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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第一章 聖都魔法学園 序列戦
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第05話 疲労困憊

 オレは鞘にしまった剣を杖にしながら、なんとか訓練場に辿り着いた。授業の始まる2分前だ。あと少し遅れていたらマズかったな。


 「では今日も各々修練をしてください。何かあれば私を呼ぶように。いいですね?」


 オレは木陰に座り、早速魔力を練り始めた。昨日は酷かった。セリアに魔力を整えてもらったところまでは良かったが、その後近くの広場で手合わせをしたのがいけなかったのだろう。セリアのしごきは思った以上に長くキツイもので、何時間もの間ただひたすらに投げ飛ばされ続けた。オレは剣と能力スキルを使い、セリアは丸腰で身体強化の魔法しか使っていなかったというのに、まるで歯が立たなかった。セリアの動きを盗もうにも速すぎて目にも追えなかったし……セリアは言葉の通り身体に叩き込むつもりなのだろう。こんなことを毎日続けていては死んでしまうぞ。


 「ミルアルト君、顔色が優れないようですが大丈夫ですか?授業で体調を崩すのは褒められたものではありませんが……。」


 「ああ、いや、大丈夫ですよ。ウチの守護者がなかなかスパルタで……昨日も特訓してたんですけど、身体中痛くて眠りが浅かっただけです。あの人が見てくれているので体調不良にはなりませんよ。」


 「なるほど……そういうことなら私からは何も言えませんね。頑張ってください。君ならどんな苦行も乗り越えられますよ。」


 先生はそう言ってオレを励ましてくれた。心配してくれているし、同じくらい期待もしてくれているらしい。そんな人の期待にはぜひとも応えたいものだ。


 (“苦行”だってさ。やっぱり眠れなくなるような特訓は普通はしないんだよ。)


 (普通にやってて強くなれるわけがないでしょ?そもそもあんなに長引いたのはミラがまだやるって言ったからでしょ。)


 (………。)


 オレはセリアの言葉にぐうの音も出なかった。確かにやる気に満ちていたのはセリアよりもオレの方だ。だけど長引かせたのはセリアの方だろうに……。いっそ一撃で沈めてくれれば楽だったんだ。…………いや、やっぱりそれは嫌だな。


 (それで、序列戦に向けてミラが何を鍛えるべきか考えたんだけど……。)


 (?魔力制御じゃないのか?)


 (それは基礎よ。それだけでも色々効率はよくなるだろうけど、戦闘においては出力が大きくなるだけよ。少なくとも短期間では大して変わらないわ。)


 それもそうか。元々魔力の性質をコントロールするための特訓であって、強くなるためのものではない。結果として強さに繋がることはあれど、それはすぐに実るものではない。序列戦に挑むにはそれだけでは足りないというわけだ。


 (じゃあ何を?)


 (ミラは能力保持者スキルホルダーだからね。魔法は効率的じゃないわ。私の魔力を貸してあげれば炎魔法はほとんど無制限に使えるでしょうけど、それはミラも気に入らないでしょ?)


 (そうだな。セリアの力をオレの力と言えるほどオレは強くねぇから。そんなので勝てても嬉しくはないな。)


 (だからミラに習得してもらうのは身体強化の魔法と“魔力の圧縮”、その上で剣術を磨くわ。)


 身体強化は魔力の運用が肝になる。だからそれは魔力制御の特訓で上達できるものと考えて……。


 (圧縮って何?剣術はセリアが教えてくれるのか?)


 (魔力の圧縮っていうのは、言葉の通り魔力を押し固める技術よ。そうすると魔力の密度が大きく変わるから、能力スキルや身体強化の出力に大きく影響を及ぼすわ。その上圧縮すればするほどその効果は出てくるし、場合によっては他のエネルギーに変換しなくても物質に直接影響を及ぼせるわね。)


 (………見えない壁を作れたりするってこと?)


 (そういうこと。今のミラの魔力量だと手のひらサイズが限界だと思うけど、それでも戦術の幅が広がるわね。それに防御力っていうのは単純に攻撃力にも転じるから、圧縮がどれだけできるかで戦闘能力は大きく変わるわ。)


 それは面白いな。見えない壁……剣に纏えばリーチも伸ばせるというわけか。オレの能力スキル……魔力特性と組み合わせれば魔法では防げない見えない鉄球みたいなものもできるかもしれない。切羽詰まった場面では戦局を変えられるほどの力になるかもしれない。


 (それで剣術だけど……これが一番重要で大変ね。グランデュース家の能力スキルは剣に纏えばその効果を最大限に引き出すわけだけど、結局一番大事になるのはその扱い方だからね。)


 (それが剣術か。大変ってのはまた何でさ?)


 (剣術っていうのはね、型も必要だけどやっぱり実戦でどれだけ上手く攻めれるかが大事なのよ。だから自分自身でそのスタイルを確立していくわけで、特にグランデュース家には決まった剣術が継承されてないってこと。要は兎にも角にも実戦で自分のスタイルを作り出すってことね。)


 (へ、へぇー………。つまり……ちょっと嫌な予感がするな。)


 (だから毎日私とお稽古するわよ。死ぬことはないから安心しなさい。)


 昨日の特訓を毎日やるのか……身が保たねぇよ……。でも甘えたことは言ってられないし、どうやら覚悟を決めなければならないらしい。オレは密かに腹を括った。

 それからオレはたまに与えられる休息に希望を持ちながらセリアのしごきに耐え続けた。朝も昼も夜も、少しでも気を抜いてしまえば意識が飛びそうなほどに疲弊していたが、その分オレは確実に成長していた。オレの剣は一日ごとに鋭くなり、セリアも最初は全て受け流していたが少しずつ受け止めるようになっていた。まだまだセリアに届くほど強くも速くもない剣だけれど、セリアの作る魔力の壁には刃が通るようになっていった。体力や剣術に磨きがかかっているのとは反対に、魔力はそこまで成長していなかった。未だに無意識下で魔力を制御するには至っていない。球体として作り出せば魔力性質を抑えることはある程度できるが、それを体内で行うのは難しかった。まだ短時間なら制御できるだけマシだろうか。

 オレの悩みとは反対にセリアはその調子で良いと言ってくれた。もともと長期的に習得するつもりだったために、戦闘中だけでも制御できるのであれば御の字だと。セリアと剣を交えている間は少し覚束ないところもあるが、確かに対等か少し強い程度の者と戦うのであれば魔力制御に意識を向けることもできる。セリアとの特訓は、常に格上と戦うことでその余裕を作り出すという意図もあるのかもしれない。そして毎日魔力を使い果たすことによって、魔力量も少しずつ増えているようだ。回復するときはセリアがオレの魔力特性を抑えてくれるので、それには感謝しかない。


 (オレはもうすぐ四星級にもなるんじゃないかって思うんだけどさ、思ってみたら階級の差ってそんなにあるのかな?オレは階級が上がることもなかったから分からないけど、ちゃんと計測しないと自分でも昇級したかどうか分からないのかな?)


 オレは授業の合間、昼休憩時に飯を食べながらセリアに尋ねた。魔力量は少しずつ増えていくのだからその境界を知らなければ階級の変化に気づけないのでは?という単純な疑問だ。


 (私もその階級を実感したことはないから何とも言えないけど、それぞれの階級には壁があるんだと思うわ。だから三星級の壁を超えれば魔力量が底上げされてなんとなく分かるわよ。)


 (壁?そんなのがあるのか?てっきり魔力量はグラデーションみたいに変化していくもんだと……。なんか段階ステージみたいなのがあるのか?)


 (うーん……。そうじゃなくて……そもそも言葉には強い力があるのよ。世界が神に、神が生物に与えたものだからね。これに関してもある種の条約なんだけど……言葉で何かを限定すると、その範囲に至ったときにその恩恵を得られるのよ。昔で言えば法帝に選ばれるとその言葉の持つ力を恩恵として得られたし……分かる?)


 (………ちょっと難しい。)


 (じゃあ……少し違うけど魔術がその類よ。想像力イメージが大事な魔法だけど、その柔軟性を捨てて魔法陣コトバで限定することで効力を高められるでしょ?言葉っていうのは世界のモノだから、それだけ強い力を持ってるのよ。)


 分かるような分からんような……とにかく言葉はスゴいってことだな。うん。そういう風に理解しておこう。とにかく四星級に至ったことが分かるなら何だって構わないんだ。それを実感できるまで鍛え続けるだけだ。


 「おいおいおい、ミルアルト君。そんな隅っこで飯食ってねぇでよ、ちょっと俺らとも話そうや。」


 「何だ?お前から話しかけてくるなんて珍しいこともあるもんだな、ラルヴァ。」


 飯を食べながら休憩していたオレに話しかけてきたのは、クラスメイトのラルヴァとその友人だった。こいつは確か四星級……いや、つい最近五星級になったんだったか。喧嘩腰の目立つ男だが、天転召喚が成功しているということは魂はある程度キレイなんだろう。……とても善人と言えた男ではないが。オレに吹っかけてくることは今までなかったと思うんだがな。


 「お前、まだ天現融合を習得できてねぇんだろ?せっかくだ。優しい俺が教えてやるよ。」


 「へー!もう習得したのか!?そりゃスゴいな!」


 「そうだろ。もっと褒めてくれてもいいんだが、それが用じゃないからな。俺が直々にお前に叩き込んでやる。実戦形式でな。」


 ほう……。なるほど、今まではオレに敵わないと避けていたが、天現融合を習得してオレを叩きのめすことができると考えているわけか。面白いヤツだ。ちょうど良い。オレもどれくらい強くなったか気になってたんだ。


 「よし、受けてやろう。オレも五星級の実力ってのが気になってたんだ。」


 「はっ!生意気は変わらねぇな。しっかりその目に叩き込むんだぞ。俺の力を。」


 「先生!闘技台を借りてもいいですか!?オレもラルヴァも同意の上で決闘をします!」


 「………血の気が多いのは褒められたものではないのですけどね。まぁ面白そうなので許可しましょう。思う存分にやってみなさい。」


 ……今先生の素が出たな。先生…七星級なんて力の権化みたいなものだからな。一見真面目で優しく思えるけれど、案外生徒のこういうノリに理解が深い。本当に良い先生だ。


 「真剣は痛いだろうからな。一応は木刀で相手してやろう。」


 「気に入らねぇな……!お前、いつまで上に立ってるつもりだよ?」


 「そんなつもりはないさ。上にはこれから登るんだから。」


 オレとラルヴァは護符を魔力で燃やして闘技台に入った。護符を燃やした者が与えた傷は、特定の結界内であれば精神力を削るだけで現実の肉体には影響を出さない。結界内では傷は負うのだが、外に出ればその傷はただの精神疲労となるだけなのだ。その上負った傷に苦痛はなくただ特殊な違和感を覚えるだけであり、つまりは負傷の心配をなしに戦えるというわけだ。これは比較的新しい技術で、政府が管理しているために市場には出回っていない。セリアと特訓するときもこれがあればもっと楽なのに……まぁ仕方ないか。

 木刀は普段使っている剣ほどは手に馴染まなかったけれど、こういう経験も大事だと思う。少なくともセリアが口を出してこないということは、彼女も似たような考えなのだろう。……さて、五星級の天現融合が気になるな。


 「見せてみろよ。それが気になったから受けてやってるんだ。」


 「ふふっ……。鼻につく言い方しかできねぇのかテメェは……。まぁいい。よーく見てみろ!!」


 「おぉ……!」


 ラルヴァの周りに水が渦巻いたかと思ったら、その水は次第にラルヴァの身体へと侵入していった。青い魔力が脈のように身体を張っているが、それ以上の見た目の変化は感じられなかった。しかし魔力量は跳ね上がっていた。ラルヴァの魔力の属性は水か。オレは様子見のために軽く構えた。


 「分からないな。この程度じゃあまだオレに斬られるだろ。」


 「分かってねぇのか。お前は剣で斬れるだけ。反応できなきゃ関係ねぇだろ!!」

 「『氷槍アイススピア』!!」


 「ッ!?」


 氷の線が、高速でオレを貫こうとした。オレは木刀でそれを弾いたが、それなりに重い一撃だった。氷は水の上位属性だ。ラルヴァが水属性だとして、発動自体は容易だがこの発動速度であの重さはアイツの実力じゃ不可能なハズ……。なるほど。守護者が補助サポートしているんだな。そういう利点もあるのか。


 「よしっ!もっと見せてみろ!今のお前は魔力量だけなら五星級の上位だろう!?」


 「初撃を受け止められたからと……調子に乗るんじゃねぇ……!!」

 「『氷槍アイススピアレイン』!」


 「悪くないな!」


 ラルヴァは魔力を総動員して氷の槍を空一面に作り出した。そしてそれは計算された経路ルートでオレに向かってくる。一本や二本避けたところで、その全てを躱すことはできないだろう。が、その速さや大きさはさっきのものと変わらないようだ。アイツの守護者がどれだけの演算能力を持っているのか知らないが、現状のラルヴァの限界点があの氷槍アイススピアなのだろう。守護者がそれを通常攻撃として扱えるようにしているが、それ以上の力を引き出せるというわけではないらしい。やはり勉強になるな。


 「『嵐剣サイクロン』!」


 「なッ!?」


 オレは雨のように降り注ぐ氷の槍を、一振りで全て粉砕した。圧縮と発散、セリアの教えてくれたものは便利なものだった。オレの反属性の魔力を受けた氷の魔法は、その形を維持することなど不可能だった。オレは魔力を脚に溜め、それを爆発させてラルヴァに急接近した。これは魔力の集中による部分的な身体強化の底上げだ。


 「ふーッ……。オレが一本取ったってことで……いいよな?」


 「ッ……!!」


 ラルヴァは反応することもできずに、オレの接近を許した。木刀の剣先はラルヴァの喉元を突きつけ、オレはいつでもその喉を開くことができる状況だった。能力スキルを使えば木刀で斬ることなど造作もない。


 「………俺の負けだ。参ったよ。」


 「ふぅ……いや、勉強になったよ。……良い試合だった。またやろう。」


 「けっ!誰がお前なんかと……。」


 ラルヴァはオレと形だけの握手を交わしてどこかに行ってしまった。全力ではないとはいえ、セリアといつも手合わせしているおかげでラルヴァの魔法の速さを見切ることができた。ラルヴァはまだ戦い慣れていなかったから有利に戦えたが……問題は持続力だな。セリアにはいつも技を発動する暇もなく攻められ続けていたから気づかなかったが、オレは魔力消費の激しい技を使うとすぐに疲れてしまう。今回も“嵐剣サイクロン”による魔力の圧縮と発散、部分的・集中的な身体強化の二つを使っただけでヘトヘトだ。可能な限り魔力を抑えて戦えるようにしないと……。


 (セリア、今の試合は何点だ?)


 (勝ったから100点。)


 (んな適当な……。)


 (いいのよ。何点でも私がミラをしごくのは変わらないんだから。だから最高点でいいの。)


 褒めたいのか追い込みたいのか……。オレが反省点を理解しているからわざわざ追及はしなかったってとこかな。……期待はしちゃいなかったけど、地獄の夜は変わらないんだな。


 「ミルアルト君、お疲れ様でした。天現融合も使わずに五星級を打ち破るのはなかなかスゴいことですよ。天現融合についてはヒントを得られましたか?」


 「勉強にはなったけど……って感じですかね。習得するにはもっとオレ自身が強くならないといけませんから。」


 「そういう上を目指す姿勢、私は好きですよ。それと校長先生がお呼びでした。授業が終了したら校長室へ行ってみてください。」


 「お!分かりました!」


 誰かと連絡ができたってことかな。セリアが会いたがっていた人達だけど、オレも会ってみたいからテンションが上がった。世界最高峰の人達なんだから当然だ。オレは授業で魔力制御を鍛え、数時間後、それが終わってから校長室へと赴いた。

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