あと89日しか無いのか……。
カケルの友達のハルは、ネットゲーム『コスモキャンプ・オンライン』をプレイしていた。
上、横、奥の3次元の世界。
お城の前の、だたっ広い草原。
はねまわる敵キャラ「ユーナイト」。
ユーナイトの目はピカリと光った。
ユーナイトが右手の剣をタテに振ると、衝撃波が2つ飛んでくる。
(速っ!)
右ボタンを2回、素早く押してサイドステップ。ギリギリで回避。
(連続を当てる!)
「えい!」
ハルが動かすキャラクター「ブシルディ」は、ユーナイトの隙をついて、横に素早く回り込む。遠くから大きな炎を投げつける。その炎の後ろに隠れながら前ダッシュ。一気に距離をつめる。
ガガガガッ!
パンチを、ユーナイトに素早く打ち付ける!
(よしっ!)
敵のバリア攻撃に当たらないよう、ハルは下ボタンをカカカッと押して、三段小ジャンプで後ろに下がる。ヒット、アンド、アウェイ。
ユーナイトの頭の上に表示された体力ゲージは、もうほとんどない。
(とどめだ!)
その時。
右後ろの方に居た、”コービィ”が特大ジャンプ。
どがっ!
顔を、地面にたたきつけた!
「ユーナイト」が後ろを振り向く。
その背後には、コービィがもう居た。
コービィが跳ねるように起き上がり……
ぶしゃあああああああああ!!
鼻血を噴き出したコービィは、顔をブンと横に振る。
鼻血がおそう!
振り向いた敵、ユーナイトのお腹が、真っ赤に染まった。
……てってってっ。
ユーナイトは戦意を無くし、ウェットティッシュを取りに行ってしまった。
「くっそ! カケルのやつ!」
ハルはソファをボンとたたいた。
「あとちょっとで倒せたのに!」
画面には映らない。
でも、キュッキュッキュッという音は草原に響いた。
ユーナイトは、ウェットティッシュで、お腹に着いた鼻血をふいている。
ハルからは見えないところで。
「カケルはハナヂスプラッシュを使いすぎなんだよ!」
噴き出した鼻血で、敵の服をよごす。
服がよごれた敵は、「やる気」ゲージが減ってしまう。
それがコービィの必殺技の一つ、『ハナヂスプラッシュ』だ。
カケルはいつも、この技を使いたがる。
「平和な方がいいじゃん」とか言って。
敵を倒してゲットできるゲーム内のお金とか、カケルはどうでもいいらしい。
そこがハルには納得がいかない。
現実だってゲームだって、お金がなければなにもできないのに。
コービィはニコニコしながら、草むらの真っ赤なトマトをほおばっていた。
――出したぶんの血を取り戻すために。
《サービス終了まで 89日》
画面の上に出たその文字が、ハルを現実に引き戻した。
「……AIさんの件、兄ちゃんに聞いてみるか」
ハルはそう言って、ゆっくり立ち上がった。




