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虹が消えた日

 ミンテンドーフイッチ、レッド! シャキーン!

 ミンテンドーフイッチ、ブルー! シャキーン! 

 ミンテンドーフイッチ、イエロー! シャキーン!

 ミンテンドーフイッチ、グレー! シャキーン!

 ミンテンドーフイッチ、サーモンピンク! シャキーン!

 頭がわりの、ゲームカード! シャキーン!


 変形! 

 タッチパネル折り曲げ!

 合体!


 超巨大ロボ、フイッチオー! ばくたん!


 ドドドオオオオオオ!!!!

 

 ・・・きなさい、


 ・・・カケル?


 肩が揺さぶられて、ぼくは目を開けた。


 ママが、忙しそうに着替えていた。


 しばらくして、家の外から車の音が聞こえてきた。

 ヘッドライトの光が窓からパッと入って来て、すぐ消えた。


「タクシーがもう来たから、荷物乗せてくるから」


「カケルは、ごめん、車の中で着替えて」

 と言ってママは、置かれていたぼくの服を大きなバッグにつめこんだ。


「なに? どこにいくの?」

 時計を見ると、夜中の2時ぐらい。


「おじいちゃんの、意識(いしき)が弱ってるんだって」


 わけがわからないまま、タクシーにママと二人で乗った。

 まだ眠い。 


 病院の周りには人が誰もいなかった。

 病院は真っ暗。

 まわりのお家も、薬屋さんも真っ暗。

 非常口だけが、緑色の光を出していた。


 ママを手伝って、小さなバッグを2つ持った。


 救急(きゅうきゅう)と書いてある受付で、ママが「佐藤(すすむ)の家族です」と言うと、「五階に上がってください」とカードを二枚もらった。


 エレベーターに乗って、ママがカードをかざしたら、五階のボタンが押せるようになった。病院の五〇二号室へ。


 パパが、パイプ椅子に座っていた。

 おじいちゃんは、ベッドに寝ていた。


 おじいちゃんの鼻には、とうめいのチューブが入れてあって、

 ぴー、ぴーという音だけがひびいていた。


「間に合ったか」

 ママとぼくの顔を見たパパは、大きく息をはいた。


「カケル、おじいちゃんの手を握ってあげて」

 ママに言われ、握ったおじいちゃんの手は、前よりうすくなっていた。


「親父。カケルが来たからな。ユキも」

 おじいちゃんの返事はない。目を閉じたままだ。

 

「おじいちゃん?」

 ぼくが声をかけると、おじいちゃんは、

 うっすらと開けた目を、窓のほうに向けた。

 口が何回か動いたけれど、何を言っているかは聞こえなかった。


「おじいちゃん、このあいだはごめんね」

 里中さんの倉庫に行ったとき、

 ぼくは、おじいちゃんたちにひどいことを言って、ママから怒られた。

 そのときの「ごめんね」を、ぼくはまだ伝えられずにいた。


 だから――

 ごめんね。


 おじいちゃんは、

 顔を少しだけ動かしたような気がする。

 目が少しだけ、ぼくの方を向いたような気がする。

 でも、その動きはすごく小さくて、

 もしかすると、ぼくの思い込みかもしれない。


 後ろにいた病院の人は、

「反応は無くても、きっと聞こえていますよ?」と言った。


「おくすりが入ってますから、痛みもないですよ」とも言った。


「痛みがなくて本当に良かった」

 と言ったパパが、あったかいジュースを買ってきてくれたり、

 電話をかけたり、

 ノートパソコンを開いて、どこかにメールを送ったりしていた。


 ぼくは眠くて、とちゅう、何回か寝た。

 どれくらいの時間がたっただろう。

 外はもう明るくなっていた。


 窓の外は、太陽が道路と、遠くに見える海とを照らしていた。

 建物があるから、光と、かげとがうかびあがる。


 ぷ、、ぷ、、ぷ、、と続いていた音は、

 だんだん間が広がっていった。


 そしてその音は、ついに聞こえなくなった。


 パパが、おじいちゃんに

「おつかれさま」

 と言った。


 ママはぐすっ、ぐすっ、と泣き出した。


 病院の人が、

当直(とうちょく)の先生を呼んできます」

 って、静かに言った。


 おじいちゃんは寝ている。

 苦しそうな表情はしていない。


 空気はひんやりだ。

 病院は静か。

 外は明るい。


 そして、窓から遠くの空に、


 虹が見えた。

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