名鎌マサムネ
冬が明け、8才になった春。
『はやたろう』に初めてタッチすることが出来た。
嬉しさにウルッとしちまった俺を眺めつつ近くに座り込んだ『はやたろう』。
俺と『はやたろう』はマブダチになったって訳だ。
それから『はやたろう』を連れ帰り、今では村で一緒に暮らしている。
『はやたろう』は、お爺さんお婆さんや、村の皆とはすぐに仲良くなっていた。
俺のあの苦労はなんだったのか……。
大きな犬にオドオドしながら、そっと手を伸ばして撫でていたお千代ちゃんかわいい。
8才の夏。
『はやたろう』と俺は、砂浜で行ってくるをして遊んでいた。
普通は行ってこいだろって?
それじゃあ『はやたろう』だけ楽しいじゃないか。
行ってくるは、棒を全力で放り投げ、その後を俺と『はやたろう』が追いかけてどちらが先に獲るかという遊びだ。
砂に足を取られるこの環境は、足腰を鍛える良い修練になる。
遊びと実益を兼ねた実に賢い選択である。
飽きるまで走り呆けた俺たちは、暫しの休息を挟み今度は海藻を採りに穴場へと向かった。
俺の手には今日のために研ぎに研いだ、名鎌マサムネが光る。
波と戯れつつ砂浜を歩いていると、見えて来た大岩。
それを超えた所に、俺だけの秘密基地、兼、海藻採取の穴場があるのだ。
するとギャッギャッギャッギャツ! と悲鳴のような鳴き声が響いて来た。
俺と『はやたろう』は、互いに頷くと走り出した。
大岩を越えた先に見えたのは、猿が大蛸の足に絡みつかれて今にも海に引きずり込まれそうになっている姿だった。
今夜はタコ鍋だー!
踊りかかった俺は、マサムネを閃かせ『はやたろう』は丈夫な顎で蛸の足を嚙みちぎる。
ボトリ、と蛸の足が中ほどから落ちた。
慌てた蛸はシュルシュルと海の中へと消えて行った。
蛸の戒めから解かれた猿だが、衰弱しているようで動けないでいる。
俺は猿を秘密基地へと連れて行った。
寝かせていた猿が目を覚ますと、俺と『はやたろう』が食べていたきびだんごに興味を示した。
猿にきびだんごを渡すと美味しそうにパクパクと食べた。
まあ、猿のおかげで蛸の足が手に入ったのだから、それくらい構わないだろう。
猿は食い終わると、どこかへ去って行った。
さるもの追わず、なんちゃって。
改めて海藻を採り始める、今日も中々良い具合だ。
『はやたろう』には念のため大蛸が復讐に来ないか見てもらっている。
良い具合に海藻もたまったので、そろそろ帰るかと背負い籠をかついだところで、さっきの猿が何かを手に戻って来た。
猿が差し出して来たのはなんと日本刀だった!
刀を腰に差し、そっと抜いてみる。
真の名刀とはこういう物なのか、その刀身の美しさに息をのむ。
悲しいがこれに比べると俺のマサムネは、良く研いだ鎌にすぎなかった。
これならば……あの鬼どもを切りまくっても刃こぼれひとつしないだろう。
ギラリと光ったのは、陽を受けた刀身か、俺の瞳か。
これはまさに天からの恵み。神に感謝だ。
恩義を忘れなかった猿を『まさるさん』と名付け、家に連れて帰った。




