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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第七章 英雄の街
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第40話 綺麗事じゃ世界は回らん

 オレが目を覚ましたのは翌日の朝のことだった。見たことのない部屋に寝かされていたが、これが師匠の家だろうということはなぜか理解できた。窓の外に目をやると森が広がっているのが見えた。そこまで離れてはいないだろうが、どうやらここはプリセリドではないらしい。オレは起き上がって軽く伸びをした後、一階に降りた。不思議なくらいにすっかり良い気分だった。


 「おお、起きたか。ほら、これでも食べなさい。」


 「……ありがとうございます。」


 一階に降りると師匠が朝食の準備をしてくれていたようで、オレは椅子に座ってそれを食べた。まるでオレの起きてくるタイミングを知っていたかのように用意していたが……まぁいいか。何より飯が美味い。


 「……念のため確認するけど、本当に君は私の元で修行するつもりなんだね?」


 「ええ、もちろんです。なぜ今更?」


 その話は昨日した記憶があるが……まぁあのときは勢いもあったからな。それとは別にオレはアリスさんを師匠にしたいと思っているわけだが。


 「……命には順序がある。戦場ともなれば特にね。弱い命ほど軽く、強い命ほど重い。」


 「……それには同意しかねますが……。」


 「綺麗事ばかりじゃ世の中は回らないんだよ。……そして今の君は弱い命だ。軽い命は責任も軽い。今の君ならば戦いから逃げることも許される。若いのだから慎重になるべきとも思うが……。」


 そういう話か。なんだかんだ言う割には綺麗事が好きなお方のようだ。しかしそんな言葉で揺れるようなオレではない。そしてそれを分かっているせいで師匠もどこか歯切れが悪い。


 「何を言われようともオレは強くなりたい。逃げる人達を助けられるように、強くなりたいんです。」


 「……そうか。なら覚悟をしなさい。君の進む道は険しいものになる。それに負けないためにも私が厳しく叩き込むからな。」


 「はいっ!」


 オレは大きな声でそう答えて朝食を平らげた。すぐに強くなりたい。強くしてもらいたい。オレは師匠の食器も流しに持っていき、そこで洗っていた。師匠は自分で洗うと言っていたが、それくらいの雑用はオレに任せてもらいたい。


 「そうだ。良いニュースと悪いニュースがあるけど、どっちから聞きたい?」


 ……いつか聞いたような台詞だな。思い当たるような節はないが……まぁそうだな……。


 「悪いニュースからお願いします。」


 「まず君の魔力がこれ以上成長することはない。成長限界カンストってやつさ。それが君の天井だ。」


 「なッ!?オレはまだ五星級ですよ!?生まれたときから三星級はあって……。」


 「五星……魔力量の基準だったか?そもそも魔力量の上限というのには個人差がある。まぁアレだよ。その限界を超えると器にヒビが入ってしまうから魂と肉体がそれ以上の魔力を受け付けないんだ。」


 信じ難いというか信じたくないというか……魔力量だけを見た階級の最高位は七星級だ。八星級は基本的にそれを凌駕する魔力量を、九星級はさらにそれを凌駕するほどというのに……オレは五星級で止まっちまうのか?……八星級と九星級に認められるのに魔力量は関係ないとはいえ……せめて六星級……いや、五星級の上位は欲しかった。


 「……良いニュースというのは?」


 「君の魂に刻まれた恐怖の記憶を消し去っておいた。どういう経緯であんな記憶を埋め込まれたのか知らないが、復元はしなかったよ。あまりに酷かったからね。……詳細は聞かないことを勧める。」


 「……分かりました。ありがとうございます。」


 恐怖の記憶というと……たぶんアルファから幻術で見せられた何かの記憶だな。今日悪夢を見なかったのはそのおかげということか。だとしたらそれはだいぶデカい。刀を握ることにも刃を向けることにも、そして戦うことにも異常な恐怖心は持たないということだから。……どうやってそんな記憶を消したんだ?能力スキルか……?


 「そういえば師匠のことは今まで聞いたことがありませんが、表には出てなかったんですか?あれほど強いならなんでもできるような気さえしますが……。」


 師匠がエプシロンを殺したときのあの力、アレにはほとんど能力スキルの特殊な力は使っていなかっただろう。そもそも師匠の能力スキルがどのようなものかも知らないが、要はただただ圧倒的な力で吹き飛ばしたということだ。単純な力には有利も不利もほとんど存在しない。それほどに師匠は強い。


 「……確かに、私の強さがあれば大抵のことはできるだろう。ただしそれが問題なのだよ。私は強すぎるんだ。……もちろん若い頃はやんちゃしていたがね。長命種だからね。君が若いから知らないというだけだろう。」


 「……あなたは力を世界のために使うようなお人に見える。強いことの何が問題なんです?」


 「昨日も言ったが私は所詮古い時代の者だよ。今の人達に頑張ってもらいたいという気持ちもある。それに……。」


 「……それに?」


 師匠はどこか辛そうな表情を浮かべて言い淀んだ。この話題は変えた方がいいだろうか、一瞬そうも思ったけれどオレが話しかける前に師匠が話を続けた。


 「例えば10人を助けた結果100人が死ぬ未来と、10人を見捨てた結果100人が助かる未来、どちらが正しいと思う?あるいは愛する人を助けるか見知らぬ何百何千の命を助けるか、どちらの選択が正しい未来だと思う?」


 「それは……。」


 「強いて言うならばより多い命が助かる方がいいだろう。それが未来ならばね。ただし私の力は過去をも変えてしまう。本来生きているはずの命が、生まれてくるはずの命が失われることになる。本来の歴史や運命を変えてしまうのだ。だから私は、極力傍観することにしたんだ。この世界が崩壊でもしない限りはありのままの流れに任せようとね。」


 師匠の言葉はあまりにも重く感じた。過去を変えるなんてのは流石に言葉の綾かとも思ったが……いや、それも分からない。何にせよ、彼は世界のために奮闘した経験があるのだろう。そして上手くいかなかったのだろうということがその表情から感じ取れた。


 「……すみません。」


 「いや、疑問は遠慮なく口にするといい。私も老いた。若者との会話は楽しいものだ。特に君は若い頃の私に似ているからな。……さて、そろそろ修行に行こうか。しびれを切らす頃だろう?」


 「ッ!はい!お願いします!」


 皿洗いを終えて、オレは師匠と一緒に家の外に出た。やっぱりここは森の中だったようだ。そこから師匠に案内されて少しだけ歩いたわけだが……そこは別に開けた場所というわけでもなかった。それどころか生い茂っていてどうにも動きづらい空間だが……。それでも次の瞬間、オレは再び高揚した。


 「これは少し疲れるし……苦い記憶を思い出すから嫌なんだがね……。」

 「『神域召開レジェンド・ディメンション』」

 「『神々の園(エデン)』」


 「す……すげぇ……!」


 師匠が唱えると、不思議な空間……世界?が展開された。……いや、違うな。これは一般的な結界とは一線を画すものだ。結界を張ったのではなく、仮想の領域を召喚したんだ。どこまでも続く大地に見渡す限りに草花が生い茂っている。澄んだ川が流れているし、暖かく心地良い風が吹いていた。どう表現したらいいか……そう。ここは楽園と呼ぶに相応しい領域だった。


 「……時にミラ君、君のその妖刀、八雲だね?」


 「え?あぁ、はい。そうですよ。よく分かりましたね?」


 「少し貸してみなさい。」


 「まぁ……いいですけど……。コイツはオレを主人として認めてるので……。」


 オレは渋々と八雲を師匠に貸した。妖刀は主と認めた者以外に振られることを良しとしない。下手なことをすればむしろ刃を向けることになる。師匠ならば呪いに負けることもないだろうが……。


 「……おい、従え。」


 「ッ……!?」


 師匠はやや高圧的な言葉を八雲に向けたかと思うと、次の瞬間大地が二分されていた。大した力も込めず、ただの軽い一振りでオレの全てを込めた一撃を遥かに超えた破壊力だった。そして何より、八雲は師匠に大人しく従っていた。……まさか主人として認めたのか……?


 「安心しなさい。八雲コイツの主人は君だよ。」


 「はい……。」


 度肝を抜かれるというのはこういう気分か。師匠に常識は通じないと思った方がいいな。いつもやる気に満ちている八雲も師匠にだけはどこか怯えているようにも感じるし……。


 「師匠は八雲を知ってたんですか?」


 「昔少しね。それは元々修練用として打たれた刀だ。あまり頼りすぎるんじゃないぞ。そもそもグランデュースの能力スキルは刀よりも剣に向いているしな。」


 「……修練用って言っても……元々は鈴旗玄雷が使っていたのでは?」


 「アイツが使っていたのは花酒の方だ。八雲は贈り物だからと律儀に持ち歩いていただけで……いや、昔の話はいいか。」


 師匠はどうやら最低でも200年は生きていると見ていいな。鈴旗玄雷と知り合いそうな雰囲気だし……。まぁ今は探らなくてもいいか。とりあえず師匠には従順にいけばいい。


 「ベルドットさんは“黄金の魔力”を使えるようですが……それは師匠が教えたんですよね?もしそうならオレにも教えていただきたい。」


 「“黄金の魔力”……?なんだそれは?」


 「エプシロンを殺すとき使ってませんでしたか?魔力じゃないエネルギーを……。」


 「ん?ああ、アレか。そうか、他所ではそのように呼ばれているのか……。まぁ教えてもいいが……。」


 師匠は渋っていた。何か問題があるのだろうか?その内容にもよるだろうが、オレとしても譲り難い。もしかしたら星香の寿命を伸ばす手掛かりにもなるかもしれない。


 「華陽の神社家の人から聞いたんです。“黄金の魔力”がこの先の戦いに必要となると。加えて特殊な力のせいで寿命が縮んでいるようなのですが、もしかしたらその力が彼女の助けになり得るんじゃないかとも思うので……。」


 「……水晶の家か。君に魔眼を継承した子のことだね?まさかそんなことになっているとは……。」


 「……ん?なんで知ってるんですか?」


 「君を見れば分かる。だがそうだね。神社家のことは私が解決しておこう。“黄金の魔力”も教えるよ。だが今ではない。最初は基礎からだ。」


 突っ込むのはやめておこう。師匠はもしかしたら神社家に関わりがあるのかもしれないし、ないのかもしれない。この人のことだ。こんなことをいちいち気にしていたらいつまで経っても疑問が終わることはない。


 「基礎というと……魔力制御とかですか?そこそこできてる方だと思ってますが……。」


 「……まぁ後で見せてもらうが、それだけじゃないだろう?昇華もしなければならないし、それに追いつくように肉体を仕上げなければならない。……君はどれくらいここにいるつもりだ?」


 「夏休みが一ヶ月ほどなのでとりあえずはそのくらいを想定していますが……。」


 「一ヶ月?……二ヶ月だ。学校はもう一ヶ月休みなさい。」


 「そう……ですよね。一応できるだけ学園の方には行こうと思ってましたが……。」


 「学園に行くよりも私に習った方が意義があるぞ?もちろん若者は行けるなら学校に行く方がいいだろうし、学舎で学習することに意味があるとも思ってる。だがさっきも言ったろう?綺麗事ばかりじゃ世界は回らないんだよ。」


 師匠は悪そうな笑みを浮かべてそう言った。確かに学園に行くよりも世界最強と思しき人に鍛えてもらう方がずっと強くなれるだろう。しかしたったの二ヶ月と言われたのは意外だった。半年から一年、あるいはそれ以上も覚悟していたが、やはり師匠は優しいお方のようだ。オレは師匠に従ってここで二ヶ月修行することにした。

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