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折れた刀

 残りの一年、俺はひたすら修練に明け暮れた。


 勿論、畑仕事だって手を抜いちゃいない。

 あれはあれで鍛錬にもなる、一石二鳥だ。


 洗濯板開発もしておいた、村での評判もまずまず良い。

 おかげで? お千代ちゃんという同い年の子がチラチラと好意を示してくれたりもしていた。


 しかし、非常に、非常に残念な事ながら。

 残るは1年しかない。恋愛事にうつつを抜かしている余裕などないのだ。


 鬼退治が終わったら……なんて死亡フラグでしかない。

 俺の場合はループフラグなのかもしれんが。


 それだけ真剣に取り組んだ1年だった。

 そしてその時はやってきた。


 ズシン、ズシンと。

 重い足音が響いて来る。


 俺は1人、道のど真ん中で待ち構える。

 

 赤鬼は俺が居る事に気が付いたが、歩みを止める気配は無い。

 金棒を硬い担いだままふんぞり返って歩いて来る。

 人間の子供一人どうとでもなる、そう考えているに違いない。


 その油断が命取りなんだよっ!

 鬼が突然地面の中に消えた。


 落とし穴だ!


 馬鹿が!

 3日かけて掘りぬいた落とし穴だ!

 余裕カマしてるお前なら、絶対に嵌ると思ったぜ。

 

 お前みたいなの相手に正面から正々堂々戦うかっちゅうの。

 いくら鍛えたとは言え、俺はまだ15才なのだ、対格差は明らかだった。

 

 俺は刀を抜いて穴へと近づいた。


 ガシリ、と這い出そうとする鬼の右手が穴のふちにかかる。

 そこをすかさず切りつける!

 

 穴から出られなくしてしまえば、あとはどうとでもなるっていう完璧な作戦だ!


 鬼の右手を切り飛ばす。


 「グアッ!」

 

 苦悶の声を上げ、再び穴に落ちる赤鬼。

 穴の中からくぐもった怒りの咆哮が聞こえてくる。

 

 さあ次は反対の手を出すか?

 どうする、どうする?


 余裕をかまして待ち構えていた俺の前に現れたのは、飛び上がって来た鬼の全身だった。

 

 え?


 予想外の出来事に、頭が真っ白になり、刀を振るのが遅れる。

 唸りを上げて迫る鬼の左拳。

 慌てて十字ブロックするがメキメキと骨のきしむ音が聞こえ、俺はぶっ飛ばされた。


 飛ばされ、転がった先で、すぐさま立ち上がったが、たったの一撃で完全に左腕の骨がイカれ使い物にならない。

 慌てて起き上がるが、体もあちこち痛む。

 

 改めて対峙してみると、鬼は無手になっていた。

 あいつ、金棒を捨てて踏み台にしたんだ!

 

 鬼は切り落とされた右手首からボタボタと血を流している。

 お互いダメージはあるが、俺の方が断然不利だ。


 相手は素手だが、その力は半端ない。

 俺がミスって被弾しなければ避けまくって攻撃もできたろうが、この状態ではかなり厳しい。

 片腕で振るって刃が通るのか、それも未知数だった。


 鬼が動いた。


 今まで見て来た鬼の動きを覆す、速い踏み込みだった。

 クソ! ゆっくりなのは鬼が巨体だからじゃなく、単に舐めてたからの動きだったのかよ!


 倒れ込むように避けると、今度は脚を狙う。

 左のふくらはぎを切りつけたが、浅い。


 蹴り飛ばされ、転がされた俺は刀を手放してしまう。


 ちくしょう! ちくしょう!

 最後の最後で油断した俺の馬鹿さに腹が立った。

 

 這いつくばり、伸ばした指先が刀に触れたその時――

 

 バキリ


 鬼の大きな足に踏み抜かれ、刀の折れる音が聞こえた。

 

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