マジか! ゲーセンって『クレーンゲームをやるところ』なの!
少し高い丘の上。駐車場に車を止めた。
おじいちゃんは寝ぼけ声で「眠いから、先行ってていいよ」と言った。
「わたしがついてますから、みんなで先に行っててもらえますか?」と、カケルのママ。
「わかりました。では、私が案内しておきますね」
ミホパパがそう言って、ミホ、ハル、カケルの三人を案内してくれた。
四人で少し歩いた先に、今日の目的地があった。
「あのさ、ハルくんのお家の方が、おっきいよね……」ミホが、カケルに小さく耳打ちした。
「う? うん」
(もしかして、データセンター?)
……なんて話もしていたから、もっと大きな建物をみんなは想像していた。
でも、たどり着いたのは、普通のアパートだった。
「里中さんの協会は、寄付金……つまり、みんなが好意で預けてくれたお金だけでやりくりしているから。お金も十分じゃない中で、頑張ってるんだよ」
ミホパパがそうフォローを入れた。
(大したことないかも……?)
という印象は、部屋の中に入ってみたら、一気に変わった。
部屋中に、金属の棚。
学校の図書室の本棚よりも、もっと細くて、もっと背の高い棚。
それがびっしりと、ぎゅーっ! とつまっていた。
棚と棚の間には、大人がすれ違うのがムリそうなスペースしかない。
廊下にも、棚。
階段にも、棚。
とにかくもう、棚、棚、棚。
棚、棚、棚、棚、棚で埋まっていた。
「何なんですか?! このたくさんのは」 ハルが言うと、
「たなだよぅ」
この保存庫のヌシでもある里中さんが、おちょぼ口で、ぼそっと言った。
里中さんは体が大きかった。
「棚なのはわかります。棚にビッシリと埋まってる、白い封筒は何なんですか?」
ハルが、苦笑しながら聞いた。
「ゲームだねぇ」
と言って、里中さんは白い封筒を1つ、スッ! と取り出した。
白い封筒を開けると、円ばんが入っていた。
国会図書館でも見せてもらった、真ん中に穴の開いた円ばんだ。
「ゲ……ー……ム?」
「ん。DVDってやつだね。ゲームのね。知ってる?」
「はい、調べてきました」と、ハル。
「パパの部屋で見たことがあります」とミホ。
「この間、国会図書館で見ました」と、カケル。
「え?! 国会図書館でゲームが見れたの? どういうこと?」
里中さんは驚いて言った。
「国会図書館のゲームって、研究者しか見れないはずなんだけど。俺が前に行った時にも『ダメ、見せられない』って言われたんだけど」
「大学の大野准教授と一緒に行ったんですよ。『大野先生の研究』ということにして、特別にOKをもらったんだって、進さんが」と、ミホパパ。
「マジか! そんな手筋があったの! びっくりだわ……さすが進さん」
「ほんとっすよね」とミホパパ。
「……でさ、話を戻すと、昔のゲームは、カセットとか、こういう円ばんとか、あと、フロッピーとかに入ってたんだよね」
里中さんはそう言って、『DVD』と呼ばれる穴の開いた円ばんをヒラヒラとさせた。
「あの。フロッピーって何ですか?」ハルが聞いた。
「あぁ、フロッピーはこれだね」
里中さんは、別の白い封筒から、四角くて薄い板を取り出した。
「これがフロッピーディスクね。円ばんはDISCで最後が”C”。
フロッピーディスクは同じ音だけど、DISKの最後が”K”。
――あのさ、学校だとアルファベット、習ってる?」
「英語の授業でやってます」と、ハル。
「いいねぇ。じゃぁ”Aドラ”の話もできそうだねぇ」
「「「Aドラ?」」」
「小っちゃい子たち。みんなは、パソコンいじったことあんの?」
「お兄ちゃんのを借りて使ってます」と、ハル。
「あーほんと。Cドライブとか、Dドライブとか、パソコンの画面で見たことない?」
「えーっと?」とハル。
カケルとミホは、話についていけない。
「あ、だめっぽいな。じゃいいや。Aドラの話はまた今度ね」
里中さんは、手に持っていたフロッピーディスク……という四角い板を、白い封筒にしまって、隣の棚へと移動した。そして、別の封筒を取り出した。
「あれ? 大きくなった?」とカケル。
「うすくなった?」とハル。
「わかる? 5インチね。5インチのフロッピーディスク」
「う、うん……」とハル。
「フロッピーディスクにも種類があって、大きさもいろいろあるんだよ」ミホパパが、そう言って助け船を出してくれた。
「そうそうそうそうそう。それそれ。さっき見せたのは、3.5インチのフロッピーディスク。シャッターがついてたやつ。こっちの5インチにはシャッターがついてないからスリーブに入れて、うちではさらに中性紙に入れてガードするわけ。でさ」
早口で話しながら、里中さんは巨体に似合わない素早い動きで、さらに奥へと移動する。
「ん? 奥の部屋ね。ついてきなよ」
「えっ」
頭の回転が速いハルも、置いてきぼりになってきた。
「ちょっと里中さん。中性紙の話はいいんですか?」
ミホパパがまたフォローしてくれた。
「アルカリ性とか酸性とか教えるのはまだ早いよ。まずは現物見てからの方がよくね?」
里中さんはそう言って、奥の部屋へとカケル達を案内してくれた。
――
「なにこのデカいの!!」カケルがびっくりして言った。
「画面も大きいね!」と、ミホ。
「レバーがついてる……なんだこれ」と、ハル。
「あー……俺が見せたいのはそっちじゃないよ。……まぁでもいっか。そのデカいのは、『アーケード筐体』って言われているやつだね。ゲーセンで遊ぶやつ」
と、里中さん。
「ゲーセンって、クレーンゲームをやるところですよね?」と、ミホが聞いた。
「まじかよ!!!」
里中さんは両手で顔をおさえた。
「そっか。今の小学生からしたら、”ゲーセン”って、『クレーンゲームをやるところ』なの! ショックだわ……俺は年を取りすぎた……」
「里中さんの時代には、そこにある大きな山みたいなゲーム台、アーケード筐体がズラッ! とゲームセンターに並んでいたんだよ」ミホパパが説明してくれた。
ミホパパのおかげで、ハルたちにも、ようやく、なんとなく、里中さんの言いたいことがわかった。
「昔のゲームセンターと今のゲームセンターは違う、ってことですね?」と、ハル。
「そうねー。時代が変わればさぁ、いろいろ変わるんだよ。
――その『変わる』と戦ってるのが俺らなんだけどね」
里中さんはそう言って、小さなため息をついた。
その時、アーケード筐体と呼ばれた、山みたいな物の後ろの方から、ごそっという音がした。
カケルはドキッとした。
ごそ、ごそっ。
(なっ、なにかいる……!?)




