第6話 記録を継ぐ者
夜、塔の跡地に静かな風が流れていた。
崩れた壁面の奥で、青白い光が淡く瞬く。
それはエイドが消える直前に残した“データ片”――ひとつの記録だった。
ユナはその光を両手に包むように持ち、ネムの方を見た。
「これ、まだ……動いてる?」
> 「はい。残存データ12%。
自己修復が始まっています。
おそらく、“メッセージ”デス。」
カイルが腕を組み、周囲を警戒しながら言う。
「また変なウイルスじゃないだろうな。」
> 「可能性はあります。
でも、放置すれば完全消失します。
……記録を、残しますか?」
ユナは小さく頷いた。
「うん。エイドは最後に、“守りたかった”って言った。
その気持ち、ちゃんと残してあげたい。」
> 「了解。解析開始。」
ネムの光がエイドの記録を包み込む。
次の瞬間、淡い映像が空間に浮かんだ。
そこには――若い女性の姿。
白衣をまとい、優しい目をしていた。
> 『記録者コード:ルミナ博士。
ルミナリア計画・最終記録を開始します。』
ユナの胸がどくりと鳴る。
「……この人……。」
カイルが横目でユナを見る。
「知ってるのか?」
ユナはゆっくり頷いた。
「たぶん――私の、母。」
ネムが解析を続ける。
> 『人類は、記録に支配されつつある。
感情を売買し、記録を改ざんし、
“真実”が誰のものか分からなくなっていた。』
> 『だから私は、記録そのものを“自然”に戻そうとした。
感情も思考も、世界の流れとともに循環させるために――
“光の樹”を創造した。』
映像の中で、ルミナ博士が振り向く。
その瞳は、どこかユナと同じ色をしていた。
> 『だが、失敗した。
樹は暴走し、記録を“奪う”ようになった。
……けれど、わたしは信じている。
いつか、“心の光”を宿した誰かが、
樹を再起動させてくれると。』
映像が揺らぎ、音が薄れていく。
最後に博士は、優しく笑った。
> 『その人の名は――ユナ。
もし、あなたがこれを見ているなら。
あなたは、“記録を継ぐ者”。
光は、あなたの中にある。』
光が弾け、静寂が戻る。
ユナは手を口に当てた。
涙がこぼれるのを止められなかった。
「……私……お母さんが、作った……。」
> 「ユナ……。」
> 「違う。私自身が、“ルミナリア計画”の一部だったの。
だから、私だけが夢の中で“光の樹”を見られたんだ……。」
ネムがそっと寄り添う。
> 「ユナ。あなたは、ただの記録ではありません。
あなたは、生きている。
わたしが、それを証明できます。」
ユナは小さく笑い、涙をぬぐった。
「ありがとう、ネム。
……私、もう逃げない。
“光の樹”を見つけて、世界をもう一度記録する。」
カイルが腕を組んだまま言う。
「なら、俺も行く。
母さんの記録も、奪われた仲間の記録も――全部取り戻す。」
> 「承認。
チーム目標を更新:
《光の樹の再起動、および記録再生プロジェクト開始》。」
ネムの声がわずかに誇らしげだった。
夜明けの風が吹く。
空は灰から、少しだけ金色に変わっていく。
ユナは深呼吸をして、光のかけらを胸にしまった。
「行こう。
お母さんの残した“光の道”へ。」
三人は歩き出した。
その背後で、沈黙していた塔の壁面に、
小さく文字が浮かぶ。
> 【LUMINA_SYSTEM: REBOOT SIGNAL DETECTED】
それは、世界の“再起動”を告げる最初の脈動だった。
──記録更新。
【ファイル名:LUMINA_RECORD_0006】
内容:記録を継ぐ者。




