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第2ゲーム

もう少しだけ続くのよ、この練習風景は



「あーダメ。もう死ぬ。絶対死ぬ」


「頭痛ぇ……。足パンパン。もう無理」


俺と宏は同じように、バスケットコートに大の字に寝転びながらそう呟く。結局あの言葉では、逃げ切る事は出来なかった。実際その言葉を言った瞬間、真の顔が引きつったのが分かったからな。

地獄の千本ノックみたいな感じで、ボールを散々ぶつけられた挙句殴られましたから。頭ズキズキします、本当に


「まぁ、災難だったね。メールした時から、真は出来上がってちゃったから」


「いや、雪穂がメールしなかったら危なかった。これ以上酷い事になってたかもしれないから」


近寄ってきたのは御庄寺雪穂。中学の時から帰宅部を貫く少女だったのだが、俺達の事を真に聞いてから何故かこの同好会に入ってくれた。運動神経は割かし良い方で、最近では真に負けず劣らずなプレーをする時もある彼女。

真とは打って変わって性格が良く、成績も優秀。俺達バカ一同に勉強会を開いてくれる、頼もしいお方である。そんな彼女がさっき俺にメールしてくれたおかげで、俺達は遅刻していることに気付いたのだから感謝しなければならない。


「とりあえず私達もアップ終わったから、水分補給してから始めよっか?」


「まぁ、これで練習始めて倒れられても困るのは私達だからね。じゃあ、アタシ達はコートで適当にシュート練習してるから、適度に休憩取ったら来なさいね」


そういって真と雪穂はそのまま歩いてコートへと向かう。もちろん汗を拭くためのタオルを首から掛けて、水分補給用のスポーツドリンクを飲んでいるけど俺達は後10分位このままで居ないと回復は無理そうね。だって、全力のシャトルランを終えたばかりなんだよ? 不思議に思うのならやってみればいい。こうやって話すのも辛い程になるか、そのまま地面に寝転んでしまう位になるだろうから


「ちょっと!! いくら休憩上げるって言っても、そんなにずっと居たらせっかく温めた体が冷えるじゃない!! もう休憩終わり。とりあえずシュートから始めるわよっ!!」


「だってさ、宏」


「悪ぃ、智幸。俺、日本語通じねぇみてぇだわ。先行っててくれ」


俺だって同じ気持ちだバカやろう。せめて後3分位休憩入れてからじゃないと、間違いなく死ぬ。絶対に死ぬ。多分足とかつりそう


「おーい、真ぉ。コイツが練習なんかしたくないってさ。鬼畜女帰れって!!」


「なっ!? お前、俺を売ったな!?」


いや、日本語通じないんでしょ? アナタ。だったら俺が何を言ったか分からねぇよな?

悪いとは思うよ。でもさ、こうすればお前犠牲になって俺は休憩できる。これで万々歳じゃないか? ってな


「とりあえず宏。そこから動かないで頂戴? 狙いがずれるから」


「おま、ばかじゃねぇのか!?」


そう言いながらすかさずその場を離れて逃げていく。それこそさっきのシャトルランを超えそうなスピードで走っていく。人って命の危険に晒されたらあんなスピード出るんだな


「とりあえずシュート練習するか? 雪穂」


「あっ、うん。そうだね」


とりあえず俺はカバンからボールを出して、そのままとりあえずボールをつく。ポーンポーンと手に引っ付いてくる感覚を俺に与えてくれる。よし、いつも通りの跳ね具合だ。大丈夫

まずは小手調べだ。ワキを締めながらボールを頭の上の方に持ってくる。この時、ボールの場所へと肘を無理やり合わせなくてもいい。腕は一直線になっているほうがシュートがぶれない

そして膝を柔らかく曲げる。力む必要は無い。脚に力を加えるのではなく、ただのばねだと思い込む。曲げる。俺が一瞬縮み、そして停止する。そのまま反発するばねの様に、そのまま上がっていく。


「ふっ――」


自分の体が伸びきった瞬間、俺は飛ぶ。軽いジャンプ程度でいい。ふわりとした感覚が俺を包む。ゆっくりと体が上がっていく。そして、感覚的に分かる。もう少ししたら落ちて行く事が。だから直ぐに腕を伸ばし、ゴールの方へとボールを飛ばす。下手な力を入れると、逆に方向が違う方へと向かってしまう事がある。だから俺はしっかり指を伸ばす事だけに集中する

ボールは俺の手から離れていくと、ゆっくりとした放物線を描きながら自分が納まるべき場所へと向かっていく。そして――


パサッ


俺が着地すると同時に、ボールがネットを触りながらゴールをすり抜けていく。後ろのボードにも、リングにも当たらない形


「いやぁ、流石ですねぇ。わっちにもその上手いシュートを教えてはくれまいか」


「何だその変なキャラは?」


「キャラ作りから大切かなって?」


そんなクエスチョンマークを頭の上に浮かべた表情されてもこまります。アナタ、ただの電波系の残念な人になっているのですよ。そもそもわっちって一人称は聞いた事が無い。

別にシュート練習自体、俺は嫌いじゃ無いから付き合ってやるけどさ


「まぁいいよ。ほらっ、そこに立って」


「うわぁ、今真に見られたら殺されるよ。いや、面白いからいいけど」


バスケの練習だから良いだろ。別に雪穂に変な事をするわけでも無いから、真も怒りはしないでしょうね

いや真の事だ。変に俺が女子と関わると、イヤらしい事をするなどと言って怒ってくるから油断ならないんだけど


「まぁいいや。とりあえず雪穂は両手打ちだよな?」


「うん。腕の筋力そこまで無いからね」


両手打ちと片手打ち。片手打ちは自分の利き腕でシュートする。反対の手は添えるだけ。よく言うじゃん、右利きの人にバスケを教える時は左手は添えるだけって。でもその代わり、片手だけでシュートを届かせなければならないし、もう片方の手が邪魔になる時もある。

それに対して両手打ちは片手では届かない、女子を中心に使うシュート方法だ。力も両手で加えられるので、片手よりは打ちやすい。だけどその代わりシュートブロックされやすいのが欠点だ


「じゃあとりあえず構えてみろよ」


「OK♪」


そういっていつも通りシュートモーションに入る。別に悪い所は無い。至って普通のシュートフォームだ


「んじゃ、打ってみて?」


コクリと頷き、普通に足を曲げてそのままシュートを放つ。しかしそのボールの軌道は少しずつずれていき、結局ボールはボードに当たって跳ね返ってしまう。ゴールのリングにも当たらないで跳ね返ってくる姿を見て、少し不機嫌な顔をする


「とりあえず、もう少し楽なフォームで構えてみろよ。後シュートの時は、自分の飛ばしたい方向に指を向ける感じで」


「指に意識を集中させればいいんだね?」


「おう」


そう言うと、雪穂は再びゴールへと体を向けてそのままシュートモーションを構える。そしてさっきと同じようにシュートする。しかし先程とは違い、肩に力が入っておらず力んで居ない。指はしっかりと伸びており、そのままボールは放物線を描く


「入れッ!!」


シュートした瞬間、雪穂がそう叫ぶ。その願いを込めたボールは1度リングを通りすぎてしまう。雪穂は一瞬顔をゆがませかけるが、俺は笑ってしまった。

リングの後ろにはボートがあって、雪穂の放ったボールはそこへ当たり再び跳ね返ってリングの中を通過していく


「入った!? 凄い!! 10回に1回位しか入ってなかったけど、今のはすんなり入った!!」


「いや、雪穂は最初から運動神経がいいからしっかりしたシュートをすればちゃんと入るんだよ」


ピョンピョン跳ねながらこちらに駆け寄ってくる雪穂に、俺はそう告げる。もともと素質はあるのだから、後はちょっとした意識を変えればすぐにシュートなんて入るものだ。

ただし感覚を覚える為に、ずっとやり続ける事も必要だが


「にゅっふっふ。今なら真ちゃん達に勝てる気がするっ!! おーーい、真ちゃぁああああん!! ミニゲームしよぉ!!」


「お、おい。いきなり調子に乗るなって」


そんな事などお構いなく、雪穂はそのまま走っていき真にそんな相談を仕掛ける。

男女で分かれるため、雪穂と真が同じチームになる事は無い。俺達が一緒のチームになったら、その時点で色々試合にならない所が出てくるからって事が原因だけど

結局色んな意味で調子に乗った雪穂と、グロッキー状態の宏では相手にならなく負けて怒ってたけど

点数を取るはずの宏が終始バテ気味で気持ち悪そうな顔をしていたし、真の顔を見るたびに恐怖があらわになっていたし

雪穂のシュート成功率は少し多くなったけど、やっぱり実戦でのシュートは練習の時とは違いその場の状況とかで外してしまっていた。これは仕方ない事だけど、本人は納得がいかないらしく……


「ぶーぶー。何で真ちゃんはシュート入るのに、智幸君から教わった私は入んないの? 実は反則とかしてるんじゃないのぉ?」


「バカね。アンタとアタシじゃ年季が違うのよ。それにちょっと教えて貰っただけで上手くなったら、それこそNBA選手がいっぱいよ」


「そうやって上手く騙そうとしてるんじゃない?」


「そんなんだったら、始めから教えてないって。雪穂、俺のレイアップ成功率知ってんのか?」


宏が胸を張りながら雪穂に問う。正直あまり自慢できない事なのだが、宏のレイアップ成功率は極めて低い。普通のシュートやゴールに近づいてシュートするのなら、そこそこ成功するのだ。しかしレイアップと言う形になると何故かミスシュートしてしまうのだ

本人曰く、そっと置いてくるなんてセンターポジションの仕事じゃない。らしい

いや、センターとかポジションの前に基本のシュートが打てないとダメだろ。


「なるほど。年季が入っても下手な人は下手って言いたいわけね? それならなっとくするわ」


「いやね。自分で話題振ったのも悪いと思うよ? でもさ、そこまで貶す事無くね? ねぇ、何でよ?」


「レイアップの成功率上げれば何も言われなくなるぞ?」


ニヤリと笑いながら、俺は宏へと皮肉を飛ばす。親友だからこそだが、実際言われた宏はガックリと肩を落として地面にひざまずいている。

正直宏は力さえ抑えればシュートが入ると思うのだが。何度言ってもミスする辺り、宏はパワーバカと言われても仕方ないだろう


「とりあえず雪穂はあの感覚さえ忘れなければいいんだよ。1ヶ月位で形になるだろうからな」


「おーけーおーけ。直ぐに真ちゃんなんて追い越してやるんだから」


「言ってなさいな。シュートだけが全てじゃないんだし、そもそもシュートもろくに打ててないんだから」


「なにおぅ!! いいでしょう、いいでしょう。1on1やろう。残り時間で。先に一本決めたほうが勝ちね!!」


そう吐き叫ぶと、雪穂は俺からボールを奪い取りその場でドリブルを始める。そのドリブルは、始めた頃からは見違える程上手くなっており、手に吸い付くようなドリブルが出来ている。

つまりはボールを上手く扱っているのだ


「はぁ……。その場に止まってのドリブルは上手いけど、試合の時は動いて扱うのよ?」


外用のバッシューがキュッキュッっと良い音を鳴らす。変な所で真も意地っ張りだから困る。俺が相手でも、素人が相手でも本気を出そうとするから。前者ならいいんだ。俺だけじゃない。経験者なら本気でぶつかって勝負するのが当たり前だ。

ソレなのに彼女は素人相手でも本気を出す。それが原因で、前先生に怒られたなんて話もしてたな


「なぁ、智幸どっちが勝つと思う? 俺はいつも通り真に帰りのかばん持ち」


「りょーかい、りょーかい。俺は意外性に飛んだ雪穂に同じのを」


雪穂が真へパスを出し、真がそれを雪穂へ返す。1on1の基本的なやり取り。ボールを貰った雪穂がドリブルを始める。ドンッ ドンッ と一定感覚のリズムを刻む雪穂のドリブル。

この状態で本当は試合が始まっているのだが、ここで取りに行ったらそのまま抜かれてしまう可能性が高い。それは俺達と一緒に練習を始めた雪穂でもしかりだ


「さーて、アンタは何を掛ける? 私はミスするのに駅前のクレープ」


「ふふーんっ!! 私は今日こそゴールを決めれるのに、パフェ!!」


ドドンッ リズムが先程よりも断然早くなる。そして右へ、左へとボールを振り、早くそして遅くと緩急をつけながら抜くタイミングを定める。

対する真は腰を低く落としながら、足をステップしながらその瞬間を待つ。ステップをさせる理由は簡単だ。もし相手がこちらの来た時、地面に足が着いたままだといざ移動しようとする瞬間の一歩目が遅れてしまう。ステップさせておけば、いざ動こうとした時飛び出す事が出来る。


「いくよっ!!」


キュキュっと甲高い音が走り、ボールが強く跳ねる。真はまだ慌てない。ゆっくりと雪穂の出方を見る

雪穂はそのまま真の前までドリブルをして、そのままボールを股の下へと通す。

一般的な技の一つであるレッグスルーだ

だが、そんなターンなど真も見飽きてるらしく


「遅いわよっ? 雪穂」


「ッ!? それならっ!!」


左手に渡ったボールを手に、そのまま体を捻りながらその場で回転する。ターンでの回避は予想外だったらしく、真が珍しく反応に遅れる。

その瞬間雪穂は笑いながら、そのまま横を通りすぎる


「まだ止められるって!!」


しかし真とて中学はレギュラーをしていたのだ。急いで回り込みながら、雪穂の前に立ちふさがる。しかし雪穂相手に現段階でここまでやられるのは予想外だったのだろう。顔に焦りが見える

だけど雪穂には驚きだ。さっき俺達がやってたプレーから見よう見まねでやっているのだろう。だってまだターンの練習なんてしてないんだから。


「にょわっ!?」


抜いたはずの真が目の前に出てきて、一瞬驚く雪穂。いや、ここまで真を出し抜いただけでも凄い事なのだ。これ以上は流石の雪穂でも抜けやしないだろう


「これでも元バスケ部の意地があるんでねぇ!!」


手を伸ばし、雪穂のボールを奪い取る。流石に雪穂の偶然もそこまでだったようで、結局あっさりとボールが取られる。


「はい、これで私の勝ちね?」


ボールを回しながらの勝利宣言。その言葉に、俺と雪穂は同じように崩れ落ちたのだった



「えーっと次の練習って、いつだっけ?」


「……」


「確か金曜日じゃなかったか?」


「お財布……お札……さよなら、野口……」


「じゃあ次は私達と一緒に行きなさいよ? 今日みたいに遅れたら、今度こそダッシュ百本ね?」


そんな残酷な響きすらも、今の俺達の耳には聞こえなかった。

結論:俺……全員の荷物を持って、駅まで

   雪穂……駅で噂のパフェを真に奢る(野口さんが4人程財布から居なくなったそうだ)

次回から噂のあの人が出てきます!!

さぁ、ロリコニアに行く準備は出来ているか!! (ロリコン小説ではありません)

次回は明日のこの時間に!!

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