第42話 番外集結
時は少し遡り、これはエプシロンが殺された翌朝のこと。彼らは架空空間の一際大きな部屋に集結していた。番外が全員集まるのはまさに数年ぶりのことであった。もっとも、元々五人いたはずの番外が四人に減っていたため最後に集結したときとはまた違った状況ではあったが。
世界各地に散らばっていた彼らがこの地に集まったのは当然、エプシロンが殺されたためだ。番外は全員が人類最強と呼ばれるアーサー=ベルドットに匹敵、あるいは凌駕するほどの力を持っていた。番外最下位であったエプシロンでさえだ。だからこそ、その一人が失われることは異常事態だった。
「……それで? 誰がエプシロンを殺したんだ? 俺達を殺せるとしたら……ベルドットかフリナくらいなモンだろ?」
行儀悪く椅子に座りながらそう話した彼女は番外の四位、デルタだ。そしてその隣に三位のガンマが座っていて、彼らと向かい合うようにベータとアルファが座っていた。
そんな中で一際目立って大きな魔力を持っていたのはベータであったが、当然、ガンマやデルタの魔力量が少ないというわけではない。むしろエプシロンと比較しても圧倒的に多い。ただしエプシロンとデルタとの間とガンマとベータとの間には格差があるというだけだ。
そしてその空間の誰も、やはりアルファの魔力だけは正確に感知することはできなかった。
「エプシロンの奴ァジュートレッド帝国のプリセリドに行ってたそうだ。ネフィル=フリナはもちろんだが、ベルドットもあの街にゃあ行っちゃいねぇ」
「な、なら……一体誰が? 僕達に届き得る人が他にいるってこと……ですか……?」
「……ルシファーが言っていました。プリセリドにはベルドットの師匠がいる、と。あの街は“英雄の街”、そこにエプシロンを殺せるほどの者がいるとするならば……彼しかいないでしょう。にわかには信じ難い話ですが」
アルファは重い口を開いてそう話した。人類最強の師匠になれるような者などそうそういない。そもそも九星級に至る者が歴史上でも数える程度にしかいないのだ。そしてエプシロンはそれに匹敵していた。それを殺せる者など本来存在してはいけないほどに異常なのだ。
「な、ならどうするんですか? 僕達を殺せる脅威は早いうちに消しておく方が……」
「俺もガンマに賛成だな。エプシロンと戦ったなら今が一番弱ってるんじゃねーのか?」
「バカなことを言っちゃあいけやせんよ。仮に力が拮抗していたのなら……そうでなくとも勝負になるほど実力が近かったのならアイツはあっしらに連絡をしたはずだ。瞬殺された……そう見た方がいい」
「んなバカな! アイツの能力で瞬殺されるなんてことがあるのか!?アルファさん、アンタでもそれは無理だろ!?」
「……しかし相手は大魔王ですよ。一万年以上生きている化け物に常識は通用しません」
アルファは確かに強い。それこそ法帝や他の番外と比較すれば圧倒的に。けれどそんな怪物を超える化け物も存在するというワケだ。
「なら全員で戦えばいいじゃねーか。俺とガンマ、ベータ……それにアルファさんもいりゃ流石に勝てんだろ?」
「それもまた確証は持てませんが……ベータ、ルシファーはなんと?」
「王は手を出すなと仰っていやす。いやに彼を恐れているようで……」
「ならばそれが答えですよ。私達がどうすることもない。くれぐれも勝手な真似はしないでください」
「ッ……! こちとら弟分を殺されてるってのに……黙って待ってろと……?」
ガンマはギリギリと歯軋りをさせながらそう放った。強く握り締めたその拳からは赤い血が流れていた。けれど王の命令に逆らうことはできない。縛られているからではない。彼らは王に絶対の忠誠を誓っているからだ。
「しばらくはプリセリドに近づかないようにしましょう。少なくともルシファーから命令がない限りは」
「……分かったよ。王がそう仰ってるなら俺達ゃ手を出さない。だが王が許可を出してくれれば俺はすぐに殺しに行くぞ。ネフィル=エストを……!」
「ええ。それに反対はしませんよ。ただし無謀な挑戦はしないでください。君だって私達にとって大切な兄弟なんだ」
そう言ってアルファは姿を消した。そして順番に全員が部屋を出ていった。緊張から解き放たれたその部屋は急に軋み始め、そのすぐ後に机や椅子が崩壊してしまった。
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その日の朝は師匠の姿が見当たらなかった。どこかに出かけているのか……? 朝食だけは用意されていたのでそれを食べて数十分ほど待っていると、師匠は壁に頭をぶつけながら帰ってきた。
「……何してたんですか?」
「華陽の娘を治してきたんだ。寿命が縮んでいると言っていたろう? もう大丈夫だ」
……星香のこと……だよな? 治せるものなのか? そんな簡単に……?
……まぁ師匠が言うのならそうなのだろうな。オレがどうしようかと悩むはずだったのだが……ヨシとするか。解決したのなら問題視する必要もない。
しかしふと気になったことがある。そんなことがあるのだろうかとも思うのだが、今の師匠の様子からどうにもそう考えずにはいられない。
「……師匠って、実は目が見えてなかったりします?」
「目か? そうだね……確かに生来の視力は失ってしまったから、目は見えてないとも言える。だが見えてないと言えばそれもそれで嘘になるな」
「というと?」
「魔眼があるからね。ある程度の輪郭は見えてるのさ。もっとも、今は転移やら治療やらで力を使ってしまったせいで視界も悪いが……。君が気になったのも私が壁にぶつかったからだろう?」
「ええ……」
“目が見えていない”。そんなハンデを背負ってもあれだけ強いのか。魔眼でどれだけ見えているのかは分からないが……
「さぁ、今日も修行を始めるぞ」
「いいんですか? お疲れなんでしょう?」
「ふふ……そうだな。君が私の前に立てるようになったら、そのときは休憩しようか」
オレはまだ師匠の眼中にすらない。脅かす存在になっていないということだ。悔しいが現実、いつか一撃浴びせてやる……!
「よろしくお願いします!」




