お千代ちゃんは天使
いよっ! 日本一の桃太郎!
村人からの掛け声が飛ぶ。
ああ、今度はここからなのか。
赤ん坊スタートでなかったことに内心ほっとしたものの、先の戦いを思い出して暗澹とした気持ちになる。
俺は全然日本一なんかじゃあない。あいつに手も足も出なかった。
もう眼前に黒鬼の手は迫って来て無いと言うのに、お先真っ暗だよ。
鬼ヶ島へはもう行きたくないが、主人公であることを放棄すれば第二第三の赤鬼がやってくるのは間違いない。
赤鬼が来るだけならまだいいが、鬼の頭領に来られたらお手上げだ。
あのデカブツを倒すまでは何とかなる。だがその後に生まれた、あの黒鬼、あいつはなんだ?
思い出すだけで、体が震える。
あの速さ。あの一撃。仲間が、次々と一瞬で倒されていったあの光景は今でも生々しく脳裏に焼き付いている。
さらに、打撃を受けた後、浸食してきた嫌な感触……。
単純に力、素早さだけでも圧倒的に俺を上回っていた。
仮に山に誘い込んで罠に嵌めたとしても、自分が勝った姿を想像できない。
赤鬼が退治され浮かれている村の皆のノリについていけず、1人で先に家へ戻った。
家に戻っても、鬼ヶ島へ行く準備をするという気持ちにもなれず、ぼんやりしていた。
どれくらいそうしていただろうか、トントンと控えめに家の扉を叩く音がした。
扉を開けるとそこにはお千代ちゃんがいた。
お千代ちゃんは家に入ろうとせず、なにやらもじもじしている。
どうしたのかと思っていると、さっと俺に手を伸ばして来た。
「ももちゃん、これあげる」
お千代ちゃんは、俺のことをももちゃんと呼ぶのだ。
お千代ちゃんが差し出した手のひらには、綺麗な緑色の丸い石。
河原で見つけた宝物、元気が出る石なんだと言う。
お千代ちゃんは暗い雰囲気だった俺を心配して、励まそうとしてくれたのだ。
やはり、お千代ちゃん天使か。
石を手渡すと、お千代ちゃんはそそくさと帰って行ってしまった。
その後ろ姿を見送り、自分も家に入るとさっきまでの憂鬱が嘘みたいに晴れている事に気が付いた。
お千代ちゃんに感謝である。
ルンルン気分で緑の小石を掌の上で転がしつつ、これは大事に飾っておこうか、などと考えていると、ふと頭をよぎるものがあった。
鬼ヶ島の大岩で祀られていた、あの禍々しい玉。
あれは黒鬼に殴られたとき浸食してきたあの気配と同じじゃなかっただろうか?
祀ってあるのだから、あれに何か意味があるのは間違いない。
前回は触らぬ神に祟りなし、で触れずに終わらせてしまったが、今度は鬼の住処へ踏み込む前に破壊してみることにしよう。




