「そうか。俺にもまだチャンスがあるのか」


 こうして、山室はAKIRAの言葉に拳を震えさせていたのだった。




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