最大の悪夢
「あら! お爺さん。大きな桃の中に赤ん坊が入っていましたよ!」
「おお、婆さんや。なんとも元気な赤子じゃのう。これは神様からのさずかりものじゃろうて」
「ええ、ええ。大切に育てましょうね」
そうして大事に育てられた俺は、コミュ障となった。
いや、わかるんだ。
俺は主人公になった。
昔話に出てくる桃太郎なんだって事くらい。
だが同時に佐久間雄太であった記憶もある上に、何度も死を繰り返した記憶まである。
お爺さん、お婆さんは優しく育ててくれたのだが、顔を見るたびに何度も切り殺されたのを思い出してしまうんだ。
ありがとうって言いたいのに、上手く言葉にできない。
気にしないそぶりを見せているが、本当は悲しんでいるのがわかる。
でもどうしようもないんだ。
そんな状態で、口数少なく育った俺は村人たちとも、最低限のコミュニケーションしか取らなかった。
それに鬼と戦うなんてのは、とてもじゃないが出来そうにない。
うちは貧乏で、刀なんて手に入らないし。
手に入ったとしても、鬼ヶ島まで出張って命がけで戦う必要が見いだせない。
コミュ障の俺がきびだんごひとつで、犬、猿、雉を仲間に出来るビジョンも浮かばなかった。
それでも、出来る限りのことはした。
前世でもそこそこ体は鍛えていた方だったが、それと比べても今の体は丈夫で力もあった。
流石は桃太郎と言ったところか。
その分畑仕事に精を出したし、お婆さんの為に洗濯板を作ったりもした。
これは村中で評判になって皆に感謝されたもんさ、ちょっとした知識チートってやつだ。
おかげで口数は少ないが、真面目で頭もいい青年なんて言われたりした。
ある日、俺は腰を悪くしたお爺さんの代わりに山へ芝刈りに出かけたんだ。
妙に芝刈りがはかどり、上機嫌で帰ろうと山を下りると……村の方角から立ち上る黒煙が見えた。
村が燃えている!?
俺は全力で走った。芝なんて全部捨てた。
たどり着いた村は、赤々と燃え盛る炎に包まれていた。
お爺さんは腰が悪いんだ、火が回ったら逃げられない。
お婆さんだって避難出来ているのかわからない。
「おじいさん! おばあさん!」
コミュ障の俺から、かつてないほど大きな声がでていた。
火の粉を払い、熱と煙に襲われながら、家を目指す。
やっとの思いで辿り着いた家は、すでに焼け落ち、お婆さんは家の前で倒れ居ていてもう動かない。
なんで、一体どうして?
「オオオオオ!」
背後から聞こえる唸り声に、心臓を掴まれるような錯覚を覚えた。
恐る恐る振り返ってみると、そこには身の丈7尺はあろうかという、2本角の赤鬼が立っている。
金縛りにあったかのように動けない俺を嘲るように、ゆっくりと近づいて来た赤鬼は、手に持った金棒を振り上げた。
あ、ああ。
俺のせいなのか? 俺が鬼退治に行かなかったから?!
――
ゆらゆらと、揺蕩う感覚。




