体育大会に向けて
朝礼の時間に、結斗と第一寮の二堂が1年全員にこう言った。
「来週の金曜日は、体育祭だ!今日はチーム対抗ミニリレーのチーム決めをする!」
二堂は大きな声で言った。
すると、結斗は大きなポスター並みの紙をホワイトボードに広げて説明をはじめる。
「まず、今回のミニリレーは障害物がある。決め方は自由だが、どうする?」
乙女な声で、疾風は
「結斗が決めるなら、僕何でもいいー!」
「だな!」
「あぁ」
全員、結斗を指名した。
二堂は、
「正々堂々と、あのじゃんけんで勝負だ」
そういえば、慶雲式じゃんけんというのがあると、前に誰かが言っていた。
楓は少し興味があった。
音楽が掛かり、ノリノリ気分で手をたたく生徒たち。
つられて楓も手をたたく。
「ぐるっと回って、じゃんけん」
グーとパーで結斗の勝ち。
案外普通のじゃんけんだなと思っていると、音楽の中でブー!と音が鳴った。
このブー!というサイレンのような音は5回出てきて、結局は5回目のじゃんけんしか意味がない。
それまでは、練習じゃんけんというわけ。
なぜだか現代になるにつれて、盛り上がれるじゃんけんに進化していったというわけだ。
「っていうかストップ!」
曲がとまった。
「くじだろ?じゃんけんの意味ないと思うんだけど」
結斗がズバリ言った。
うんうんとうなずく第二寮の生徒たち。
「カッコイイー!結斗くん!!」
まだノリノリの疾風は見逃して、くじを倉庫から持ってくる昇。
「チームは第一寮と第二寮で分けてから、さらに分ける!」
「人数は...4人で1チームってところか」
昇はくじを数えて、そろっているか確認をする。
「オッケー!全部そろってるぜ」
気合を入れる、生徒たち。
楓は誰となるかよりも、零とのケンカが気になっていた。
あれから一夜。
一言も会話もしていない。
里琉からのアドバイスも受けたが、イマイチどうしていいのか分からない。
これで、同じチームになったら気まずい。
そんなドキドキが強くなる。
時間がなくなってきたため、高速にくじを引く生徒たち。
「はい!じゃーチームでまとまって!」
ついに、楓の番。
紙を恐る恐るあけると、4番と書いてある。
「僕、新牧と一緒!」
疾風と、
「お前と一緒かーよろしくな!」
昇と、
「よろ」
里琉と一緒のチームになった。
唯一、陰口の噂がないメンバーだった。
ほっとため息をついている間もなく、ル・クイーン女子の亜癒と沙奈がやって来た。
「今度の学園祭は、私たちも力を入れて、懸命に応援を行いたいと思います」
「というわけで、今日はみなさんに手作りのハチマキをプレゼントしたいと思います」
カラフルなハチマキを一人一人丁寧に渡し始める亜癒と沙奈。
亜癒は零の時になると、長々と笑顔で何かを話している。
その光景を目の当たりにする楓は戸惑いを見せる。
楓に気づいた亜癒は近寄り、ハチマキを渡す。
「慣れていないと思いますけど、がんばってくださいね」
沙奈も来て、
「応援してます!新牧さん」
すると、中央に向かっていった二人は、ちょこんとお辞儀。
「わたくしたちも授業がありますので、それでは」
『ごきげんよう』
と言って、帰っていった。
「結斗くんと離れちゃった....」
なぜだかいじける疾風。
「第二寮として負けるなよ!疾風」
「うん!絶対に負けないもん!」
疾風と昇は元気いっぱい。
そのまま、朝礼が終わったあと、教室に走っていった。
楓はポツンと突っ立っていた。
里琉が近寄って、
「どうした..?授業..行くぞ」
「はい..」
複雑な顔を見せる楓に里琉も心配する気持ちを隠せない。
楓の後ろで、零と結斗が話している。
「一緒にチームになったからには、期待してるぞ零」
「あぁ」
零も零で楓を心配している。
だが、ケンカ気味になったことを引きずっており、話しかけづらい。
零はよく、ツンデレな性格と言われることがあるため、照れがあまり見せたくない性格なのだ。
気さくさはすごくいいのだが..。
「疾風は女の子みたいだね」
中庭で疾風と楓がしゃべっている。
「そう?まぁ..お肌は大事だからね♪新牧も大事にしなきゃダメだよ?」
「うん」
疾風だけはタメ口で話せるようになった楓。
これからも、タメ口で話せる仲間を増やしたいと思っているのだが、無理なのだ。
「そうだ!新牧にも韓国のパックをあげるよ!黒砂糖成分の」
「黒砂糖..?」
「甘いにおいがして、パックだけど食べたくなるようなパックなんだ!」
パック話で盛り上がる楓と疾風。
そんな様子を笑顔で影から見守る、B組のとある男子。
とある男子に気づいた楓は、疾風の会話から少し抜け出して、中庭の窓から顔を出した。
「き、君..B組の男子だよね..?」
「あぁ」
「な、名前はえっと...」
「風早優樹」
「あ!」
名前だけを名乗り、そのままどこかへ消えた。
そのあと、疾風は
「風早は、ああいう人だよ?不思議オーラが漂うのが彼の魅力っていうのかな..」
「へぇ...」
「あ、僕はいつでも、新牧のライバルだよ!お肌に関しては絶対にね!」
疾風はそう言って、教室に入っていった。
次の日の放課後から、それぞれミニリレーの練習が始まった。
第一走者にはくじを引いてもらい、それぞれ何の状態で走るのかは分からない。
騎馬戦状態で走る・うさぎとび・10回の回転・ラッキーカード
騎馬戦状態は結構つらいようで、全員が4回走らなければいけないため、引きたくない。
「今日は、騎馬戦バージョンで練習!」
昇がちゃっかり仕切っている。
疾風も楓も里琉も昇のテンションについていけない。
「誰が一番体重軽いかな..」
疾風が言い出すと、楓は少しドキッとした。
もしも、自分を持ち上げられるということは、体に触れるということ。
そうだとしたら、バレないだろうか..?
そんな心配があった。
「あ!そうだ、新牧が一番軽そうだね!」
「リレーだろ?誰が一番とかねぇよ!」
昇が鋭くツッコミを入れる。
「順番は!決めるでしょ?」
「新牧は最後にとっておこう!一番軽いなら」
ここまで、何かを話しているのは昇と疾風だけ。
里琉は無言。
なじめないんじゃない、クールなのだ。
「あ、あの..」
「?」
「里琉は何番目がいい?ホラ..何か言ってくれなきゃ」
「2番目」
どうしてだろう?
「2番目は、距離を一段と開けられるチャンスがある。俺、陸上4年やってるから」
陸上選手は、リレーのときは2番目を取るのが普通らしい。
大体の周りのペースを見て、追い抜くか距離を離れることが出来るから..というのが理由。
つまり、疾風か昇から始まったとしても、どんな結果でも里琉なら心配ない。
まぁ、最後の楓の番が一番大事なのが事実だが...。
練習は日に日に、体になじみ、ついに明日は体育大会の日になった。