ゲーム会社にまかせてもらえませんか?
画面の中のポヨミンをたくさん動かしたり、あちこちを見学したり。
満足したみんなは――
最初の部屋に戻って来た。
発売前のゲームを遊ばせてもらった部屋だ。
「……あれ?」
カケルが足を止めた。
部屋の中に、スーツ姿の、優しそうなおじさんがいた。
「はじめまして。タナベといいます。今日は、楽しんでもらえていますか?」
「タナベさんは、私の上司です」
ミホパパが、少し背すじをのばして言った。
「うちの会社の、えらい人ね」
「ちょっとやめてください? えらくなんかないですよ」
タナベさんはニコニコしていた。
その奥を見て、カケルは「えっ?」となった。
さっきは無かったダンボールが、ふたつ。
机の横に、どんどん、と置いてある。
(……あれ、いつの間に?)
「あの……ええと……こんにちは!」
ハルがあいさつすると、ミホとカケルも続いた。
「こんにちは」
タナベさんは、ハルたちの話を、ニコニコしながらいっぱい聞いてくれた。
「そうですか……それはよかった」
「楽しかったんだ。うん、私たちもうれしいよ」
「そうだね。次のゲームも面白いから、楽しみにしててほしいな」
お話が途切れたところで、タナベさんは、二つの箱のふたを開けて、中を見せてくれた。
「あっ! ポヨミンの人形だ!」
ハルが言った。……けれど。
「……なにかちがう。ポヨ……ミン?」
ミホは首をかしげた。
ポヨミンとは、形が少し違う。
目の大きさも違う。
「これは、ポヨミンの生まれる前の姿なんです」
タナベさんが言った。
「生まれる前ってなに?!」とハル。
「ポヨミンが完成するまでに、いろんな候補があったんです。これは、その中のひとつ」
「中間生成物って言うんだ。……“できる途中のもの”って意味」
ミホパパが、子どもたちの顔を見ながら、やさしく足した。
「どういうこと?」
カケルが聞いた。
「完成品としてゲームに出る前にね。たとえば――」
タナベさんは箱をゴソゴソして、今度は紙を取り出した。
「紙?」
「えんぴつ書きだ」
「ゲームを企画したときの、最初のスケッチです。こうやって絵を書いて、みんなで直しながら、ゲームを作っていくんです」
「へぇぇぇ……」
「ゲームって、そうやって作るんだ……」
いつも遊んでいるゲームの裏側に、そんな「前のすがた」がある。
カケルたちは、それをはじめて知った。
里中さんは小さくうなずいてから、ポツリと言った。
「……で。この“途中のもの”を守る場所って、今……国のほうでも、なにか動いてるんですよね?」
タナベさんは、コクンとうなずいた。
「はい。そういう動きがある……という話は聞いています。
マンガやアニメ、ゲームの”途中のもの”を守るための施設を――国のほうで、作ろうとしているそうですね」
「国立美術館が公開している計画書を読みましたけど、七階建てのビルになるらしいですね。その計画は、実際にはどこまで進んでるんですか?」
里中さんがストレートに聞いた。
タナベさんは、テーブルのコーヒーを一口飲んでから、ゆっくり言った。
「そうですねぇ……”国が建物を作る動きがある”というところまで、ですかね。
私が今ここで言えるのは」
「……そうですか」
里中さんは、それ以上は追わなかった。
「じゃあ!」
カケルが前に出た。
「そんな大きい建物でゲームを守るなら、CCOも! CCOのサーバも、そこに行くんでしょうか!」
タナベさんは、首を横に振った。
「……おそらく、ですが。それはないと思います」
「どうしてですか?」
「その施設が守ろうとしているのは、”途中のもの”――スケッチや、試作品のようなものです。
完成したゲームは、おそらく施設には入らないんじゃないかと」
「おかしくないですか!」
カケルの声が大きくなる。
「できたものは残さないで、できる前のものだけ残すんですか?」
ミホが、思わずパパの顔を見た。
ハルは、カケルの袖を引こうとして――でも、手を止めた。
カケルの表情が、真剣そのものだったからだ。
タナベさんは、言い返さなかった。
「カケルくんちょっと待とうか。そもそも、タナベさんたちがCCOを作ったわけじゃないし、タナベさんは国でも国立美術館でもないぞ?」
里中さんが言った。
「でも、おかしい!」
カケルは、まだ納得できない。
「中間生成物の件は、国が進めていることですから……私も、すべてを知っているわけではありません」
タナベさんは、正直そうに言った。
カケルの、にぎりこぶしが小さくふるえている。
それを見たタナベさんは、一呼吸おいた。
「私から言えるとしたら……」
タナベさんは、いったん視線を落として、続けた。
「ゲームの保存については……できるところは、ゲーム会社にまかせてもらえませんか?
守るには、いろいろな面があるんです。
……だから、やるのであればまず、”おやくそく”の中で”残せる形”を増やしてほしいんです」
言って、タナベさんは、また別の紙の束を、とりだした。
「これは……?」
「”ガイドライン”という、ゲーム会社とみんなとの”おやくそく”です――
”ここまでならいいよ!”
と言うおやくそくを、
いろんなゲーム会社さんが出しているんですね。
それを、小学生のみなさんでも読めるように、まとめてみました。
……もちろん、CCOを作ったゲーム会社さんのもありますよ」
タナベさんが出してきた紙は、何枚にもなっていた。
読みやすいように、大きな文字で、
『小学生さんは、ここまでならやっていいよ
ユーチューブみたいな動画で、実況してもいいよ
でも、お金もうけにつかっちゃだめ』
とかが、ゲーム会社ごとに、何個も書かれていた。
「このルールが書いてある場所」
という文の下には、
https://~~ という長い文字が並んでいた。
「今お渡しした紙は、同じ内容を、メールで後で送ります。ミホちゃんのパパから皆さんに渡して頂いてもよろしいですかね」
タナベさんがそう言うと、ミホパパは「承知しました」と言った。
紙の一番最初のページには、
タナベさんの会社「ソルトレイクゲームス」ではなく、
CCOを作っている会社のルールが書いてあった。
その紙を読みながら……
「ゲーム実況はやっていいのか。
―あと、ミホがやってる、あちこち写真取るのも大丈夫みたいだよ」
と、ハルが言った。
「よかった!」ミホが安堵の声を出した。
「撮った写真を売ったりしちゃダメって書いてある」カケルがそう言うと、
「わたし、写真を売ったりなんかしないもん。関係ないよ」とミホが言った。
ミホパパは、カケルたち三人がそうやって話し合うのを、小さくうなずきながら、じっと見ていた。
里中さんは目をそらして、何も言わない。
――しばらくしてから、タナベさんが口をひらいた。
「ゲームは、それを作るみんなの頑張りでできています。
その頑張りが、例えば”著作権”という権利で守られているんです。他にもいろんな権利があります。
みんなが頑張って作ったものを、
誰かが勝手にコピーして売って良いのだったら、
勝手にコピーした人が儲かるかもしれません。
でも、頑張って作った人が報われないですよね。
だから、権利というものがあるんです。ただ――」
タナベさんは、一息おいてから、声のトーンを少し変えて、やさしく言った。
「ゲーム会社も、プレイヤーさんに、たくさん遊んでほしいと思っています。
――だから各社がこういったガイドラインというルールを作って、
おやくそくの範囲で楽しんでもらおうとしているんです」




