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「すっかり忘れてたわ。その、ハルミさんには彼氏がいるの?」

「デートぐらいはしてたみたいだけど、特定の相手と付き合っているって話は聞いたことないわね。考えてみると変ね。けっこうかわいい子なのに」

「望みが高いとか」

「どうなのかしら。さっきも話したとおり、合コンの席でしか会わないから」

「どんな人なの?」

「うーん。かわいい子よ、切れ長の目が特徴かしら。髪はずっと長くて、サイドを前に下ろしてるわ。合コンでは盛り上げ役というよりはまとめ役ね。合コン好きにしては、自分から積極的に話しかけたり、誘ったりしないわね」

「それは作戦じゃないの」

「確かにそういう作戦を使う子もいるけど、そんな子は主催したりしないわ」

「頻繁に合コンを開いていたけど、恋人探しが目的ではなかったということかしら。合コンというシチュエーションが好きだったとか」

「人間観察の場所としてそれなりに面白いのは認めるけど、そんな理由であんなに頑張るものかな」

「人間観察のついでに恋人探しもできるならいいんじゃないですか」

「一石二鳥ってことね。ともかく、連絡が取れないならハルミのことは置いておきましょう。他に連絡が取れる場所があるとすればお店かしら。お店の名前は覚えてる?」

「それが覚えていないの。駅に集合で連れて行ってもらったから」

「じゃあ、検索しましょう。カッチン」

 ナナの指示でルリがパソコンを立ち上げ、遥がユーザーIDとパスワードを入力する。生徒用のアクセス権限では、使用できる範囲がかなり限定されてしまう。

 東京の地図が表示される。

「信濃町から徒歩五分から十分、和食系、チェーン系ではない……」

 遥からの情報を聞きながら、ルリがキーボードを叩く。最初は無数の点が地図上に表示されていたがみるみるうちに数を減らしていく。

「凄いわね。阿久津さんはこういうのが得意なの?」

「カッチンはオタクだからね」

「スポーツ全般が好きだから、検索して情報を集めたりしているんです。何階ですか?一階。だったら、こことここのどちらかじゃないですか?」

「ああ、右側の店よ。本当に凄いのね」

「渋い店なのね」

「そういえば昨晩は店のチョイスがいつもと違ったわね。いつもはフレンチやイタリアンが多いのに、和食だったし。和食でもしゃれたところならたまにあるけど、大衆居酒屋って感じで、悪くは無かったけど少々チープな感じで、不思議に思ったわ。信濃町ならベレコがあるのに」

「教師の給料でそんなところに通えるの」

「女は払わないもの」

「それはそうか。それじゃ、電話しましょう」

 目でうながされて遥はしりごむ。

「私が電話するの?」

「当たり前でしょ。私たちは当時の様子は分からないもの」

「私だって分からないわよ。だからあなたたちに頼んでいるんじゃない」

「私がしましょうか?」

「カッチンに任せるぐらいなら私が電話するわ」

 ナナはぱっと携帯電話を開いて番号をプッシュする。

「こんばんは。昨晩そちらを使用させていただいた者ですけど、ちょっと伺いたいことがあるんです、そうです。十人のグループだったんですけど覚えてます?え、なんです?ええ、そうです。昨晩ですけど、何かありませんでした?そう、なにか忘れ物とか?いえ、私が忘れたわけじゃないんですけど。ええっと、倒れた人とかいませんでしたっけ?そうですよね。そうですよ。倒れた人がいれば気がつきますよね。はい、分かりました。ありがとう、失礼します」

 電話を切った美少女の頬には、珍しく冷や汗が流れていた。がっくりと肩を落とす。

「やってしまった……」

「やっちゃったわね」

「よく頑張ったと思う」

「顔を合わせていれば何でも聞き出せたのに」

「それを言ってはダメだ」

「そうね。でも、収穫がなかったわけではないわ」

 落ち込んでいたナナがぐいと顔を上げる。

「店員がおかしなことを確認してきたわ。朝霧さんですか?って。遥ちゃん、店員に名前を教えた?」

「教えないわよ」

「合コンだったら自己紹介をするから店員が聞いていた可能性はあるわ。でも、電話をかけてきた相手が十人のうち、女性だけなら五人か、五人のうちの誰かなんて分かるわけがない」

「声フェチだったとか」

「そんな特殊な性癖があるの?」

 得意げに成果を語っていたところをあらぬ方向からつぶされ、ナナは腹立たしげに訊ねる。

「世の中には色んな趣味の人がいるからな」

「遥ちゃんはどう思う?」

「人の趣味はそれぞれだから……」

「店員が名前を知っていたことを怪しいと思うかどうかよ!」

「あ、怪しいと思うわ。何かがあったのならともかく、それこそ誰かが倒れたのならともかく、何もなかったのなら名前を覚えたりはしないでしょうし、なにかのきっかけで覚えたとしても、電話をかけてきた相手がその人だなんて思わないでしょうね。電話に出た店員は男だった?」

「軽薄そうな若い男だったわ。ありがとうございますを、あっすって略してた」

「覚えてるわ」

「私の考えでは、」

 ナナはクルリと二人の顔を見る。

「昨晩、この居酒屋ではなにかがあった。多分、遥ちゃんが意識を失って倒れた。さっきの店員はそのことを知っていて隠した。さらに加えれば、その店員、アッスは遥ちゃんのことを前から知っていたし、昨晩倒れることも知っていた」

「どういうこと?私が起きたのはアッスの部屋だったってこと?」

「それは分からないわ。主犯だったのか、共犯だったのかで変わってくる。次はその問題の部屋を考えましょ。タクシーに乗っていたのは四十五分ぐらい?朝だったら渋滞でそんなに飛ばせないでしょうし、時速四十キロぐらいで考えて、学校を中心に三十キロの円を書いて」

 ナナの支持にルリが手早くマウスを操作すると、画面に現れた地図に円が描かれた。

「三十キロだと、鎌倉やさいたま市まで入るぞ」

「ちょっと大きすぎね」

「そうだな。横浜市からだと約四十五分だ。横浜市からは約十八キロ。十八キロで円を描くとこうなる」

 先ほどよりはかなり小さな円が描かれた。しかし、

「めちゃくちゃ広いじゃない」

 遥が言うとおり、円は北は練馬区、東は羽田空港、西は多摩市、南は横浜市までを含んでいる。

「遥ちゃんの家と、三十分経った時に運転手さんに聞いた場所は?」

「家は祖師谷。それと等々力の近くだったわ」

 地図上に新しく二本のピンが立つ。

「ということは北東方面の可能性は消える。学校より先に家に着くはずだからね。北西もないわよね。南西の可能性も低いわ。南東……、品川と蒲田の間ぐらいが怪しいわね。等々力の近くということは環状八号線を使っていたのかしら。となると蒲田かしら」

「本当に凄いわね。阿久津さんも、枇々野さんも」

 遥は素直に感心する。

「満足するにはまだ早いわ。ここからがスタートよ。もっと情報はないの?どこに住んでいるかって話をしなかった」

「言われてみれば、どこに住んでいるかなんて鉄板な話題なのに、話した覚えがまったくないわね。鉄板って分かる?」

「もんじゃは好きです」

「その鉄板じゃなくて、「間違いない」とか「確実」という意味よ。」

「そうだ電話番号!男とは番号を交換したんでしょ。その番号を見せて」

「番号でなにか分かるの?」

「赤外線通信で交換したんでしょ。自宅の番号も入っているかもしれない。市外局番からどこに住んでいるか絞れるわ。住所まで入ってれば完璧だけど」

「なるほど」遥はバッグから取り出した携帯電話を素早く操作する。食い入るように画面を見つめるが、やがて落胆して携帯を持つ腕を下ろした。

「ダメだわ。二人、自宅の番号が入っていたけど両方とも03よ。住所はないわ」

「そう……。名刺は?」

「昨日は名刺交換なかったのよね。そういえば、誰もどこに勤めているか話さなかったわ。不動産関係とか、医療系メーカーとか言ってたけど、具体的な会社名を言った人はいなかった」

「聞けば聞くほど、不自然なところがいっぱいある合コンなんだけど」

「主催する人によって色々あるから。でも昨日は確かにどっか変だったわね。でも、ヘルプだったからあまり聞くこともできなかったし……、あっ!思い出した」

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