ゲームの活動を『最初に始めた人』に会いに行く
早朝。
「おはよー!」
「はよ!」
ミホとハルが、車の窓から顔を乗り出して、小さく手をふっていた。
「はよー!」
「おはよう。さ、乗って」
運転席に座ったミホパパは、すらっとした人で、やわらかそうな服を着ていた。
「今日も送迎、ありがとうございます」
カケルのママが頭を下げた。
「いえいえ。いつもミホがお世話になっております」
カケルとママが車の左側に回ると、見知った顔が助手席からのぞいた。
「おーう!」
「あっ、おじいちゃん! おはよー!」
「乗って乗って。後ろに」
ツーリングワゴンという、家族向けの車。
座席が前から三列になっていて、
一列目の一番前には、運転席にミホパパが、助手席におじいちゃんが座っていた。
二列目の奥のほうに、ミホとハルが居た。
「じゃ、ぼくはハルのとなりかな?」カケルが言うと、
「一番後ろ。三列目にね」と、カケルのママが言った。
「ハルたちと遊びずらいじゃん」
「わかるけど、おじいちゃんが道中、寝れるようにしてあげたいのよ」
「晴れててあったかいから、おれは眠くなるだよ。うへへ」と、おじいちゃん。
「しょうがないなぁ……」
カケルはしぶしぶ、ママと一緒に三列目、いちばん後ろの席に座った。
「よし、じゃあシートベルトをしめて?」
「はい」
ミホパパの言う通り、カケルはシートベルトをしめた。
「ん、ん、ん、……」
ミホパパは、全員のシートベルトを確認してから言った。
「よし、じゃぁ、いきましょう」
止まっていた車の、ブレーキがゆるまる。
ブレーキがはずれてタイヤがゆるまる。その前の、小さなひっかかりが2回、シート越しに、お尻と背中に伝わって来た。そして車は、すべるように走り出した。
――
カチャッ、バタン。
「「えぇー!」」
「もう横になるの? おじいちゃん」
「こうした方がみんなの顔が見えるからさぁ」
おじいちゃんは、いたずらっこのような表情で、カケルたちの顔を順番に見た。
カケルのママがつらそうな顔をしていたことに、この時のカケルたちは気づかなかった。
◇
「たいまつって、どれ?」
おじいちゃんが寝っ転がったまま、ミンテンドーフイッチを掲げた。
「その右奥の、棒みたいなやつ!」
後部座席から身をのりだして、カケルが指をさした。
「あー、これのことか! このアイテムを取るには……?」
「近くに行ってBボタンだよ」とハル。
「画面の下の方に、動かし方のヒントが出ます」とミホ。
おじいちゃんは自然に、カケルたち三人の環に溶け込んでいた。
一方、ミホパパとカケルママの二人は、運転席と後部座席とで、ちょっと離れた距離で話し合っていた。
「今日は渋滞もなくて、意外と2時間ちょっとで着くと思いますよ」
「スムーズでよかったです。……あっ、お菓子やジュースをいろいろ持ってきましたよ」
「ありがとうございます! じゃぁ、子どもたちから。おじいちゃんもいかがですか?」
「気がきくねぇ! キリのいいところまでゲーム進めたらね」
「欲しい!」とカケル。
「わたしも!」とミホ。
「僕はもう少し後で」とハル。
「ねぇ、ママ。今日はどこまでいくの?」とカケルが聞いた。
「群馬まで、だって」
「です。ゲーム継承協会の保存庫が、お金の都合もあって、ちょっと遠いところにあるんですよ」と、ミホパパ。
「ほぞんこってなんですか?」と、ハル。
「ゲームを寝かせておく、大きな“たからばこ”みたいな場所かな」とミホパパ。
「もしかして、”データセンター”だったりして?」とカケル。
「えー、そんなわけ」とミホ。
「データセンターって、どんなところ?」と、おじいちゃん。
「ゲームのサーバーのお家で、おっきなところなんだって!」とカケルが早口になった。
「このあいだ、僕ら三人でしらべたんです」とハル。
「巨大なひみつ基地、みたいな?」と、ミホ。
「へぇぇ……三人とも、物知りだなぁ」
おじいちゃんは何回か首をタテに振った。
寝っ転がっているから、カケル達からみると首をヨコに振っている。
「データセンターは、人が簡単に入れないようになっていて、いつもおんなじ温度で、おおきなサーバーがたくさんあって……」この前調べた話を、流暢に話すカケル。
「ヒミツの場所にあるそうなんです」と、ミホ。
「ミホのパパさんにもわからない感じですか?」と、ハル。
「んー、……ヒ・ミ・ツ・ですねぇ」
ミホパパは、右手はハンドル、左手の人差し指を口にあてた。
◇
やがて、高速道路が終わり、道が細くなってきた。
「けっこう登るんですね」
と、カケルのママが言った。
「はい。高い所を選んだと、里中さんが言ってました。……あっ、里中さんというのは、ゲーム継承協会という民間団体の、理事長さんです」
「少し高い所って、何か意味があるんですか?」とハルが聞いた。
「ハルくんは鋭いですねぇ」
ミホパパはそう言って、話を続けた。
「これから行く保存庫は、群馬の中でも海側にあってね。
もし、大雨とか地震とかで、水が建物の中まで上がってきたら、
中に置いているゲームはどうなると思う?」
「水びたしになって、壊れちゃったり?」
「ですよね。里中さんは、ゲームが水にやられないように、高い場所の保存庫を選んだそうですよ。
――便利さよりも、ゲームの安全さを優先させたわけです」
「へぇぇ。置き場所も気をつけなきゃいけないのかぁ」と、ハル。
「里中さん、ってどんな人なの? パパ」と、ミホが聞いた。
「ゲームを残す活動を、『日本で一番最初に』始めた人だと言われているよ」
「国会図書館よりも?」
「うん。国会図書館がゲームの収集を始めたのは二〇〇〇年からだけど、里中さんはそれよりもっと前から、ゲーム集めをしてた。日本で一番、ゲームに詳しい人かもしれないね」
「へぇぇ! 凄い!」とハルが言った。
「ほんと、凄いよねぇ」
おじいちゃんは、なんだか幸せそうにうなずいていた。




