婚約破棄された地味な聖女ですが、私がいなくなった途端に結界も豊穣も崩壊したそうです
お楽しみいただけましたら幸いです。
「やっと戻ったか。だが残念だったな、キエラ。お前の居場所はもうこの屋敷にはない」
一ヶ月ぶりに戻った伯爵家の玄関先で、私は婚約者に追い出された。
領内を回る仕事を終え、領邸へと帰ったキエラが馬車から下りると、屋敷の前に婚約者のレオリオが待っていた。
泥に汚れた旅装のまま立つキエラを、レオリオは冷ややかに見下ろした。
その隣では、同僚であるサンドラータが当然のように彼の腕にしがみついている。豊かな胸を押し付けられ、レオリオはだらしなく頬を緩めていた。
「教会から正式な婚約解消の書類も届いている。今日をもって、お前との婚約は終わりだ」
「……なぜ、ですか?」
「なぜ? 本気で分からないのか?」
レオリオは鼻で笑う。
「お前は地味で愛想もない。その上、女としての魅力も皆無だ。よくそんな薄汚れた格好で俺の前に立てるもんだな。見ているだけでげんなりする」
「キエラ様って、聖女のお仕事しか取り柄がありませんものねぇ」
サンドラータが口元を押さえ、くすくすと笑った。
「そういうことだ。だが、その役目もこれからはサンドラータが果たす」
「……サンドラータが?」
「ええ。わたくし、あなたと違ってレオリオ様をお支えできますもの。ひと月もこんな素敵な殿方を放っておくなんて信じられませんわ」
サンドラータはさらにレオリオの腕に胸を押し付ける。
「優秀な聖女であるわたくしが居ればキエラ様は不要、とレオリオ様が仰いますの」
「そもそも、美しいサンドラータに、ひと月もかけて領内を回るような過酷な仕事をさせられるわけがないだろう?」
レオリオは当然のように言い放った。
「そういう泥臭い役目は、お前のような取り柄のない女がやればいい。だが妻にするなら別だ。私は、美しく、愛らしく、男を立てることのできるサンドラータを選ぶ」
そして、見せつけるようにサンドラータの細くくびれた腰を抱き寄せた。
「色気も胸もないお前ではなくな」
ぽよんとサンドラータの胸が弾む。
キエラは無意識に自分の胸元を見下ろした。
くそぅ、やはり巨乳がいいのか……。
「勘違いするなよ。お前は捨てられたんだ。私に選ばれなかった女に、この屋敷へ入る資格はない。荷物は後で教会に送ってやる。さっさと帰れ」
それだけ言うと、レオリオはバタンと玄関の扉を閉めた。
ぐっと握りしめた拳を震わせながらもキエラは踵を返し、馬車へと戻った。
***
聖女とは、聖力を持つ女性の総称だ。
聖力は様々な奇跡をもたらすが、中でも有用とされるのが「結界」「豊穣」「治癒」の三つだ。
このうち一つでも扱える聖女は希少であり、各地から求められる存在となる。
神殿に戻って一ヶ月程。
仕事に勤しむキエラの元に友人が尋ねてきた。
「ごきげんようキエラ、久しぶりね」
「ごきげんようフォーサーズ侯爵夫人。ご無沙汰しております」
互いにカーテシーで挨拶を交わす。
サラサ・フォーサーズ。ミルクティー色の髪と新緑色した瞳。男爵令嬢から聖女になり、高い能力と礼儀作法を身につけたサラサは、侯爵家嫡男に見染められ結婚と同時に侯爵夫人となった。
「ちょっと、聞いたわよ。婚約破棄されたんだって?」
侯爵夫人のそれではなく、昔の話し方に変えたサラサにキエラは笑みを浮かべる。
「そうなのよ! 私との婚約を破棄してサンドラータと婚約したいって言われたわ」
「え? 正気なの?」
「ええ。サンドラータの胸に鼻の下を伸ばしていたわ。やっぱり男性は胸の大きい方がいいのかしら?」
キエラはサラサの胸に目を向ける。サラサもまた立派なものをお持ちだ。
「いやいや、胸のサイズを差し引いてもサンドラータはないと思うけど」
胸のサイズ云々を否定しないサラサにぐぬぬと唇を噛む。
「はいはい、胸ね。胸が大きいからといって領地が豊かになるわけじゃないでしょう?」
「そうだよね、見た目で領地経営が成り立つわけでもあるまいし……でも思いっきり見た目を貶されたわ」
「夜会のたびに好き勝手言われているわよ」
社交界では、レオリオとサンドラータが都合のいいように吹聴しているらしい。
お茶をしながら詳細を聞くと──
「私が聞いたのは、優秀で美しい聖女サンドラータに嫉妬して酷い虐めを行っていたキエラを婚約者だったレオリオが役目と称してサンドラータから引き離し救った、という話よ」
「なにそれ」
「もちろん、私は信じていないわよ。でも、キエラにいまだに婚約者が決まっていないのは無能で悪辣であることが事実であるから、との声はあるわね。婚約の話はまだ出ていないの?」
「うーん、私自身婚約に関しては大して興味もないんだけど、教皇様からは何も」
「教皇様も、そんなキエラの意思を尊重していらっしゃるのかもしれないわね。でもキエラが悪く言われるのは腹が立つわね。追い出されたんでしょう?」
怒りを露わにするサラサ。
キエラとしては、分かってくれている人が分かってくれていたらそれでいいのだが、サラサにとっておきを話す。
「そうなのよ。領地を回って一仕事終えた私を神殿に追い返したのよ。酷いと思わない? 本当なら共に領地を回るのが筋だと思う。それなのに、全部私に丸投げで、戻ってきたら屋敷にも入れないで玄関先で婚約破棄って言われて、追い返されたわ。杭打ちみたいな過酷な仕事はサンドラータにはさせられないんですって!」
「え? 玄関先で追い返されたの? 杭打ちの後に?」
キエラはニヤリと笑う。
「そう、玄関先で」
サラサもにんまり笑う。
「それは、サンドラータ大変ね」
「ええ、本当に」
二人で顔を見合わせ、くすくす笑う。
***
婚約破棄から半年後、キエラは王家主催のパーティーに参加していた。
「おや……これはこれは。まだ社交界に顔を出せるとは、なかなか図太いな」
レオリオはグラスを揺らしながら、嘲るように笑った。
「君がどれほどサンドラータを苦しめたか、すでに皆知っているというのに」
「……」
レオリオが大袈裟に三人を取り囲む聴衆へと手を向ける。
「わたくし、本当に怖かったんですの」
サンドラータが震えるふりをして、レオリオの腕にしがみつく。
赤いドレスの胸元はこぼれ出そうな程大きく開き、太ももまで大きくスリットが入り、品位よりも扇情が勝って見えた。
「キエラ様は嫉妬深くて……何をされるか分からなくて……」
「はは、安心しろ。もうこいつがお前に近づくことはない」
レオリオは楽しげに口元を歪めた。
キエラは首を傾げる。
「私、サンドラータ様に何かしましたでしょうか」
「なっ……!」
「何かした覚えがなくて……申し訳ありません」
全く覚えがなく、キエラは首を傾げて思案する。
「しらばっくれるな! 君より能力の高いサンドラータに嫉妬して自分の仕事を押し付け、勉学に励むサンドラータを嘲笑っていたそうだな。だがまあいい何しろ私は、この女をきちんと追い出してやったのだからな」
パチンと扇子の閉じる音がして、サラサが輪の中へと一歩出て問いかける──
「……追い出した、ですか?」
侯爵夫人が現れたことで、レオリオはさらに得意気に応える。
「ええ。領内を回って杭打ちを終えて戻ってきたところを、そのまま玄関先で追い返したのです、無様にね」
わざとらしく肩をすくめる。
「フォーサーズ侯爵夫人もキエラの悪評は聞き及びになられているでしょう? 彼女は我が伯爵家の屋敷に入れる価値もない女だ。サンドラータを虐めた彼女には相応しい扱いでしょう?」
くすくす、とサンドラータが笑う。
「当然ですわ。あのような方を中に入れるなんて、空気が汚れてしまいますもの」
「……そうですか」
キエラはわずかに首を傾げただけだった。
「それより、サンドラータは杭打ちを問題なく行えましたか?」
「は? サンドラータがなぜ?」
レオリオが眉をひそめる。
「何の話だ」
「いえ、杭打ちのあとでしたので」
「……」
一瞬の沈黙。
その場にいた数人の聖女が、ぴくりと反応した。
小さく、しかし確かにざわめきが広がる。
「……杭打ちの“あと”って言った?」
「え、待って……それって……」
「まさか、結びを……?」
声は抑えられているが、明らかに動揺が滲んでいた。
一人の聖女が青ざめた顔で呟く。
「本邸に入ってないってことは……結びの儀式、してないのでは……」
「嘘でしょ……それ……やばくない?」
「結びなしで半年保ってるのが異常なのよ……」
「それ、完全にキエラ様の残存聖力じゃない……?」
しかし、その異変に気付かないレオリオは鼻で笑う。
「くだらん。そんなもの、サンドラータがすでに結びの儀式を終えている。キエラが大袈裟に言っていただけのことだろう?」
「……え?」
思わず驚きの声を上げる。
レオリオは杭打ちではなく結びの儀式と言った。
「サンドラータ様が結びの儀式を行ったのですか?」
「当然だ! ダイナール家の聖女だぞ」
「それで、きちんと儀式は行えたのですか?」
「当たり前だろう! 儀式はきちんと行われている。そうだろう? サンドラータ」
「え?」
小さく、サンドラータの声が揺れた。
「結界は問題なく機能している! そうだな?」
レオリオが当然のように言い切る。
サンドラータの顔色が、目に見えて青くなっていった。
思案顔のキエラの代わりにサラサがレオリオに問う。
「お言葉ですが、ダイナール伯爵令息。キエラの聖女の能力は規格外です。私ですらキエラの杭を結ぶことは不可能です。恐らくそれをやるには私レベルの聖女三人分の能力が必要でしょう」
「は?」
侯爵夫人ともなれば、聖女の能力は抜きん出て高くなければなる事は出来ない。そのサラサが三人必要といえば、キエラの能力の高さは計れる。
「しかしまだ婚約者もいない。そんなに能力が高いというのなら引く手数多。すでに決まっているはずだろう?」
「それは私が辺境にいたせいだ」
静かな声が響く。
そこには第三王子であるフィルシオン・アイラルティール王子殿下が立っていた。
「うそ……」
サンドラータ愕然と呟く。
第三王子と言えば、聖女を護衛する隊の責任者だ。年に一度、数ヶ月をかけて聖女が国中を巡る任務がある。
その旅に同行し、護衛をする役目を武芸に秀でた第三王子とその部隊が担っていた。
聖女の殆どがフィルシオンに守られたことがあり、一度は彼に恋をすると言われている美丈夫だ。
今回のこのパーティーも、その旅から無事帰還した一行を労うためのパーティーだった。
「キエラとの婚約は、婚約破棄されたその日に王家から申し込んでいる」
「え? 王家?」
フィルシオンはキエラの隣まで来ると、肩を抱いた。
「キエラは王族に入れるだけの能力も知識も作法も有している優秀で素晴らしい聖女だ」
「私たちの婚約については本日公表する予定でした。王家よりフィルシオン様が戻るまで内密にと。婚約の打診というか、予約はすでに教会が婚約解消の書類を作成した時点で行われていたそうです」
「そんな……」
「キエラの優秀さを知りもせず、手放すとは。ダイナール伯爵家は見る目がないな。まあ、そのお陰で、私は素晴らしい伴侶を得ることができる」
キエラの手を取ると甘く微笑んで、指先に口付けた。キエラの頬が一気に紅潮した。
空気が完全に王子側に傾いた中、サンドラータが一歩踏み出した。
「お、お待ちください……フィルシオン殿下」
震える声。しかしその目には焦りが滲んでいる。
「何だ」
フィルシオンは視線だけを向ける。温度は一切ない。
それでもサンドラータは縋るように距離を詰めた。
「わたくしも……聖女でございます。結界も、豊穣も……これからいくらでも身に付けてまいりますわ」
そう言って、そっとフィルシオンの腕に触れる。
柔らかな胸が、意図的に押し付けられた。
周囲が一瞬、息を呑む。
「どうか……お側に置いていただけませんか?」
甘えるような声音。上目遣い。
だが──
「離れろ」
低く、短い一言だった。
サンドラータの肩がびくりと震える。
フィルシオンはわずかに眉を寄せ、腕を引いた。
「護衛任務中にも言ったはずだ。不必要に距離を詰めるなと」
その声には、明確な拒絶が含まれている。
「っ……で、ですが……!」
「それに」
言葉を遮る。
「君は“できる”と言ったな」
サンドラータの顔が強張る。
「ならばまず、自分の領地を守ってみせろ」
冷ややかな視線が突き刺さる。
「出来もしないことを口にする者を、王族の側に置く価値はない」
完全な断罪だった。
サンドラータの手が、力なく離れる。
その様子を横目に、フィルシオンは何事もなかったかのようにキエラへ向き直る。
フィルシオンに拒絶され、空気が凍りついたその直後。
その静寂を破るように、会場の扉が勢いよく開かれた。
「し、失礼いたします!!」
息を切らした騎士がなだれ込む。
場違いな乱入に、貴族たちがざわめいた。
「何事だ」
フィルシオンが一言で場を制す。
騎士は膝をつき、声を張り上げた。
「ダイナール伯爵領より急報にございます!」
レオリオの顔がぴくりと引きつる。
「報告せよ」
「はっ! 領内各地に設置された結界杭が次々と破損! 結界が消失し、魔物が流入しております!」
「なっ……!?」
どよめきが広がる。
騎士は止まらない。
「さらに、作物の急激な枯死が確認されております! 豊穣の加護も完全に消失したものと……!」
サンドラータの顔から、さっと血の気が引いた。
「ば、馬鹿な……そんなはずは……!」
レオリオが叫ぶ。
「結びの儀式は済んでいる! 問題ないはずだ!」
その言葉に、周囲の聖女たちが一斉に顔を歪めた。
「……済んでいれば、こんなことにはなりません」
「結びなしで今まで保たれていた方が奇跡なのです……」
小さな、しかし決定的な声。
騎士はさらに追い打ちをかける。
「現在、被害は拡大中! すでに複数の村が魔物に襲撃されております! 至急、聖女による再構築が必要かと!」
沈黙。
全員の視線が、ゆっくりと――キエラへと向く。
そして次に、サンドラータへ。
「……サンドラータ」
レオリオの声が震える。
「お前が、結びをしたんだろう?」
「わ、わたくしは……その……」
言葉が出ない。
「やったんだろう!? お前は出来ると言ったじゃないか!!」
縋るような叫び。
サンドラータは、ただ首を振るしかなかった。
「……でき、ません……」
その一言で、すべてが終わった。
フィルシオンが静かに口を開く。
「当然だ」
その声は冷たい。
「キエラの聖力は規格外だ。あの杭を他者が結ぶことなど、不可能に等しい」
レオリオの顔が絶望に歪む。
「では……どうすれば……」
その問いに答えたのは、キエラだった。
「最初からやり直すしかありませんね」
あっさりと告げる。
「杭をすべて打ち直し、改めて結びの儀式を行う必要があります」
「そ、それなら――!」
レオリオが一歩踏み出す。
「キエラ! 戻ってくれ! お前がやれば――」
「お断りします」
即答だった。
「私はすでにダイナール伯爵家とは無関係ですので」
静かに、しかし完全に線を引く。
フィルシオンが一歩前に出る。
「彼女は王家の婚約者だ。軽々しく名を呼ぶな」
完全な格の差。
レオリオは崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
「……終わりだ……」
声にならない声が、喉から漏れた。
「別に意地悪で言っているわけではありません。今後も定期的に杭打ちと結びは必要になります。私がやってしまえば私にしか扱えない。私はもう無関係ですから、ダイナール伯爵家の聖女が行うのが最善です」
キエラの結びを扱える者は、今のところ誰もいない。
キエラがフィルシオンを見上げると、フィルシオンも心得た様に頷き一つ手を叩く。
「パーティーの最中ではあるが、緊急事態だ。ダイナール伯爵領が魔物に襲われている。直ちに対応しなければ民に被害が広がるだろう。この後すぐに隊列を組む。申し訳ないが協力を頼む」
フィルシオンの号令に、パーティーに参加していた騎士達が一礼し、会場を飛び出していく。
「今回の巡回に参加できなかった分私も尽力するわ。今回は一人でも多くの聖女の協力が必要です。戻ってきたばかりで申し訳ないけれど、出来るだけ参加をお願いするわ」
聖女達もキエラの言葉に頷き、会場を出ていく。
「わたくしも参りますわ」
「ありがとうサラサ。今は一人でも多くの協力が必要だわ」
「ええ、私のように引退している聖女たちにも声を掛けておきましょう」
「助かるわ」
サラサの言葉にキエラは微笑む。
キエラは一歩、レオリオに近づいた。
「……いい加減に、目を覚ましてください」
パシンッ——
「ダイナール伯爵令息、呆けている場合ではありません。すぐにサンドラータを連れて杭打ちを行ってください。でないと伯爵領は壊滅しますよ」
「あ……」
「嘆くのも反省も後にしてください。今は、杭打ちと結びを。サンドラータの結界でもないよりはマシです。その後のことは後で考えて、まずは行動してください。では、私も出ますので」
キエラはドレスを翻して会場を後にした。
サンドラータは、その場に立ち尽くしたまま、一歩も動けなかった。
***
聖女達や騎士達のお陰で、ダイナール伯爵領の被害は最小限で防ぐことができた。
しかし田畑の枯死や建物への被害が甚大で、ダイナール伯爵家は責任を問われている。恐らくは爵位を取り上げられ、平民に落ちるだろう。
レオリオはすでに廃嫡の上、責任を取って復興の労働者として過酷な労働をしている。
サンドラータは職責の放棄、虚偽により聖女の地位剥奪と生家の男爵家へと戻された。その後はどこかの商家の後妻に入ったと聞く。
キエラはフィルシオンと結婚し、聖女達をまとめ、フィルシオンと共に国内各地を巡る旅に参加していた。
「……相変わらず、無茶をするな」
「殿下こそ。あの距離で飛び込むなんて危険です」
巡回の途中、野営地での一幕。
「守るのが役目だ」
「私も、守る側です」
きっぱりと言い切るキエラに、フィルシオンは一瞬だけ目を細めた。
「……そうだったな」
小さく笑う。
「では、これからは並んで守るとしよう」
「ええ、その方が効率的です」
「効率、か」
「大事でしょう?」
即答するキエラに、フィルシオンは肩をすくめた。
「……全く、可愛げのない婚約者だ」
「今さらですね」
だが、その声音はどこか柔らかい。
焚き火の火が揺れる中、二人の距離は自然と近くなっていた。
「……ところで」
不意にキエラが真顔で言った。
「やはり殿下も、胸の大きい方がお好みですか?」
「は?」
フィルシオンが完全に固まる。
「いえ、以前そういう話がありまして」
真剣な顔で語るキエラに、僅かの沈黙の後──
「……関係ない」
即答だった。
「私が選んだのは、お前だ」
「そうですか」
あっさり頷くキエラ。
「なら安心しました」
「何をだ」
「余計な努力をせずに済みますので」
「努力する気はあったのか……?」
小さく息を吐きながらも、フィルシオンはどこか楽しげに笑った。
婚約破棄後、教会で
キエラ「おじいちゃんっ! これはどういうこと?ちゃんと説明して!」
教皇「おお、キエラおかえり。婚約解消のことじゃな。すまん、面倒をかけたな。キエラは優秀じゃから次の婚約はすぐに決まるじゃろうが、サンドラータはほれ、これを逃したら次は難しいじゃろう? 仕方ないのじゃ、許してやってはくれんかのう?」
キエラ「え、そういう理由?」
教皇「ほれこの菓子好きじゃろう? ここに座ってお食べ」
神殿のトップ教皇様は聖女達のおじいちゃん的存在の好々爺です。
次回のお話は──
不治の病を患う孤独な侯爵令嬢が唯一の支えである婚約者から離れて一人旅立とうとするが優しい人達に出会い穏やかに過ごす話。二部作になりそうです。ハッピーエンド作家です。お楽しみに!




