6
北浦先生の見回りをギリギリで回避して校外に出ると、日はすでに大きく傾いていた。駅への道を急ぐ三人は、その途中で顔見知りに出会った。
「あら。こんばんは、セイラさん」
石川聖良は籠目署の刑事である。もみ上げだけを伸ばしたショートヘア、鍛え抜かれた鋼の肉体がトレードマークである。出先から直帰する途中とのことだった。
「珍しい組み合わせね。遥の教え子なんだ」
「聖良こそ、なんでこの子達を知っているの?」
「野球部の事件で知り合ったのよ。それからはなにかとまとわりつかれて迷惑しているの」
「なに言ってんの!誰かさんが担当している事件をいっぱい解決してあげているのを忘れたのかしら。それとも上司の方々
にばらして欲しいのかしら」
「いや、それはその……」
「どちらが良いか決まったら教えて。それより、二人はどういう関係なの?」
「聖良は中学時代の先輩なの。と言っても、先輩というより友達みたいなものだけど。結婚がダメになった時も、一番親身になって話を聞いてくれたのよ」
「へぇ、優しいところがあるんだ」
「どういう意味よ!遥もこんな奴らに話しちゃったの。つけこまれるわよ」
「なんかぽろっと話しちゃったのよね。ま、この子達なら大丈夫だと思うけど。聖良が現役を引退する時に思い悩んで暴れていた話はしていないから安心して」
「それ聞きたーい」
「絶対に話さない!遥も絶対に話すなよ」
本気で釘を指すセイラをナナが笑う、つられて遥も笑いルリっも笑った。事情が分からないセイラが怪訝な顔を見せ、その表情にさらに笑った。
「でもちょうど良かったわ。遥ちゃん、今日の話をセイラさんに聞いてもらったら」
「やっぱり警察沙汰なのかしら?」
「それは聞いてもらってから決めれば良いじゃない。あ、ちょっとごめん」
ナナは携帯でメールを見ると、
「今夜はフミちゃんが帰ってくるんだって。急いで帰ってご飯作らなくちゃ。じゃあね、カッチン」
と言い残して帰っていった。夜道を走る後ろ姿も美しい。
「それじゃ、私もここで失礼します」
ルリも頭を下げて帰って行った。
「相変わらずせわしない子たちね。なんだか良く分からないけど、飲みに行く?」
「話を聞いてくれる?」
「いつも聞いてるでしょ」
遥は笑いながら、少し拗ねている先輩の腕に自分の腕を絡ませた。
初出2011年8月21日 COMITIA97