ゆらゆらと
ゆらゆらと、揺蕩う感覚。
目を覚さましたはずだが、真っ暗だった。
なんだか、からだが動かしにくい。何か狭いところに押し込まれている?
どういう状態なのか、確かめようと体を動かそうとするが、腕すら上手く動かせない。
何か妙だ、頭がはっきりしない。
閉じ込められてはいるものの、柔らかいもので出来ていて、不快感は無い。甘い香りすらする。
動けないまま、ぼんやりしていると、閉じ込められているまま持ち上げられたような感覚。
そのままどこかに運ばれているらしい。随分な力持ちだな。
まあ、誰でもいい、ここから早いとこ出してくれ。
ドンッと軽い衝撃が、どこかに置かれたのだろうと言う事を教えてくれる。
そこからすぐに出してもらえるのかと思っていたのだが、その気配が無い。
俺は目が覚めたばかりのはずだが、妙に眠くなってきてしまった。
――
ゆらゆらと、揺蕩う感覚。
あれ? 寝ている間にまたどこかに運ばれたのか?
依然として、からだは動かしにくいまま。先ほどと状況は何も変わってい居ない。
頑張って指を動かそうとして見る……そこで違和感の正体に気が付いた。
俺の体が縮んでいる。
暗くて見えないが、確実に小さくなっている。小さいというか、赤ん坊だ。
もしかして転生というやつか? 赤ん坊で動けないこの状況。まさかまだ腹の中なんだろうか?
閉じ込められているまま持ち上げられたような感覚。
ドンッと軽い衝撃が、どこかに置かれたのだろうと言う事を教えてくれる。
幸いな事に(?) 眠気を感じなくなっている。このまま様子を見よう。
暫く何事もない退屈な時間が続いた。
突然、ザクリと刃物の突き立つ音が聞こえた。
――
ゆらゆらと、揺蕩う感覚。
はあっ!? は? 俺を切り裂いたあれはなんだったんだ。夢を見てたって事なのか?
それにしてはリアルな、嫌な夢だった。一瞬だったが痛みすら感じたように思えた。
閉じ込め状態はいまだ変わらない。気が狂いそうだ。
そして気が付いた。またどこかに運ばれている。
今度こそここから出られるのだろうか? 出られたとしてこの体で生きていけるのだろうか?
次々と不安と恐怖が襲い掛かってくる。
ぐるぐると思考を巡らせる間にも時間は経っていく。
ザクリ、と刃物の突き立つ音が聞こえた。
――
ゆらゆらと、揺蕩う感覚。
あれから何回か同じような事が続き、鈍い俺でも流石に分かった。
ループしている。
赤ん坊のまま閉じ込められた俺は、どこかに運ばれ、暫くたつと刃物のお出ましという訳だ。
……詰んでないか?
だが変化もある。ぼんやりしていた思考が段々とクリアになっていっている。
今は転生前の自分についても思い出せるようになっていた。
前世での俺は佐久間雄太、39歳独身のくたびれたおっさんだった。
ラブホの店長というあまり一般的ではないお仕事をしていた。
金が払えないという客からの電話があり、客室まで行って詰めていたら、逆上した男に持っていたナイフで切られたって訳だ。
そしてまたしても……刃物の時間だ。
――
ゆらゆらと、揺蕩う感覚。
思い出した。俺はその後、神という存在と話をしたんだ。
クスリをやってたわけじゃない。本当なんだ。
生まれ変わるなら、物語の主人公みたいにしてくれと頼んだ。そして神は聞き入れたと言った。
この状態のどこが主人公なんだ?
ある意味悲劇の主人公ではある。そういう系の悪意のある神ってやつだったのか?
いや、今なら色々と考えられる。考えろ、考えるんだ。
まず状況の整理だ。
俺は赤ん坊。
何かに閉じ込められている。
それは柔らかく、甘いにおいがする。
暫くすると運ばれて行き、やがて刃物で切られる。
物語……主人公。
! まさか! そうなのか?! それならどうして切られるんだ?!
もうすぐ刃物が来る! やめてくれ! やめてくれ! 俺はここに居るんだ!!!!
「オギャアアアア! オギャアアアアアア!」
「あら! お爺さん。大きな桃の中に赤ん坊が入っていましたよ!」




