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気分は市場に売られる子牛


ゆ~らゆら揺られてかれこれ何時間が経過したのか。

今がどのあたりかは分からないが、馬車の周りを護衛するかのように騎士たちが囲っているのか、金属のぶつかる音と馬の蹄の音がするだけで他に街の喧騒などといった人の話し声などは一切しない。

きっと馬車の窓から顔を覗かせても、もはや城はチラリとも見えやしないのだろう。

それくらい長い事馬車に乗せられている。


………いまだ簀巻きにされたままで。


あれ、おかしいね?私これでも一国の王女だったと思ったのだけれど、実は違ったのかな?

長距離移動用の馬車なので内装は普通の馬車と異なりベッドのような作りになっているので簀巻きのままでも然程苦痛はない…が、別の意味でツライ。主に精神的な意味で。

せめてこの縄は解いてもらえないだろうか。


「ルシエル~、いい加減コレ何とかしてちょうだいー」


コロン、と反対側へ転がり同乗している(きっと私が逃げ出さないよう監視していると思われる)ルシエルへと縄を解くようお願いしてみる。

するとルシエルは面倒くさそうにこちらへチラリと視線を向けただけで一向に動こうとはせず、そのままふいっと顔をそむけてしまった。


…主に逆らうなんて良い度胸じゃないのぉ……覚えてらっしゃい。私と可愛いサーシャを引き離す事に加担した咎はきっちり背負ってもらいますからねっ!?


心の中でいつか彼女に仕返しすることを誓いながら、何とかこの状況を抜け出そうと更に言葉を重ねる。


「今ここがどのあたりかは分からないけれど、王都から大分離れたところにまで来ているのでしょう?もう、ここまで来て逃げ出そうなんて馬鹿な真似はしないわよ。こんなところに一人でいて魔獣に遭遇しないだなんて楽観視するほど能天気でもないわ。流石の私も自分の命は惜しいしね」


そう、そうなのだ。ここには普通の獣の他に凶暴な魔獣などもいる。

運悪く遭遇して五体満足で帰れる自信は少ししかない。

遭遇した魔獣の強さにもよるが私はこれでもそこそこ魔法には自信があるのである程度の魔獣だったら倒せるかもしれないが、一人っきりでは不安要素の方が大きい。

流石にそんな無茶をするほど己の立場を理解できないほど幼い訳でもお馬鹿さんでもないので、逃走は諦めることにした。今は。


そんな私の訴えに一理あると思ったのか、いい加減うざったく思ったのか……おそらくルシエルの表情から後者だと思われるが……「仕方がありませんね」と呟きながらゆっくりと。本当に「やれやれ」と言いたげな様子で縄を解いてくれた。


……それが己の国の王女に対する、しかも自分の主に対する態度だろうか。

慇懃無礼にも程がある。「この無礼者!」って言ってルシエル解雇しちゃっても私に否はないんじゃなかろーか。

いや、しないけどね?ルシエル物凄く優秀だからしないけどね!

でも対応改善の訴えはしても許される気がする。

…あれ、おかしーな。普通こういうのって部下が上司に対して取る行動であって上司が部下に対して訴訟するっておかしくない?


漸く解放されて今まで固定されていた腕をほぐしながら重く長い溜息をつく。


「…それで、今朝のガルシアからの話は本当に本気なの?」

「この状況で本気でない場合、姫様はどこぞに放逐され野党に襲われ剣のサビになるという選択肢しか残ってはおりませんが、もしやそちらの方がお好みでございましたか」

「何でそんな物騒な一択しかないのよ!?それに、野党にやられるくらいなら周りを巻き込んででも高位魔法で乗り切ってやるくらいの気概はあるわよ」

「お言葉としては頼もしく思いますが、年頃の娘としては些か…」


ルシエルはわざとらしく「よよよ」と嘆くふりをしながらしっかりその手にはまた私が逃げ出す素振りをしようものなら問答無用で縛り上げるつもりなのか縄が握られている。


「白々しい演技なんてやめて頂戴。……で?」

「……すべて事実でございます。既にあちらの皇帝陛下とも密書にて確約を交わされたとお聞きしました」

「…それって私に拒否権なんてないってことよね」


忌々しそうに言い捨てると「姫様、お顔」とルシエルからツッコミが入るが、それどころではないので無視する。


隣のガルシア帝国はセシリア達の住む国カランドラの三倍の国土を誇り、武力行使によって現在もその領地を広げている。世界の中でも強国の一つとして名を連ねているガルシアに一時期は攻め込まれ敵対していたカランドラであったが、カランドラより産出される質の良い魔鉱石と魔法技術を引き換えにセシリアが生まれる三年ほど前に停戦協定を結び以降小さな衝突はあるものの、ガルシアの筆頭同盟国として付き合いが続いている。


この「同盟国」というのがかなり重要な意味を持っている。

ガルシアは武力行使により小国を属国化しており、その数は片手では足りないほどである。

そんな国がある中、カランドラは数少ないガルシアと「対等」な立場を確保している国なのだ。

「虎の威を借る狐」のようではあるが、決して大きくはないカランドラが他国に侵略されることなくそれなりの自治権を持っているのはこのガルシアが背後にいるからというのもある。


そんなガルシア帝国より、とある打診がもたらされたのが約一月前。

現在のガルシア帝国皇帝は武力行使の国だけあり、皇帝本人もかなり優れた武人であることは色々な逸話や彼自身をモチーフとした物語が書かれていてどの国の子供ですら知っている常識であるが、その息子に少しばかり問題があることは意外と知られていない。

ガルシア帝国次期皇帝と目されているヴァルター皇太子は御年二十五歳。

父親同様武人としてかなり名を上げており、自ら兵を率いて前線を駆け抜ける猛者として有名である。

かなりの美丈夫としても有名でしかも大国の次期皇帝という優良株とくれば当然のごとく周りが放っておくはずがなく、かなりの秋波を送られていながら現在正妃はおろか側室すら持っていないという。


この話を最初に聞いた時は正直「へえ…それで?」という感じだった。

だって、他国の皇太子の話なんて他人事過ぎてどうでもいいというしかないじゃない。

それに、まだまだお若いのだし、国の為に尽力されているだけで別に正妃や側室がいなくともおかしくはないと思うのだ。

だから、「まあ、結構な美丈夫であると噂だし人柄もとても素晴らしい方と聞くからそのうちお迎えになられるんじゃない?」というのが私の感想だった。

ここで「まあ…私、是非あの方の隣に…っ」とか夢見る乙女ではないので冷めた対応だとしても仕方がない。

聞かれたから素直に思ったことを述べたらとても残念な目でみられたとしても、それはお門違いというものだ。

人の好みは千差万別。

そんなのに夢を持っていられるほど可憐で深窓の令嬢のような世間知らずではないので、そういった反応は他の貴族令嬢にお任せしたい。


………が、ここで残念なことにその話は終わらなかった。



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