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『まだ』じゃ間に合わないんだよ!!!

「こんにちは」

 アーケード筐体(きょうたい)の後ろには、ソファーベッドがおいてあった。

 そのソファーベッドに、カケルのおじいちゃんが横になっていた。


 カケルのママは、そのさらに奥の椅子に座って、スマホをいじっていた。

「あ、私たちはいいから、いろいろ教わっておいで?」


「おじいちゃん! なんでこんなところで寝てんのさ? 見学しなくていいの?」

 カケルは笑って言った。


「この人数で動くと、棚にぶつかっちゃったりするでしょ? おれは何度も見せてもらってるから、ここでのんびりくつろいでいようかなってさ。へへっ」


「あっ、(すすむ)さん! お世話になってます!」

 ひょっこりと顔を出した里中さんが、勢いよく頭を下げた。


「どもども!」

 おじいちゃんはゆっくり起き上がって、右手をあげた。


「あれっ? おじいちゃんと里中さん、知り合いなの?」

 と、カケル。


「あー! お孫さんはきみか!」

 里中さんは、カケルに寄って来て、握手をした。


「進さん……きみのおじいちゃんには、いっつもお世話になってるんだよね! 動かなくなったゲーム機を直してもらったりしてさ!」


「そうなの?!」

 びっくりするカケル。


「いや、大したことしてないよーおれは」

 と、おじいちゃん。

「こっちはいいから、里中さんに、いろいろと教えてもらって?」


 ◇


「俺が見せたかったのはこれ! ”8インチ”のフロッピーディスク」

 白い箱の中から、さらに白い紙に包まれた、四角くてうすいものが出てきた。

 里中さんが白い紙を開けると……。


「さっきのディスクより、さらに大きいですね」とハル。


「ね。8インチのフロッピーを知っている人って、最近ほとんどいないんだよね」


「そもそも、フロッピーディスクを知らない人たちが増えてますよね……」と、ミホパパ。


「ね! テープドライブとかも、みんな知らないもんね」

 里中さんは残念そうに、でもちょっと楽しそうに言った。


「「「……」」」

 話についていけない、カケルたち三人。


 そんな三人の表情に気づいたミホパパが、声のトーンを変えた。

「ゴホン。”テープドライブ”っていう、別のデータ保存の方法もあってね? 音楽のカセットテープ……も、わからないか。うーん。ちょっと話を変えるとね。里中さん達、ゲーム継承(けいしょう)協会のみなさんはね、こうやって古いゲーム……レトロゲームを壊れないように守ってくれているんだ」


「レトロゲームじゃなくて、()()()()()ゲームね?」

 里中さんが訂正した。


「あ……、そうそう。ここにあるゲームは、未来には、『クラシック音楽』とかといっしょになるんだよ」と、ミホパパ。


「モーツァルトとかショパンとかですよね」とハル

「そう! よく知ってるなぁ」とミホパパ。

「うちの親が好きなんですよ、クラシック」

「いい趣味だねぇ!」


 里中さんがミホパパと目を合わせ、小さく「ウン」とうなずいてから、口を開いた。


「クラシック音楽ってさ。かなり昔に作られた曲なわけだ。

 でも、数百年経った今でも、その曲を好きでいる人たちがたくさんいる。

 すっごくいいよねぇ!! 『文化』として、人間の心に根付いてるわけ!

 それってさ。ゲームも同じだと俺は思うわけだよ。

 だから、俺たち協会メンバーは、

 ”クラシック”ゲームを、四百年後の未来の人もプレイできるようにしたいわけ」


「つまり、『ゲームを残したい』ってことですか?」

 カケルが聞いた。


「ソレ!!

 まさにソレ!! 

 好きなゲームがプレイできなくなるって、嫌じゃね?」

 と、里中さん。


「わかります!」

 カケルは大きくうなずいた。

「ぼくたち、ゲームができなくなるのが嫌で、ここに見学しにきたんです!」


 カケルがそう言うと、里中さんの顔はもっと明るくなった。


「おぉお! 仲間じゃん! だよね! ゲームが出来なくなるのやだよね!」

 里中さんのほっぺたが、さらに上がった。


「はい! だから、どうすればいいかを聞きたくて!」


「うーん! なんでも聞いて!」


「コスモキャンプ・オンラインっていうゲームなんですけど!」



 カケルがそう言ったとたん、

 里中さんの上がっていた(ほお)が、急に下がった。



「あー……コスモキャンプの最新のやつね?」


「そうです! 年末にサービス終了になるって!」


「知ってる。この間、ネットのニュースで見たよ」


「ぼくら三人でいつも遊んでます! ゲームが続くように残したいなって!」と、カケル。

「はい!」と、ハル。

「そうなんです」と、ミホ。


 さっきまでキラキラしていた里中さんの目が、暗くなった気がした。

 ……すこし時間をおいてから、里中さんは言った。


「気持ちはわかるけど、ムリじゃね? CCOを残すのは。

 ――だって権利(けんり)が無いし」

 

 カケルは、頭をガツンと叩かれたみたいな気がした。


「権利って、なんですか?」

 ショックで何も言えなくなったカケルの代わりに、ハルが聞いた。


「”ゲームは誰のものか?”っていう話でさ。

 CCOみたいなネットゲームが終了しそうになって、でも続いた例って、実際にあるんだよね」


「えっ?」カケルは思わず身を乗り出した。


「外国の話なんだけどさ。

 プレイヤーが()()()()()()()()()()()()、ネトゲをやり続けたっていう話があってさ」


「すごっ!!」

 カケルの声は大きかった。一旦消えかけた目の光が戻った。


「プレイヤーが、そんなことできるんですか?!」

 ハルは、意外そうに言った。


「ん? 技術持ってればできるよ? 元のサーバーのOS(オーエス)、バージョンとか、元データとか。そういう、サーバーを作るための情報をそろえればね。俺でもできる」 

 里中さんは、当たり前のように言った。


「まじか……できるのか! プレイヤーが!」と、ハル。

「なら、CCOだって……!」と、カケル。


「んー」

 ミホはあごをつまんで、考えていた。そして言った。

「今も続いてるんですか? 外国の、そのゲームは」


「いんや。権利者(けんりしゃ)に訴えられてさ。

 裁判(さいばん)になって、あっさりつぶされちゃったよ。

 ゲームのサーバーも止めさせられた。

 『お金をめっちゃ払え!』とも言われたみたい」


「やっぱり……」

 と、ミホは納得したような感じだった。


「プレイヤーがサーバを勝手に作ってゲームを続けるのは、『著作権侵害(ちょさくけんしんがい)』だってさ。要は”ルールを守っていない”って、権利者から文句言われたわけだ」

 と、里中さん。


 ミホが後ろを向くと、ミホパパは困ったような表情で目をそらした。


 里中さんは残念そうな声で言った。 

「技術的には出来るんだけどね。

 俺たちみたいに、権利を持ってない一般プレイヤーにとっては、ネットゲームはお手上げ。

 ゲーム会社から、サーバーのデータを盗み出すわけにもいかないし。

 そんなことしたら、ポリスさんに捕まっちゃうし。

 ――だからCCOも、ムリじゃねぇかな? って言ったわけ」


「なんだよそれ」

 カケルが、低い声で言った。


「なんでジャマするんだよ。ただ、ハルたちとゲームを続けたいだけなのに」

 カケルの目には、うっすらと涙がにじんでいた。


「いや……だから。ジャマとかじゃなくて。

 そういう”ルール”だから。守らないとまずいんだよ。

 学校でも、”廊下を走っちゃだめ”とかさ、ルールがあるでしょ」

 困ったような表情で、里中さんが言った。


「カケル」

 ハルが声をかける。


「それじゃ結局、CCOを残せない。

 ゲーム会社は"サービス終了だ"って言っている。

 ぼくたちがやるのは、ルールが許さない。

 だれも、CCOを守ることができない。

 なんだよそれ。

 大人の人に聞けば、道が見つかるかもって思ってたのに」


 ずっと耐えていた何かを吐き出すように、カケルは言った。


「ちょ……っと待ってもらえるかな?」

 起きて来たおじいちゃんが、カケルの肩をぽんと抱いた。


「なんだよ」


「里中さんたちも、ゲームを愛してるんだよ。

 カケルがCCOを愛してるのといっしょなわけでさ」


「でも、CCOはムリだって。見捨てるって」


「は? そうは言ってないよ?」

 里中さんは困った顔をした。


 おじいちゃんは、里中さんと顔を見合わせてから、やさしい声で言った。

「すぐにはなんとかできないことがあるんだよ。里中さんは、”今はまだ”できないっていう意味で……」


「またそれだ!」

 カケルは足で床をドン! と踏んだ。

 その衝撃で、壁側の棚から、白い封筒が2つ、床に落ちた。


「CCOは、もう終わっちゃうんだよ?

 ”まだ”じゃ、だめなんだよ!

 それじゃ間に合わない!」


「カケル……なぁ……おい」


「おじいちゃんは、一緒に何とかしてくれるんじゃなかったの? だったらもういいよ」


 おじいちゃんは、黙ってしまった。


「なんてこと言うの!」

 ママが、これまで見たこともない程、こわい顔をしていた。


「あやまんなさい! おじいちゃんに! 里中さんにも!」

 ママが指を差した先には、カケルが床を踏んだ勢いで、白い封筒からはみ出た円ばんがあった。床の上に転がったから、円ばんにキズがついたかもしれない。


「……」


「カケルは今、人が大事にしているものを踏みにじったの。

 わかる? 里中さんのも、()()()()()()()()!」


「あやまりなさい!」


「ユキさん、だいじょうぶだから……」


「お養父(とう)さん」


「……だって……」

 ママが言っていることがよくわからないまま、カケルはうずくまってしまった。

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