第2章 心の記録 --- 第1話 もう一人のユナ
砂の大地に、かすかな風が吹いていた。
ユナ、カイル、ネムの三人は、ルミナリア中枢区へ向かう道を進んでいた。
朝の光は鈍く、空はまだ完全には晴れない。
遠くに黒い塔のようなものが見える。
だが、空気の流れがどこか不自然だった。
まるで、世界そのものが息をひそめているように。
「……ネム、この先、本当に“中枢区”なの?」
ユナの声には、どこか緊張が混じっていた。
> 「はい。ルミナ博士の記録では、
光の樹――“ルミナリア・コア”はこの先に存在します。
ですが……。」
ネムの光が淡く震えた。
> 「この周辺、時間の流れが歪んでいます。
過去と現在の記録が、混線している可能性が高い。」
カイルが端末を確認し、眉をしかめた。
「確かに……データがめちゃくちゃだ。
地形の座標が秒ごとに変わってる。まるで“誰かが記録を書き換えてる”みたいだ。」
ユナが小さく息を呑む。
「……ユナβ。」
二人が彼女を見た。
「昨日、カイルが見たって言ってた……“もう一人の私”。
あれ、たぶん……この中枢区にいる。」
ネムは静かに首を傾けた。
> 「ユナβ。あなたの原型。
感情を持たずに作られた、最初の“記録器”。」
「感情を……持たない?」
> 「はい。彼女は記録だけを完璧に行う存在として造られた。
しかし、感情を欠いた彼女の記録は“生”を伴わなかった。
だから博士は、新たに“ユナα”――あなたを生み出した。」
ユナの喉が詰まる。
「じゃあ……私は、βの失敗から生まれた“代わり”……?」
カイルが慌てて首を振る。
「違うだろ。それは“進化”だ。
βがいたから、お前が生まれた。
それに、ユナ。
お前の中には、ちゃんと“心”がある。
それがβとの違いだ。」
ユナは小さく微笑んだ。
「……ありがとう。」
その時だった。
空気がざらりと音を立てた。
風が逆流し、地平線の彼方から影が現れる。
白い髪、ユナと同じ顔。
だがその瞳には、何の光も宿っていなかった。
> 「……α。」
ユナが息を呑む。
その声は、自分自身と同じ音の響きをしていた。
> 「あなたが、“母”の願いを継いだのね。」
ユナβ――“もう一人のユナ”が、微笑んだ。
けれどその笑みは、あまりにも静かで、あまりにも空虚だった。




