最終話 『アーカイ部』
年が明けて、少し時間が経って。
「あっ、ママがもう上にいるよ」
「ふぅふぅ。エレベータの方が速かったか」
ママが言った。
「はい。カケルが2番。パパが3番。
――パパはもっと運動した方がいいかもね」
地下鉄の階段をのぼって、外に出たら。
目の前には、大きな大きなビルが上に伸びていた。
「ここ」とぼくは指を差す。
「だね。『議員会館』っていうところだね。
えらい先生方がいっぱいいて、国のことをいろいろ考えてくれるところ。
ゲームのことも、考えてくれるところ」
パパがそう教えてくれた。
信号を渡った先にも、別の大きな建物が見えた。
ぼくは、その建物の方を見ながら言った。
「あっちが『国会図書館』だよ。この前、おじいちゃんたちと行ったところ」
「近いんだねぇ」
里中さんから、『ゲームの事を考えてくれている、議員さんがいる』って教えてもらったから、お話を聞きに来たんだ。
「入口で、弁護士の先生と、里中さんと、11時に待ち合わせ……だっけ?」とパパ。
「その約束だけど……里中さんは寝坊して、遅れてくるかも?」と、ぼく。
「まだ午前中だしね」と、パパ。
おじいちゃんが前に言っていたように、
『ゲームを残したい』って思ってる人たちは、世の中にたくさんいるみたい。
いまできることは、そういう人たちから、いっぱいお話を聞いておくことかな。
◇
学校では、宿題の、「将来の夢」発表の順番が、ついにぼくに回ってきてしまった。
クラスみんなの前で話すって、恥ずかしい。
でも、このくらいできるようにならないと、虹の先は見えない。
「将来の夢 4年2組 佐藤翔」
「僕は将来、ゲーム会社を作りたいです」
「会社名も考えました。『レインボーゲームス』と言います」
「お正月に、おじいちゃんの家で、ノートが出てきました」
「おじいちゃんは昔のゲームが大好きで、
そのノートに、どうやればゲームが残せそうか、
アイデアがたくさん書いてありました」
「ノートの名前は、”虹ノート”と言います。
そこからヒントをもらいました」
「ゲームという夢を、虹に乗せて、
虹を見る人に届けて、そして、
たくさんの人に覚えてもらえるようにしたいです」
「この前、CCOがサービス終了しました」
「ぼくはそれがイヤで、なんとか残せないかと思いました。
ハル、ミホといっしょに、
いろんな所に行ったり、
いろんなことを教えてもらったりしました」
「でも、CCOをなんとかすることは、『まだ』できませんでした。
『お金』や『権利』というむずかしい壁があるからです」
「いろいろと、わからないことだらけです。
でも、『権利』というものを持っているのはゲーム会社なので、
ゲーム会社であれば、できることが増えるみたいです」
「だから、ゲーム会社を自分で作って、
そこでゲームを作って、
できたゲームをアーカイブをすれば、
残せるんじゃないかと思いました」
「えっ? うん」
「……えっと、塩崎さんから今聞かれた、
『アーカイブ』というのは――」
「――”2回目のさよなら”が来ないように頑張る、という意味です」
「あっ、ごめん。ええと……。2回目っていうのは……」
「1回目のさよならは、死ぬことです」
「2回目のさよならは……、えーっと、みんなから忘れられることです」
「覚えてくれている人が誰かいれば、”2回目のさよなら”は来ません」
「ぼくが覚えていられればいいんだけれど、
ぼくもよく、宿題を忘れてしまったりします。
忘れずにいられるか、自信がありません」
「去年の終わりごろに、おじいちゃんが亡くなったのですが、
ぼくにもいつか、亡くなる時が来ます」
「だから、ぼくが覚えているだけではダメで、
たくさんの人に覚えていてもらう方がいいです」
「だからみんな、好きなものの写真をとったり、ノートにメモを残したり、倉庫にゲームをたくさん置いたりするんだと思います」
「『覚えてくれている人』が残るように、べつの人に、『思い出のバトン』をわたすのが、アーカイブです」
「えっ? うーん……わかりづらくてごめん。
これ以上うまく説明できる自信はないので、
”アーカイブ”で、検索してみてください。
授業で使っているタブレットで」
「ゲーム会社は、『部』というグループが、いくつも集まってできています。これは、ハルに頼んで、生成AIさんに聞いて調べました」
「この組織図を見てください。
あっ、先生、次のスライドに……はい。このスライドです。
開発部、広報部、営業部、といった部署があります」
「部には仲間がたくさんいるから、
一人ではできない、大きなことができるんだそうです」
「そこでぼくは、ゲーム会社を作ったら、そこに仲間を集めて、
ゲームをみんなに覚えてもらえる部を作りたいです」
「部の名前も、ハルとミホと話してこの前、決めました」
「その部の名前は――」
完




