ゲーム会社に潜入調査です! おや、カケルのようすが……。
「ビル、高っか!」
ハルが、首が痛くなりそうなくらい見上げた。
このビルの高層階に、ミホパパが務めるゲーム会社「ソルトレイクゲームス」がある。
ビルの中に入る前から、街には人がたくさん行き交っていた。
お仕事っぽい人もたくさんいるけれど、中学生・高校生ぐらいのお姉さんも連れだって歩いている。
「この辺りには、女性向けのお店が多いんだよ。執事って言って、スーツ姿のかっこいいお兄さんや、かわいいお兄ちゃんが、接客してくれるお店とかね」ミホパパが教えてくれた。
「へぇ~!」と、ミホ。
ビルの中を歩いて、エレベーターホールの近くまで来ると、周りの人の雰囲気は変わった。
首からカードをぶら下げている人が増えた。
ノートパソコンを抱えている人、カフェの紙カップを持っている人が目立つ。
「スーツの人がけっこういるね」
ハルは、まわりをよく見ていた。
「ゲーム開発の人は私服でいいんだけど、営業とか、お客さんに会う人たちはスーツなんだよ」
ミホパパがそう説明してくれた。
「俺も混ぜて?」
後ろから、里中さんがひょっこり現れた。
「「うわっ!」」
びっくりする、ハルとミホ。
「里中さん、今日は珍しく、スーツなんですね」
ミホパパが笑って言った。
「ゲーム会社に潜入でしょ? いつもみたいに、だるだるのシャツってわけにはいかないよ。えっと皆さん申し遅れました。本日は見学会に混ぜていただき、誠にありがとうございます」
里中さんは勢い良く頭を下げた。
「いえいえ。進さんからも、『よろしく!』って言われてますから」
ミホパパはそう言って笑った。
進さんこと、カケルのおじいちゃんは、今日は体調が良くなくて、来られないんだそうだ。
「じゃ、上がって、受付に行くよ?」
みんなは、ミホパパに続いてエレベータに乗り込んだ。
受付には女の人が二人、並んで座っていた。
「開発二部の横山です。11:00からのアポで、見学の皆さんをお連れしました」
ミホパパがそう言って、受付の人と話をする。
「あれ、見たことない?」
「ある。ポヨだ」
「ポヨミンもいる」
受付のテーブルの上には、ゲームに出てきたキャラクター「ポヨ」「ポヨミン」をはじめ、いろんなキャラクターのぬいぐるみが置いてあった。
「あっちの壁もすごいなぁ!」
壁一面に、ゲームのポスターが貼ってあった。
奥の方には大きなモニターがあって、ゲームのプレイ画面が映し出されていた。
「ミホパパすごくない? こんなところで働いてるのか!」
ハルが興奮気味に言った。
「うん、……そうだね」と、カケル。
「なかなか会社に入れてもらえないらしいけどね。ゲームが好きなだけじゃ」
ハルは、現実を知っていた。
ミホパパが、ミホを連れて戻って来た。
「あれ? 里中さんは?」
あたりを見回すと、里中さんは受付の奥の方まで一人で行って、
ポスターを見たり、並んでいる機器をのぞき込んだりしていた。
「里中さんが一番落ち着きがないなぁ」
ミホパパは笑って言った。
「受付、終わったよー?」とミホが言うと、
「まじで? もうちょっとゆっくりしてていいのに!」
と言いながら、里中さんが戻って来た。
「よし、じゃあ案内しますね。こちらへどうぞ」
ミホパパの背中を守るように、みんなは後に続いた。
「じゃあ最初は……カケルくんにお願いしようかな。そのカードを、ここに“ピッ”っとしてみて」
ミホパパが言った。
ガラスの大きな扉。
その先は、まっすぐな通路。
通路に入るには、カードを“ピッ”としないといけないらしい。
「……こう?」
カケルが背伸びして、カードをタッチした。
カチャ、と音がして、扉がすこしだけ開いた。
「スパイ映画みたい!」とミホ。
「秘密基地の入口って感じだね」とハル。
通路を歩きながら、ハルがきょろきょろして言った。
「あれ? ポスターとか、あんまり貼ってないんですね」
「そうだね。お客さんが来るところ――受付の近くとかは、ポスターをいっぱい貼ってるんだけど」
ミホパパは、小さく声を落として続けた。
「こっちは仕事の場所だから、みんなが集中できるように、なるべくシンプルにしてるんだ」
そう言って最初に案内されたのは、会議室だった。
長い机。
イスがずらっと並んでいる。
奥には大きなモニター。
横にはホワイトボード。
いかにも「仕事で使います!」という雰囲気の部屋。
……でも。
テーブルの上には、ミンテンドーフイッチが何台か。
すえおきのゲーム機もある。
モニターには、ゲームの画面が映っていた。
「ごめんね。うちの会社、ちゃんとした見学ツアーはまだ作れてなくてさ」
ミホパパは頭をかいた。
「だから今日は、まずここで自由に遊んで。それから、見せられるところだけ、見学に行こう」
「ありがとうございます!」
「発売直前のゲームの体験版も少しだけ、ゲーム機に入れてあるよ」
「あっ! これ、ユーチューブで見たやつだ!」
「ちゃなぴーが実況してたやつだよね!」
ハルとミホは、もうコントローラーを手に取っている。
その間に、ミホパパは里中さんの方を向いた。
「写真撮影は――この部屋と、この次の通路まではOKです」
そして、子どもたちにも聞こえるように、言い直した。
「奥の“ヒミツの仕事部屋”は、写真はダメ。やくそくね」
「了解です。開発中の情報を外に出しちゃいけないですもんね」
と里中さん。
「その通りでして……」
ミホパパは、ちょっとだけ肩をすくめた。
「俺としては、こっそり見せてもらっても全然――」
里中さんが冗談を言いかけた。
「勘弁してくださいよ。私の首が飛びます」
ミホパパは苦笑い。
ハルとミホは、すっかりゲームに夢中だ。
カケルは、ミンテンドーフイッチを起動しながら――
ミホパパと里中さんの方を、ちらちらと見ていた。
(?? どうかしたのかな?)
ミホパパは気づいた。
カケルはミンテンドーフイッチを起動したのに、ボタンを押す手が止まっていた。




