第4ゲーム
ライバルは必要。どんなモノでも
「っと、言うわけで本日から転校してきた『メリー・インキューバル』さんです。はい、自己紹介して?」
「メリー・インキューバルです。突然の転校で色々分からない事がありますが、よろしくお願いします」
分かってる。あぁ、大丈夫だ。3人の視線がこっちに集まってきているのも感じる。だがしかし、だがしかしだ。俺だってこんな事聞いてねぇよ
昨日みんなで別れて行ったっきり、どっかに行って連絡しても何故か通話出来なかったし。一瞬、この電話一方通行かと思ったわ。
「ねぇ、あの子ってアンタよりも年下よね?」
「いや、それ以前に人間?」
真と雪穂が小さな声でこちらに話しかけてくる。いや、一応人形とかの生まれ変わりとかになってるんじゃないのか? いや、そんな詳しく聞いてないから人間かもしれんが。そんな事より色々聞かないといけない事があるだろ?
「んじゃ、メリーさんの席は……」
「はいっ!! はい、は~い!! ここが良いです!! この隣に来てください!!」
宏が飛び上がり、先生にアピールしながら自分の席の隣を指差す。しかしそこが偶然空席になっているなんて事は無く、両サイド共に着席している。何? 座ってる人どかしてメリー座らせようとしてんの? 馬鹿なんだな
「あははっ……。そんな事は無理ですから、メリーさんは一番後ろの席に座ってください」
「はいっ!! 大魔王ポジションですね!!」
訳の分からない事を言いながら、メリーは指定された席へスタスタと歩いていく。当然俺達の近くというわけでも無い。だが俺の顔を見ると満面の笑みを浮かべながらこちらに近寄ってくる
「これからよろしくね?」
「……はぁ。後でちょっと来い」
もうそう言うしかなった。ちなみにメリーは転校生特有の質問攻めにあっていた為、詳しい事情の説明は昼ごはんを食べながらするという事で3人には了解を取っている。だから今のうちは質問攻めにあっておいて、昼食は俺達が横から掻っ攫っていく感じで
「そして気がついたら、昼食になっていたの巻」
「いや、そんな簡単には時間は進まないわっ」
「お前こそ何言ってんの? 時間みろよ、時間」
宏に言われ、俺は教室に掛かっている時計に目を移す。そこには確かに8時を指す時計が置かれているだけだった。何を言ってんだよ宏は。時計の見方を忘れるなんて、小学校に戻った方が良いんじゃないの?
「一応言っておくけど、長針と短針の区別は付いてるわよね? 今は12時40分よ?」
「お、おい真。いくらなんでも俺だって――」
そう思いながらもう一度目を時計のほうに移す。すると二人の言っていた事が徐々に頭の中に浸透していく。そう、短針と長針を逆さに読んでいた。気づけば本当に12時40分となっているのだ
だったらHRから今までの時間は? 失った時間は、いったい何処へ行ったんです?
「おいおい、いくらメリーが心配だからってさ……。はぁ、知らねぇぞ? お前」
どういう事だ? そう聞こうと口を開きかけたが、宏の言わんとする意味がすぐに理解できた。
後ろから二つの禍々しいオーラを纏ったモノが、ガッシリと俺の肩をつかんできたのだ。誰かは……言わなくても分かるよな? 察してくれ
「私突然だけど、喉渇いちゃったなぁ!!!」
「私も急に炭酸飲みたい気分になってねぇ!!」
「い、今すぐ買ってきます」
『ふんっ!!』
うちの二人のお姫様は、どうやらご機嫌斜めの様だ。十中八九、俺のせいだというのは分かるけどさ。
メリーは転校初日だから、気にかけるのは当然だろ? いや、気のかけすぎで怒ったのか?
いまいちアイツらの考えが分からん。いつもなら真だけなのに、雪穂もって何かおかしい。これは本格的に、何か考えておかないとヤバイかも知れんな
「よしっ、行ったわね?」
「うんっ」
そんな背中を見ながら、真と雪穂は小さな声で会議を始めていた。宏は……もちろんはぶられている。女の戦場の中で、時に男とは虚しい存在なのだ。
そんな怪しげな会議を始めた二人は、メリーの顔を見ると怪しげな顔をしながら手招きする
「んっ? 私ですか?」
サンドウィッチを持参したメリーは、智幸が帰ってくるのを楽しそうに待っていたのだが二人の呼ばれてイスから降りてとてとて近寄っていく。
メリーの目はいつも通り純粋な目だ。しかし、手招きしている二人の目はおかしいな程に濁っている。そして謎の光でギラギラ光っている。その目は獲物を狙う、野生のライオンのように……
「お二人とも、私を呼びました?」
「えぇ、呼んだとも。その天然ぷりを発揮しまくるメリー、アンタをねっ!!」
ビシッ!! そんな音が聞こえてきそうな位に突き出された真の指。その表情を見て、メリーは一瞬驚いた顔をする
「アンタがどんな風にアイツを思ってるか知らないけど、悪いけど私達で取り合いしてるのよね。昔から。だから陰で頑張って来た私達の邪魔はしないでね?」
「いや、メリーが智幸と仲良くするのは良いけど、ちゃんと節度を持ってねって話」
はてなマークを頭に浮かべながらメリーは考える。確かに智幸は自分の事を、初めて見つけてくれて話してくれている人物だ。しかしそれはこの二人とて例外ではない。
智幸と仲良くしたいと思っているのは事実だが、この二人とも仲良くしたい。智幸の事を取るとか言っているが、メリー自身恋愛感情にはあまり得意な方では無いし、現段階で智幸の事を好きかと聞かれれば、それはLikeの方の好きだろう
「なるほど、お二人は智幸さんの事がお好きなんですね?」
「――ッ!? え、えぇそうよ」
顔が真っ赤になりながらも、一応は肯定する真。この会話を聞きながら宏は、智幸の前でもこの位素直なら進展があるのにと思いながらストローを口に咥えている
雪穂の方は、多少赤くなりながら平生を装う辺り真と同じ所がある様に見える
「大丈夫です。私は恋愛以前に呪いとか解かないといけないんで。詳しくは智幸さんが来てからお話しますけど、この学校生活で一つヒントが得られそうなんです」
「買ってきたぞ……」
校舎内に炭酸飲料が無いので、わざわざ外にある購買まで走ってジュースを買ってきた。雪穂の炭酸指定以外は何も言ってなかったので、この学校にあるわけの分からない飲み物を買ってきてやったぜ。
真には『ツンケンからし入りメロンしるこ』を、雪穂には『爆発、レインボー麦コーラ』を買ってきた。前者はからし入りで、メロンソーダとお汁粉を混ぜたジュース。後者はいろんな味がするが、最終的に麦茶とコーラを混ぜた残念な味になるコーラ。どちらもわざわざお金を出して買いたいと思わない代物だ。
パシリをさせられたんだから、この位の反抗は良いだろ? もちろんスタッフがただいまおいしく頂いて降ります
「んで、質問タイムしていいよな?」
「はい、大丈夫です。お兄ちゃんの言う事は聞くよう、お母さんからも言い付かってますので」
前みたいに俺の膝の上に乗らず、俺達の真正面にちゃんとした姿勢をしている。いわゆるお誕生日席みたいな雰囲気だ
「じゃあまず一つ目。苗字のインキューバルって何? アレが本名?」
「いいえ、二日位頑張って考えてお母さんと決めました。なかなかいい名前でしょ?」
「じゃあ次。何でここに転校出来たの? ってか何で来たの?」
「えっとですね、私の事を見つけてくれた人が居たって言ったら家族が一緒に居た方が良いって言って。で、呪いを解くには色んな人と一緒に居た方がいいだろうって」
ここだ。また言い出したこの『呪い』と言うフレーズ。呪いって、今までの話のニュアンスから言えば誰かと接する事で無くなって行くようだけど……
一番考えられるのは、彼女の『メリーさん』として語り継がれるようになった原因。つまり女の子に置いてかれた事かな?
「んじゃ、結構核心のところ聞くぜ?」
コクリと頷き、俺の目を見据えるメリー。俺も本当は聞かない方が良いかも知れないと思っている。だが、今後もこういった関係を続けていくのなら、絶対に知らなくてはいけないだろう。
協力できる事があるかもしれないしな
「そのいわゆる『呪い』ってヤツの話だ」
「うん、ちゃんと説明するよ」
そういうと持っていたカバンからルーズリーフを一枚取り出し、自分の目の前に置く。
そして筆箱からシャーペンを取り出すと、サラサラとペンを走らせる
「そもそも事の発端はお婆ちゃんの時。色々複雑な事情があったらしいけど、結果的にお婆ちゃんは人形の姿で女の子から捨てられた。それだけならよくある話だけど、お婆ちゃんは特にその子に構って貰っていて少しだけ人間の情が移っていたのね」
そう言いながら、先ほど書き込まれたお婆ちゃんという単語の下に動けるようになると書き込む。
「妖怪って言うか、私達みたいな人間とは違う存在になるのは様々な理由がある。私のお婆ちゃんの場合は、女の子とまた遊びたいって言う強い願望がそれを叶えてしまった」
「そこまでは聞いた話通りだ」
「それで女の子の元へ行くけど、怖がって拒絶されて……。結局お婆ちゃんは次の女の子を探しに行った。自分を必要としてくれる女の子を」
ここまではメリーがこの前簡易的に説明してくれた話と同じだ。ペンを走らせるメリーの顔を伺うが、別段戸惑っている様子は無かった。おそらくこの数日の間に色々考えてきていたんだろう
「でも、全部ダメだった。当たり前だよね? 人形が喋って近づいてくるなんて、普通じゃないもん。そしてお婆ちゃんは一つの呪いを作ってしまう」
ピンッと一瞬で空気が張り詰める。ここにいる4人が、同じように息を呑むのが分かる。メリー自身も、深刻な顔をしながら俺達を見つめ――そしてペンを走らせながら
「私達は必要とされてない。こんな悲しみを味わう位なら――『皆同じ目にあえば良い』って」
少し悲しそうな顔をしながら、メリーはその事を告げる。つまりあれか。彼女に近寄ったら、不幸な事や悲しい事が起こるって話か? どっかのライトノベル的展開だなぁ、おい。
でも、彼女はウソを付いていない。短い付き合いだが分かる。そういったうまい冗談を言えるような子では無い。不器用でも真っ直ぐに進もうとしている、まるで……
「そしてそれは直ぐに願っちゃいけないって事にお婆ちゃんも気づいた。でも遅かった。その呪いは、代を重ねても消える事は無かった」
「で、俺達と一緒に居ると解けるかもって意味は?」
「それはね、呪いの根本が人間からの拒絶でしょ? だから皆と居れば、人間はこんなに素晴らしいモノだと分かって解ける気がするの。迷惑をいっぱい掛けちゃうかも知れないけど……。呪いも抑える事は出来るようになってるの!! だからっ!!」
精一杯の気持ちをぶつけてきた。一生懸命で、真っ直ぐで、それでも力弱くて、誰かが支えないと折れそうな……。それでも自分の思いを貫き通そうとする
「ダメだ何て言うわけ無いだろ? これからよろしくな、メリー?」
「えっ……」
うれしいとか悲しいと言う感情以前に、疑問が心の中を埋め尽くす。いったい何を自分は言われたのだろうと。どうせ半信半疑だったんだろ? 色々考えて、俺達に迷惑掛ける事が分かっていて……。それでも自分の、自分達のせいでこれから不幸になる人が出てくるのを防ぐため。
メリーはずっと探してたんだ。自分を見つけてくれる人を。自分を助けてくれる人を。だから俺が、俺達がその人になってやらなきゃいけないんだ
「だから一緒にやってこうぜ? 呪いとか抜きにして、友達としてさ」
そういいながら手を握ってやる。何か隠していたりしたら俺も怒ってこんな事しなかったかもしれない。
でもちゃんと話してくれたコイツにはちゃんと協力してやりたい
「うっ……ひっ……」
「なっ!?」
何故このタイミングで泣き始めるの!? やめてくれよぉ!! また前3人が微妙な顔をになっているじゃんかよぉ!!
「な~かしたぁ~、なかしたぁ~」
「せんせいにぃ~、いってやろぉ~」
待てやお前ら。俺良い事したはず。何で責められる?
俺いい子。お前らいじめっこ。いじめよくない!!
「ひっぐっ……ごれがらぁ……よろじぐぅ……」
「はいはいよろしくね。ほらっ涙拭けよ、涙」
ポケットにあったハンカチを使って、メリーの涙やら何やらを拭く。いや、何かとは言わないけど
こうして俺達は正式に、仲間になったのであった
「へっ、気にいらねぇなぁ」
そんなやり取りが行われているのを、遠くから見ていた風間泰司は怪訝そうな顔をしながら愚痴をつぶやく。その声に一瞬ドキリとしながらも、後ろに居た桐山と福本が続けて声を掛ける
「い、いいんじゃないですか? 転校生と仲良くなる事くらいは」
「そ、そうです。兄貴もアレくらい皆さんと――」
そう言い掛けた途端、福本の足は地面から既に離れていた。首元が苦しい。制服の襟を捕まれ、おそるべき腕力で持ち上げられているのだ。
そして殺意のこもった目つきでもって、福本を睨み付け
「てめぇは俺に指図出来るほど偉くなったのか? あァ?」
「そんなつもりじゃ……」
そう呟くと、まるでゴミを投げ捨てるかのように福本を投げ捨てる。
ドサリッ。冷たい地面に投げ捨てられた福本は、なす術も無くただ地面へと這い蹲っている。そんなヤツを見るわけも無く、同じように冷ややかな目をしながら
「おい、もうそろそろいいだろ? アレやっぞ」
「えっ? でも、アレは結局やらないって事になったんじゃ……」
次の瞬間には桐山が福本の上に覆い被さる様に殴り飛ばされていた。そしてそのまま後ろを振り返らずにその場を後にしながら
「智幸。俺はお前みたいにはならねぇ。絶対にな」
さて、最後に現れた見るからにやばそうな方。コイツがどんな風に絡んでくるかは直ぐに分かるでしょう。
ある意味彼も純粋なんですけどね