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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第七章 英雄の街
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第43話 客人訪問

 1週間か、1ヶ月か……あるいはもっと長い時間が経ったのか。この結界で流れる時間はどうにも分かりづらかった。


「ぐ……ぐぐ……!」


「おっ!」


 やっと、やっと一歩、オレは前に踏み出した。今にも潰れそうな脚を両手で支え、唾液と血液の混ざった液体を吐き出しながらゆっくり、けれど確実に立ち上がった。


「ここは楽園、その名の通り外界とは効率がまるで違う。が、よくやった。さぁ、少し緩めてやるから、斬りかかってみなさい」


「ッ……!」


 まるで羽が生えたように、身体がフワリと軽くなった。これなら……充分に動ける!


 焼けるように肺が苦しい。身体が痛い。でも動ける。


 一太刀……今はただそれだけでいい。


「“叢雲剣”……」


 渦巻く魔力を全て八雲に流し込む。白く発光した刃が師匠を捉える。斬る。躊躇わず、殺すつもりで……。


「『天翔暴風てんとのぼうふう』!」


 魔力は、太刀筋は空間を巻き込んで、捻りながら刀を振った。


 本来、セリアとの天現融合があっての技だが、自分でも驚くほどの完成度だった。炎を纏わずとも空気を焼き切り、空間を無視して無限の果てまで刃が届く。


「くッ……!」


 ただ師匠には届かない。相変わらず一歩も動かす、ただ立ち尽くしている。魔力の壁か、あるいは魔素の壁か……オレの魔力ですら壊せないほどの圧縮率……。


 限界を迎えたオレの身体が、脚から順に崩れ落ちた。意識がぼやける。呼吸さえ難しい。


「おっと、限界か。よくやったよ。本当に……。もっと時間がかかるもんだと……」


 遠のく意識の向こう側で師匠の声がした。……気がする。けれどもう保てない。死ぬとはこのことだろうと思えるほど、全ての気力を消費してしまった。だが大丈夫、師匠がいるから……。


***


「……ッ!?」


 気づくとベッドの上に横たわっていた。あれから……あれからどれだけの時間が経ったんだ? 筋肉が痛い……が、動けないこともない。


 窓の外に視線を移した。あぁ、もうすぐ朝か。薄い光が山の向こうに微かに見える。そうか、2日か3日か……寝続けてたんだろうな。


「くっ……うぁあ……」


 背筋を伸ばすと気持ちいい痛みが走った。背筋と、腹筋と……四肢の筋肉が傷ついてるかな。苦しい修行だ。それでちゃんと、成長を感じるのが嫌なところだ。


「おはよー……ございます……?」


 階下に降りると、昨日の残りか、少しばかりのスープがあるだけで、あとはただ静寂だった。そっか。そういえば師匠は朝に弱いんだったか。


 何かと早朝から起きていることも多かったが、あれは徹夜しているときだけだとか……。老体に響くだろうに、そう思いながらスープを椀によそった。


「んん……美味いな」


 師匠は飯屋を営んでいただけあって、料理の腕は本当に素晴らしいものだった。そこらのレストランや料亭よりはずっと美味い。長く生きているからなのか、それ以外の理由もあるのか……。


 コンコン……


 片付けのために腰を上げたその瞬間、扉を叩く音がした。ふと視線を師匠の部屋にやった。あの人の魔力は感じることができないから、確証はない。が、気配は確かにそこにある。


 誰だ……? 普段の師匠の雰囲気からするに、知り合いがいるとはなかなか思えなかった。そしてここは迷って入るような場所でもない。ということは、明確にこの場を訪ねてきた存在……。


「エス……ん? あぁ、いや、アリスはいるか?」


 若い女の声……師匠の知り合いか。考えたのが無駄だったろうか、少なくとも敵対者の声ではない。


「師匠はまだ寝てますが……今行きます。少し待っててください」


 食器を片付け、身だしなみを簡単に整えてからドアノブに手をかけた。扉を開けかけてふと違和感に襲われた。師匠の知り合いが……いるのか、と。あれだけ悲壮感漂っていたあの人の知り合い、まず只者ではないだろう。


「おや、師匠とは。アイツも珍しいことをしたもんだな」


「ッ……!」


 彼女に顔を覗かれた瞬間、言い得ない圧迫感がやってきた。ただ者ではないと、確かにそう思っていた。しかし目の前のこの女は……師匠やアルファと同程度の……いや、それとは全く異なる種類の恐ろしさがあった。


「……ん? あぁ、なるほど。おかしな話だとは思ったが、君、グランデュースか」


「……? 何か知ってるんですか……?」


「さぁ、どうだか」


 彼女はやれやれといった素振(そぶ)りで、そして堂々と家に入ってきた。オレにはそれを止めることができない。気になることと、聞きたいこととあり、そしてオレは彼女を止められるだけの力がなかったから。


「えっと……お客さんってことでいいんすかね? 名前を聞いても?」


「ん? 私はケイラだ。あんま口外しないでくれな」


 ケイラさんか。見た目は綺麗なのに、その底知れない異質な魔力がオレの心を震わせる。何者だと、聞きたいけれど聞けない。


「——さんは……ッ!?」


 “ケイラさん”、そう言おうとして、オレの声が遮断された。なぜだ? 何者かが近くにいるのかと勘繰ったけれど、そんなことはない。そんな小さな力じゃない何かが……。


「はっはっ! そうかそうか、君にゃ無理だったか。そうだな……うーん……よし。コンと呼べ」


「……あ、あなたは一体……」


「ん〜……おいおい、なんかうるさい魔力が来てると思ったら……。事前に言ってくれんかね、ケイラ」


「旧友に酷い言いようじゃないか。もっと感動してくれよ」


 階段を降りてやってきた師匠の顔は、眠そうで、それでいて少し輝きのある目だった。

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