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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第一章 聖都魔法学園 序列戦
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第07話 序列戦開幕

 時は一瞬のうちに流れてしまった。いくら特訓しても満足はいかなかった。満足のいかないうちに、序列戦の予選を迎えてしまったのは最高に最悪だ。しかし気分は上がっていた。今までは見るだけだった試合を、今度はオレができる番なんだ。胸が躍るとはまさにこのことだ。


 (セリアは見てるだけにしてくれよ。正直セリアが手を出したら誰にでも勝てちまうから。)


 (昨日から何回も……そう同じこと言わなくったって分かってるわよ。私をなんだと思ってるの。)


 まぁ実際セリアが暴走を起こすようなことはないだろう。だがどうにも今日はオレだけでなくセリアの方も緊張しているようだ。もしかしたら静かないつもとは違って頭の中にうるさく声をかけてくるかもしれない。それを見越しての“見てるだけ”だ。

 序列戦は予選と本戦で分けられる。予選では各学年のクラスごとに試合をし、成績上位4名を決める。本戦は学年混同、クラスごとに行われ、一年から四年までの16名、特等クラスではそこに生徒会、今年は4名を加えた20名でトーナメントを行い、一位から八位までの序列を決定する。原則として序列は特等クラスの者に付けられるものだが、A〜Cクラスの者に限ってはその序列を奪うために序列戦以外での決闘、“争奪戦”をいつでも申し込むことができる。そしてその争奪戦では下位クラスの者、序列戦本戦ではB〜Cクラスの試合では魔導具の使用が許可される。少ない魔力量などを補うためだ。中には魔導具を扱うセンスが突出している者もいるらしく、そのような者を相手にすると上位クラスの者でも負ける可能性はあるだろう。そういった事例があるために、一般開放されている序列戦本戦においては下位のクラスでも観客席は埋まっている。そして全体を通してスカウトされる者も少なくないのだから、この序列戦というものは普段の試験以上に本気で臨まねばならない。

 オレに関しては予選で落ちることはないだろう。オレの学年ではオレに匹敵するほど強い者は一人くらいしか見当たらないからだ。だが油断してはいられない。クラスの大半の者は天現融合を習得しているし、そうなれば確実に皆五星級以上の魔力量となる。ビビる必要はないが、お高くとまっている必要もない。確実に対戦相手は潰しにいこう。

 そして当然、本戦にはルーシュも出てくるだろう。アイツは生徒会の副会長をやっているのだが、その地位と同じく学園内の序列は二位だ。天現融合のない素の能力で六星級の彼女を、オレは超えていかなければならない。そうでなければ、オレは彼女を守るだなんて言えないのだから。


 「おい、ミルアルト!お前は俺達のクラスからは誰が予選を勝ち抜けると思う?」


 Cクラスの予選を見ていると、後ろから声をかけられた。その声の正体はラルヴァだ。なぜかは分からないが、以前の決闘以降オレに話しかけてくることが多くなった。


 「そうだな……オレは当然進むとして……お前もそうだろうな。あとはリアンとカミュールが妥当じゃないか?」


 「お前もそう思うか。教師共も俺達が当たらねぇように上手く振り分けてやがるしよ。」


 予選も本戦と同じようにトーナメント式で上位4名になるまで行われる。ただし敗退した者でも一度だけ上位4名の誰かに挑戦する権利は与えられ、それに勝利すれば打ち負かした者を押し退けて本戦に出場できる。実際には今回のようにある程度強い者達は当たらないようになっているため、敗者復活はなかなかないのだが。

 ちなみにリアンという者は四星級の魔法師、カミュールという者は五星級の剣士だ。カミュールに関しては女子だが剣を振るスピードだけはオレを上回っている。その上魔力量と天現融合を鑑みるのなら一年では唯一オレに匹敵する実力を持っているだろう。


 「そういえばルーシュさんがお前のこと探してたぞ。生徒会にでも入れてもらうのか?」


 「んなこたぁないだろ。一年の生徒会入りは序列戦以降しか認められてないんだ。まぁ探されてんなら会いに行くか、暇だし。」


 生徒会に入っていれば序列戦の予選はパスすることができる。いわゆるシード権というものだ。それ以外にも様々な特権はあるようなので誰もが入りたがるのだが、その分忙しそうなのでオレはそこまで積極的ではない。むしろ勧められても断りたいくらいだ。

 オレはルーシュを探すために三年の予選が行われているところまで歩いた。オレ達一年とは熱気も迫力も異なっていた。特等クラスでなくても相当強いと確信できる。


 「あ!ミラ!!こっちに来てたんだ!!」


 「ルーシュが探してるって聞いたから。すれ違うと面倒だから三年側こっちに来たんだけど思ったより早く会えたな。」


 「へへ!そうだね!」


 ルーシュは相変わらず活発な少女という感じだ。知らない人からすればとても学内二位の実力を持ってるなんて考えられないだろう。オレだって初めて聞いたときは疑ったものだ。


 「それで?何か用でもあったのか?」


 「いや、別に?今日は暇だし応援にでも行こうかなって。」


 「それはまぁありがたいけど……。」


 わざわざ応援に来てくれるなら嬉しいが、三年こっちの方はいいのだろうか。友達の応援とか……そもそも生徒会は仕事もあるだろうに。


 「会長殿には怒られないのか?あの人はちゃんと生徒会の仕事やってるだろ。」


 「別にいっつもサボってるわけじゃないもん。先輩は優しいし許してくれるよ。」


 「……鬼教官は?顧問だろ?」


 「………見つからなければ怒られないよ。」


 見つかったら怒られるんじゃねぇかよ。本当はオレに構う暇もないんじゃないだろうか。純粋にオレの応援をしたいと思ってくれてるのか……それともサボるための言い訳か……。


 「それで?初めての序列戦、何か目標はあるの?」


 「……生意気かもしれないけど、目標はもちろん優勝だよ。オレはルーシュと当たっても、生徒会長と当たっても、勝つ気で戦うからな。」


 「おぉ!そっか!!……じゃあ残念だけど応援には行かない方がいいのかな。予選を通る自信はあるんでしょ?」


 「自信はあるけど……別に応援はしてもいいんじゃないか?」


 「ダメだよ。もし本戦で当たったときに、私だけミラの戦い方を知ってたんじゃ平等じゃないでしょ?」


 まぁ……それもそうなのか?確かに最近はルーシュと特訓することもなかったし、互いにスタイルは知らないな。変なところで律儀だな……。


 「私はミラと当たっても手加減はしないからね。その代わりミラも遠慮しちゃダメだよ!」


 「当たり前さ。むしろ手加減なんてされたら絶交だからな。」


 ルーシュが突き出した拳に、オレの拳を当てた。こんな約束をした以上、ルーシュと当たるまでは絶対に負けられないな。オレはしばらくルーシュと一緒に三年の予選を見て、オレの番が近づいてからは一人で一年の方へ向かった。

 特等クラスの予選はそれまでのクラスよりもスムーズに進んだ。というのも、オレやラルヴァのような突出して強い者があっという間に勝負をつけてしまったからだ。特にオレは能力スキルや魔法をことごとく破壊できたため、手こずることもなく勝ち進むことができた。そしてオレやラルヴァの予想通りの四人が本戦出場ということになった。だが本戦はそう簡単にはいかないだろう。オレの能力スキルは魔力や魔法そのものを斬ることができるが、セリアのようにオレと隔絶した魔力を持っている相手には大して通用しないことは分かっている。塵も積もればなんとやらと言うように、そういう相手には大胆に攻めることはできない。少しずつ削っていくということが大事だ。


 「グランデュース君……君は魔力量が増えない体質なのかと思っていたのだけれど、そうじゃないのか?」


 予選が終わって寮に帰ろうとしていたときに、そう言ってオレに話しかけてきたのはカミュールだった。彼女の戦いは実に圧巻だった。スタイリッシュというかなんというか……無駄のない剣捌きには見惚れたものだ。


 「オレも今までそう思ってたんだけど、違ったみたいだ。見て分かるほど変わってるか?」


 「そうだな。確かにまだ三星級のようだが……もうじき昇級しそうだな。」


 「やっぱりそうか。なら本戦までには四星級に仕上げて来るか。」


 「ふっ。それならば本戦ではぜひとも君と戦いたいな。もし当たらなければ……そのときはいつか一戦頼むよ。」


 「……そうだな。オレもお前とは戦ってみたいと思ってたんだ。こちらからもお願いするよ。」


 そう言ってオレはカミュールと別れ、寮へと戻った。本戦は体力回復のためにも予選から一週間後に行われる。それまでは休むも鍛えるも自由。オレは今まで通りに魔力制御のために時間の大半を使い、夜はセリアと一対一での特訓を続けた。

 そしていよいよ本戦の前日となった。今日一日は身体をしっかり休めることに集中し、魔力制御の特訓も夕方に少ししただけだった。一週間というのは長いようで、けれど過ぎてみれば虚しくなるほど早かった。力を上げるにはとても充分とは言えない時間だったけれど、それでも今日には完成している予定だった。……いや、先週にはすでに完成してると思ってたんだが……。


 「なぁ、セリア。オレはの魔力はまだ三星級だよな?気づかないうちに四星級になってた、なんてことはないよな?」


 「ないわね。三星級の最上位ってところかな。」


 「……おかしくないか?流石にもう三星級は突破しててもいいだろ。」


 正直先週の予選から魔力量が増えた気がしない。当然普通は一週間で増えるようなものでもないのだが、オレが今までしてきた特訓は普通じゃない。実際にそれまでは数日でも感じるほどの変化があった。オレはまだ三星級なのだから、伸び悩むなんてことも起こるはずがない。


 「ミラの魔力は質が高いって話したでしょ?今まで身につくはずだった魔力を飲み込んでたからって。」


 「それは覚えてるけど……何か関係が?」


 「たぶんね、そのせいで普通の人以上に階級の壁が高くなってるのよ。時間をかければ突破もするでしょうけど……まぁ本戦で良い刺激を得られれば突破できると思うわよ?階級の壁なんて曖昧なんだろうし。」


 「本戦には四星級になって挑みたかったんだけどな。……今からセリアと手合わせしてもダメなのか?」


 「それも時間をかければってところね。今までと同じようにやっても刺激なんて得られないでしょ?刺激を得られるほどのことは本戦前にしない方がいいし。」


 もっともだな。あぁ……カミュールには四星級になるって言っちまったのに……。どんな顔して会えばいいんだ。


 「まぁいいじゃない?試合の最中で覚醒なんてカッコいいわよ?」


 「……まぁそうだな。」


 その夜はセリアに魔力を整えてもらうだけにし、早々に眠りについた。A以下のクラスの試合は今日行われたから、明日は朝一からオレ達の試合だ。間違っても寝坊をするわけにはいかない。


 当日は早朝に起き、軽く運動をしてから闘技場へ向かった。まだ試合が始まるにはまだしばらくの時間があるというのに、観客は随分と賑わっているようだった。そんな観客を横目にオレは選手室へ向かい、自分の出場する番を確認した。


 「一戦目からかよ……。相手は2年の………。」


 ガラヌという男だ。聞いたことのない名だな……序列は無しか。油断はできないが序列持ちじゃなくてよかった。

 昨年の四年生には、序列持ちが四人いた。彼らは卒業したので今は残りの四人しか序列を持っていない。そんな者達とは身体を温めてから戦いたかったからな。


 「勝てるのか?ミルアルト。」


 「勝たねぇでどうするよ。お前は自分の心配でもしてろ、ラルヴァ。」


 「君、まだ三星級じゃないか?四星級になるとかなんとか、言っていたじゃないか。」


 「……まぁ色々あったんだよ。期待は裏切らねぇさ。」


 選手室にいたラルヴァとカミュールと話しているうちに、気づけばもう時間となっていた。リアンは無口だからあまり話せなかったが、誰も緊張はしていなさそうだ。むしろ高揚していた。そんな彼らの高まりを先取りするように、オレは選手室を出た。


 「さぁ、お待ちかね!!聖都魔法学園、特等クラスの序列戦がいよいよ始まります!」

 「栄光の一戦目!序列戦本戦初出場!序列入り候補が一人!二年・ゼゼウラ=ガラヌ!!」

 「そして生まれながらの三星級でありながら、今もなお三星級という少年!しかしその実力は確かなものだ!!一年・グランデュース=ミルアルト!!」


 会場に鳴り響く実況と共に、オレとガラヌさんは闘技場に入場した。ひどく盛り上がった歓声の中、オレ達は向かい合った。


 「それでは序列戦一回戦、第一試合、始めッ!!」

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