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1話
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2話
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3話
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4話
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「玉の輿に乗れれば、それで良いってもんでもないでしょ」と言いつつ、玉の輿に乗るために日々切磋琢磨しているのが、籠目高校で教職についている朝霧遥である。
ぼんやりと目を覚ました遥の視界には、見知らぬ天井があった。
気持ちの良い目覚めには程遠い。頭の奥底が鈍く痛み、その痛みが表層へと染み出して全体を覆いつくす。
「なんで……」 つぶやきながら重い頭を回す。
天井に続き、知らないカーテン、知らない壁が目に入る。ホテルではなく個人宅であることを認識する。
カーテンの生地が薄いために、照明をつけなくても部屋の状況を確かめられるぐらい室内は明るかった。
狭い部屋だ。窓際のベッド、左右に置かれた机と棚。それだけでいっぱいだ。片付けられてはいるが、物が多いために雑然とした印象を受ける。目がボタンのウサギのぬいぐるみがくったりと一角を占領している。
水の流れる音が聞こえてくる。誰かがシャワーを浴びているようだ。
「誰……」
ベッド、机、棚、残る壁は引き戸になっており、水音はそちらから聞こえてきた。引き戸の上に壁掛け時計があった。他の調度品と同じように飾り気のないシンプルなデザイン、大きな数字が時間を知らせてくれる。
七時を少し回っていた。
突然、頭のスイッチが入り、急速に回転を始める。
のしかかる頭痛を無理やりねじ伏せて、薄いかけ布団を引っぺがす。Tシャツにパンツ姿だった。机の前のイス上に、たたまれた服が置かれているのを見つけた。
Tシャツを脱いですばやく服を着る。少し迷った後、形だけベッドを整えてTシャツをたたむ。服と一緒に置かれていたハンドバッグの中身を確認する。とりあえず、必要なものは全て揃っている。財布の中身も大丈夫だ。
引き戸を開けてぎょっとした。目の前に人がいたからだ。すぐに大きな姿見に自分の姿が写っているのだと分かる。
大きな姿見と二つの大きな衣装棚だけの部屋だ。家主はよほど服が好きなのだろうか。
薄暗い部屋の姿見で髪型だけを整える。
シャワーの音が続いているドアの前をそっと通り過ぎると、ダイニングキッチン兼玄関に辿り着く。土間に置かれているのは遥のヒールだけで部屋の主の靴はない。ヒールを手に取り、ゆっくりと鍵を開け、そっとドアを押す。
幸い廊下には誰も居なかった。同じデザインの無機質なドアが並んでいる。
音を立てずにドアを閉めると、裸足のまま廊下をかけ、階段を降りる。屋外に出たところでタイミングよくやってきたタクシーに飛び乗った。