北風と、太陽と、ゲーム会社
「パパ、ちょっとお願いがあるんだけど」
と、ぼくは切り出した。
「どうした?」
「おおの先生に連絡を取りたいんだけど、パパのパソコンを貸してもらえないかなぁって」
「おおの先生?」
「国会図書館の見学の時に、お世話になった先生だよ」
「……ああ。ママから前に聞いた、ゲームを研究している大学の先生のことね? でも、なんで?」
「国会図書館の人に、ハルが質問をしてたんだけど、そのお返事がメールで帰って来たんだ。
――で、”おやくそく”があれば、CCOみたいなネットゲームの保存が進むかもしれないんだって。
だから、もっとくわしく聞きたいなって」
「そんなの、メールで聞くのが早いと思うんだけど?」
「会っていろいろ聞いてみたい。どこにヒントが隠れているかわからないから」
そうしたらパパは腕組みをして、しばらく考え込んだ。
「カケル……お前は『これから』、何をやりたいんだ? そこを確認しておきたい。
――おじいちゃんが昔、ゲームを残す活動をしていたのは知っているよね?」
「うん。この前、里中さんから聞いた」
「おじいちゃんの活動の、バトンを受け取りたい……ってことなのかい?
おじいちゃんは『渡したくない』って言ってたはずだなんだけど」
「そうじゃないよ。
だってぼく、おじいちゃんが昔どんなことをしてたのか、全然知らないし」
「……まぁ、そうだなぁ」
「ぼくは、CCOみたいなネットゲームが残るチャンスを拾いたいんだ。もしそういうチャンスがあるなら、だけど」
「それは、おじいちゃんの時より、よっぽど苦しい道だとパパは思うけどなぁ」
「なんで?」
「レトロゲームは、買えば手元に置いておけるから自由に残せる。でも、ネットゲームはそうはいかないだろ? 里中さんたちですら『お手上げ』って言ってるんだぞ」
「やってみないとわかんないじゃん」
「本気か? パパは難しいと思うぞ?
――あんまり踏み込んで欲しくないとも、正直思ってる。
おじいちゃんみたいなつらい思いをさせたくないし」
「わかんない。わかんないから、わかるところまでやってみるんだよ」
そしたらパパは、頭をかきながら、部屋を歩き回った。
「うーん……。”おじいちゃんの後を継ぐ”んじゃないんだね?
自分の意志を貫きたい、ってことでいいのか?」
「うん。やれることはやりたい」
「そういう所は、おじいちゃんにそっくりだなぁ。
それがカケルの意志だっていうなら、尊重しないわけにはいかない。
やりたいことはやってみた方が、後悔しなくていいからな。
年明けの初売りで、”カケル用の”ノートパソコンを買おう。
今回については、パパのパソコンで、大野先生に連絡するってことでいいか?」
「うん。ありがとう!」
「ただし、1つ! すごくだいじなことがある」
と、パパが右の人差し指を立てた。
「なに?」
「『ルールに反することはやらない!』それは、守れるか?」
「えっ、う、うん……」
「ルールを無視すれば、実は、簡単に『できてしまう』こともあるんだよ。勝手にサーバーを作ったり、勝手にゲームをコピーして海賊版を作ったり」
「外国で、サーバーをプレイヤーが作って怒られたっていうやつ?」
「それもあるけど、例えば、入場料を取ってゲームを動かしたまま展示するのもルール違反だ」
「ルールの話はむずかしいよ……」
「そのあたりは、パパの友達に、ルールに詳しい人が何人かいるから大丈夫。その都度聞けばいい。なんでこんな話をするかっていうとな……」
「うん」
「ネトゲを保存したいのなら、権利者にケンカを売ったら、その時点でもうムリになるからだ。言っていること、わかるか?」
「うーん……ちょっとわかんない」
「”北風と太陽”というお話は知ってる?」
「うん、それなら知ってる」
「ルールを破ると、ゲーム会社から嫌われるんだよ。
ゲーム会社は、海賊版が憎くてしょうがないから。
ルール破りをすると、ゲーム会社に北風を吹きかけているのと同じで、
そこから先は、協力が得られなくなる。
それだと、”買えば自由に手に入るレトロゲーム”のアーカイブまでしかたどり着けない。
その先へ行けない」
「ええと……じゃあ、太陽の方になれってこと?」
「カケルは飲み込みが早いなぁ。
そう。ネトゲを保存したいなら、権利者と仲良く進んでいくんだ。
パパは、おじいちゃんをずっと見ていて、そう思うんだ。そのルートしかない」
「うーん……。
でも、ぼくがやりたいのは、それじゃないんだ」
「ゲーム会社にケンカを売りたいの? そっちはダメ筋だよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
なんて言えば、パパに伝わるかなぁ?
ぼくのこの考え方が。
「ぼくが、ゲーム会社になれば、国会図書館さんとかと、いい”おやくそく”もできたりするんじゃないかなぁって」




