男装転校
現在2012年の6月。
向日葵ももうすぐ花となるこの季節。
彼女は、きっと予想もしていなかっただろう。
転校なんて。
プルルルルルル.........
プルルルルルル.........
家中に鳴り響く電話の音。
彼女、楓は慌てて電話を出る。
「もしもし?」
(お父さんだ..)
こんな早くから電話をかけてくるなんておかしい。
楓は少し疑った。
「どうしたの?何かあった?」
楓は日本で兄と一緒に暮らしており、父と母はアメリカで別々に暮らしている。
2ヶ月に一回は日本に帰ってくるため、苦痛はない。
(間違って、お前の名前で転校届けを出してしまったんだ)
「え?」
兄の皐月の名前と間違い、転校届けを出してしまったのだ。
高校のサッカーが日本2位に輝いたため、少し有名な高校に転校しようという話が進められていた。
彼女の名前は
新牧楓、現在高校1年生。
普通の私立高校に通う女子。
(お父さんはもう知らない!皐月と二人で話を進めてくれ!)
「ちょっと!」
話を続けようとしたが、父は電話を切った。
すると、兄の皐月が二階から下りてきた。
「楓、俺転校やめるんだ。父さんに悪いから、転校届けは捨てるつもりさ」
なぜタイミングよくそんな話になるのだろうと、
不満を持った楓だったが、しばらく兄には黙っていようと思っていた。
一先ず、父からのメールの住所を訪問してみることに。
「ここかぁ...」
今行ってる高校の倍以上の面積。
そして門も大きくて、何よりも校舎が二つ。
でも、生徒に顔を見られたら、二度とここには来られない。
そのため、すぐに家へ帰った。
髪を切りに行き、人生初のショートカットにした。
元々男っぽい顔と言われたことがあったから、男装には自信があった。
家また帰ると、兄は不思議な顔をした。
「先週まで髪伸ばすって言ってたのに、気が変わったのか?」
「う、うん!夏だからね」
疑いはしなかった。
一ため息をおいて、二階へあがる。
携帯電話で、その高校へ電話をする。
(はい、慶雲男子高等学園です)
「転校届けを出していた、新牧楓です」
少し低めの声で名乗る。
するとすぐに、
(はい、明日転校予定でしたよね?お待ちしております)
「学園について、もっと知りたくて...」
(はい!)
敷地面積は市内で一番大きいそうで、
慶雲男子高等学園のほかに、敷地内にル・クイーン女子高等学校があるらしい。
どちらとも開校5年目と、すごく新しくてキレイな建物。
男子校と女子校に分けられているが、恋愛禁止のような校則はないらしい。
約3年前から、寮生活制の選択が出来るようになっていて、
選択すれば自動的にB組になるらしい。
ル・クイーンも慶雲も一学年につき3クラスと決められていて、
B組は寮生活制を選択した生徒の集まりらしい。
(そうなんですか..分かりました)
「君は寮生活を選択していたから、明日はまっすぐ1年B組に行きなさい」
(荷物は軽めで、必要以外のものは持ってこないこと)
「わ、分かりました!」
電話を切った後、早速バックに必要な荷物を詰めた。
女子が使うものは必ずポーチに入れて、男子が使うものを一番上にした。
間違って開けられてもいいように。
次の日、
楓はまっすぐ1年B組に向かった。
B組でも、転入生が来ると聞いて、盛り上がっている。
「なぁ、転校生、どんなやつか予想しよーぜ!」
若宮昇、クラスで一番のムードメーカー。
「僕的にぃ...お肌がきれいならいいや!」
一瞬シーンとなった。
彼は榊疾風、2回に1回パックをする美肌男子。
「静かにしろよ?先生来たらお前ら怒られるぞ」
いつもまとめ上手な寮長の爽江結斗、草食系女子にモテる。
「なぁ、里琉、お前は誰だと思う?」
「さぁ..」
ル・クイーンで一番可愛いとされている女子と付き合っている、
モテ男子の片桐零と
その親友でもあり、プレイボーイで有名な高柳里琉。
こんなに期待されていることも知らずに、気合を入れて門を通る。
渡り廊下がキレイ。
そして、男子ばかりだから汗臭そうだなと思っていたけど、バラの香りがする。
『ごきげんよう』
女子2人が楓に近寄る。
「ご、ごきげ..!?」
すごくお嬢様なオーラ。
そして可愛い。
「今日はル・クイーンの1年生で作らせていただいた、お菓子をお届けします」
今日は..ということはいつもやっているのだろう。
「マカロンです、お気に召してくれるかしら...」
そんなことを言いながら、笑顔でスカートをひらりとして、
『ごきげんよう』
1年生の教室の方へ向かっていった。
廊下を走って、1年B組に入る。
すると、いっせいに楓のほうを見た。
「...........おぉ」
全員、席を立って、楓に近寄る。
疾風は、
「うんと...お肌はキレイ!」
肩をトンとたたいて、なぜだか認めてくれたようだ。
「あ、ありがと」
寮長の結斗は、
「よろしく、あとでお前の寮部屋を紹介する..っつうか俺らもシャッフルなんだ」
「シャッフル...?」
実は、今日から寮部屋をくじでまたシャッフルする。
というわけで、誰が楓と一緒になるかもまだ分からない。
零も近寄ってきて、
「よろしくな、新牧」
「よ、よろしくおねがいします」
礼儀の正しさにニコッと笑みを見せた。
そんな笑顔を見ると、楓も笑顔になった。
「よろしく」
クールに挨拶をする里琉。
「よろしく!」
テンションがあがって、笑顔でグットサインをしながら挨拶をする楓。
そんなテンションにイマイチついていけない里琉だった。
少し落ち着いていると、教室にさっきの二人の女子が来た。
「おぉ!亜癒」
手を振るその亜癒って人は、全員にお菓子を配る。
マカロンが3~4個袋詰めされたものを笑顔で。
彼女の名前は、
川内亜癒、零と付き合っているらしい。
もう一人の女子は、
桃栄沙奈である、男子からも女子からも人気がある。
配り終えると、スカートをひらりとして
「それではまた、お目にかかります」
『ごきげんよう』
静かに帰って行った。