とってんぱらりのぷう
鬼の頭領が一際大きな声で唸り声を上げる。
威嚇のつもりかもしれないが、あの黒い気配がない今の状態では迫力不足だ。
ここにきて覚悟が決まったのか、後ろから噛みついて来る『はやたろう』たちの攻撃に対処するのを止めた。
喰らいつかれようが、鎌で切りつけられようがお構いなしで執拗に俺だけを狙ってくる。
怨念の籠った目、だが俺も負けじと睨み返す。
お前たちが襲ってこなければおれは、コミュ障の村人として一生を終えていただろう、自業自得というものだ!
振り回される腕をかいくぐり前腕を切りつけ、蹴り上げた躱して足を切りつける。
弱体化した影響か、刃も通りやすくなっているのが分かる。鬼の頭領は手詰まりだった。
激しいが、戦い自体はそれほど長くは続かなかった。
山のような巨体が倒れ、動かなくなる。
その後、黒鬼が現れる事もなかった。
ホッと一息ついたところに『きぎし』が戻って来た。
ヨーシヨシヨシと撫でまわすと少し嫌そうだった。
――
鬼の拠点には宝物が沢山集められていた。
おれはつつましく小さなつづらだけもらって帰る事にした。中身は空けてからのお楽しみだ。
帰りの道中、『はやたろう』が道を分かれた。
何やら新しい別の物語が始まるのだそうだ。今までありがとう、感謝の気持ちを込めて残っていたきびだんごを全部渡した。
村に近づくと『まさるさん』が山に帰るという、まさるさんはこの後猿山のボスとの戦いがまっているらしい。
鬼との激戦を乗り越えた『まさるさん』が負けるはずもない。鎌は選別に持って行ってもらった。
『きぎし』は半分、俺の子どもみたいなもんで、おそらく向こうもそう思ってくれている。
一緒に仲良く村に帰った。
久々の家は良い物だ、お爺さんもお婆さんも元気にしていてくれた。
小さなつづらを開けて見ると小判が詰まっていた。
正直村で小判なんて使うこと無いんだけど、なんかピカピカしてるからヨシ。
鬼ヶ島土産として村の皆に1枚ずつ配ったらちょうどなくなった。
俺が村に戻り鬼退治が済んだと皆に報告。
小判配りなどして三日三晩お祭り騒ぎが続いたが、それも収まってようやく日常が帰って来た。
俺は今日、お婆さんの代りに川に洗濯をしに来ている。
思えばこの川を桃に入って流れて来たんだなあ……目を閉じ、川の緩やかなせせらぎに耳を澄ませる。
ふと目を開くと、川上からお椀が流れてきていた。
お椀の舟には……。
新しい別の物語が始まっていることを感じた。
頑張れ、諦めなければなんとかなるぞ、と少し偉そうに先輩面してエールを送る。
俺の物語はこれでおしまい。
ここからは1人の村人、桃太郎としての人生が始まるのだ。
さて、仕事をすませちゃいましょうかね。
鬼の居ぬ間に衣類の洗濯、と。
おあとがよろしいようで。




