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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第六章 華陽大帝国
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第36話 行けば分かる

 「あなた様のことは……ミラ様とお呼びしても?」


 「ん?うん。まぁいいけど。」


 「そうですか。……嬉しいです。」


 星香は嬉しそうな、それでいてどこか寂しそうに話した。時折り見せる彼女の儚げな表情の正体は何なのだろうか。オレにはそれを尋ねることはできなかった。


 「ミラ様は、魔族についてどう思われますか?」


 「魔族ねぇ……あんま見たことねぇから分かんねぇんだけど、まぁ人間よりも基礎能力が高い種族ってとこかな?」


 「……人類の敵だとは思わないのですか?」


 「それはずっと昔の話だろ?まぁ根本的に粗暴な種族だとは聞くけどな。でもそればかりじゃないだろ。」


 「ふふ……ミラ様は素晴らしいですわ。背後にいらっしゃる英雄様の影響もおありなのでしょうか。」


 セリアのことも知ってるのか。占いってのは便利な力だな。まぁオレの視野が広いのは確かにセリアのおかげだろうが……そもそもオレが会った魔族ってのがユリハ様やその周りの人達だもんなぁ……。やっぱり会ってみないと分からないことはある。


 「実は私……というより神社家はアミシアという魔族の子孫でございますの。」


 「へぇ……。まぁ魔族の子孫ってのも珍しくはないんじゃないか?」


 神話の時代では人類と魔族は敵対していたらしいが、それ以降は交流も盛んだった。詳しくは知らないが魔族の血が流れている人間というのも世界中を見れば珍しくもない。


 「あなた様がそのような見方をするお方で良かったですわ。……それでその、アミシアという者が“黄金の魔眼(ゴルド・イヴァン)”の始祖でございますが、その起源ルーツについてお話ししますわ。」


 起源ルーツ……それが何に関係ある話なのかは分からないが、とりあえずは話を聞こうか。魔眼の起源ルーツとなればもしかしたらオレにも意味のあるものかもしれない。


 「“黄金の魔眼(ゴルド・イヴァン)”、それはもともと大魔王・ネフィル=エスト様から授けられた力なのです。極めて強大な力であったため長いこと素晴らしい力とされていましたが……。」


 「……いましたが?」


 「それはもともと魔族の力ありきの力だったのです。そのため代を重ねるごとに弱くなっていく身体はその強大な力に耐えられなくなりました。事実、今の私達であれば20の歳が最も強く、25には力をほとんど失い、30にもなれば必ず命を落とします。事実、力を有していた私の父は28に亡くなりました。母は力とは関係のない事故によって数年前に亡くなりましたが。」


 「!!」


 ということは……星香の命も長くはないということか。彼女が当主だというのにも納得がいった。先代はすでに亡くなっていたのか。……しかしそんなことはどうだっていい。星香は助からないのか?オレの口からはなかなかその質問が出なかった。


 「私の後継ぎはおりませんの。子を成せば継承はできるでしょうけども、その子は恐らく20歳にもなりませんわ。ですから……もしミラ様がよろしければ、私の魔眼を継承していただきたく思います。」


 魔眼の継承……?そんなことができるのか?……オレは継承能力者インヘリットについてそれほど知っているわけではないが……。いや、今はそうじゃないな。


 「例えばオレが継承したとして、星香の寿命はどうなる?」


 「……変わりませんわ。すでに私の身体は壊れかけでございますから。」


 「だとしたらオレもなかなか受け取れないよ。オレにはルーシュとの約束があるから生きてたいし、仮に子どもができたらその子の寿命も奪ってしまうかもしれないんだろ?君には悪いと思うけどそれはそれとして……。」


 「その心配はございませんわ。私の占いは寿命を縮めるようなことなら大吉とは出ませんし、何よりミラ様はグランデュース家でございますから。」


 ……前者は分からんでもない。オレが損をする点がほんの少しでもあるならまぁせいぜい吉が限界だろう。ただグランデュースだからという根拠が分からない。今までの話にグランデュースは関係ないと思うんだが……。


 「君はグランデュースについて何を知ってるんだ?」


 「かのエスト様はグランデュース家の魂の盟約者でございますから。あのお方の力は私達には過ぎたものでございましたが、あなた方にはあって当然とも言えるものなのですわ。」


 「……一体どこからそんな情報を……。」


 「私の目は万能ですの。」


 なるほど、華陽が国の宝とするわけだ。まさか当人オレも知らない情報をこうも簡単に得られてしまうとは。歴史の破壊者(デスティニー)が欲しがる気持ちも分かる。


 「君がそこまで言うなら断らないよ。ただ良いのか?国としても大切な力だろ?」


 「誰も口出しはできませんわよ。だってそれが吉なんですもの。」


 「そうか。じゃあ喜んで受け取ろうか。そうすれば歴史の破壊者(デスティニー)に取られる心配も少ないってもんだ。」


 「……?どうしてそんなに自信がおありなのですか?」


 「なんてったってオレは運が良いからな。」


 「なんと……私としたことが一本取られてしまいましたわ。ふふっ……なら右手をお出しになっていただけますか?今から継承を行います。」


 オレは星香の合図に合わせて手を差し出すと、彼女の手から力が流れてくるのを感じた。これが継承か……。言葉の綾ではなく実際に目が熱くなり、何かがくっきりと刻まれるのを感じる。セリアの炎とは別の小さく強力な炎がオレの中に誕生した。


 「ッハァ!……ハァ……ハァ……。」


 「お、おい!平気か!?」


 「……ええ。力の継承で少し疲れただけですわ。……恐らく次第に魔力も無くなるかと思いますけれど……。」


 「待てよ!オレが力を受け取っても寿命は変わらないって言ったじゃないか!」


 「……寿命は変わりませんわ。ただ力を失う段階が早くなるというだけでございます。」


 星香は酷く息を切らした上に、魔力も明らかに減少していた。これが人体に無害なんてことはないだろう。心なしか虚弱になったようにも見える。断っていれば良かった、オレはその後悔も強かった。


 「せめて君の身体を治す方法は探してみよう。オレは君に死んでほしくない。」


 「……そう思っていただけるだけでも嬉しいですわ。できることならばミラ様が私に靡いていただければなお嬉しいのですけどもね……。」


 「……憐れんでほしいって言うなら聞くがな。君が願うならオレはなんでもしてやりたいが……。」


 「それはズルでございましょう?私はそんなことはしとうございません。ミラ様がルーシュ様のことしか愛さないというなら……。……いえ、ならば一つだけ私の望みを聞いていただけますか?」


 オレは星香の願いを聞いてから彼女の案内で地下へ向かった。これは昔、何かが起こったときに逃げ込む場所として掘られたものらしい。神話の時代に起こった戦争でも利用され、それ以前の記録も少し残っているのだとか。

 案内とは言っても地下はただ広い一本道だったため、星香とは入口まで案内してもらってそこからはオレ一人で歩いていた。五分か十分ほど急ぎ足で歩くとやや開けた空間に大きな石碑があり、そこにベルドットさんも待っていた。


 「この石碑には魔王アミシアの感じた“黄金の魔力”について書かれているらしい。私には読めないけれど、星香さんが拘っていたのもこれが理由だろうね。」


 「ベルドットさんは心当たりがあるんでしょう?なんなんですか?“黄金の魔力”ってのは。」


 「……まぁそれはいずれ分かるよ。少なくとも今知ったところで何も変わらないからね。それより少し話をしようか。」


 「話……?」


 そう言いながらベルドットさんはどこからか椅子と机を取り出した。岩肌が剥き出しのこんな空間で椅子に座るなんてのは異様な光景だったがオレは大人しくそこに座った。たぶんツッコんだら負けだ。


 「話というのは何かあったんですか?」


 「歴史の破壊者(デスティニー)、奴らの組織についてちょっと情報を得てね。番外は知ってるね?」


 「ええ、名前は。」


 イスダンでNo.6と戦ったときに聞いた名だ。番外には序列があると言っていたからNo.8などよりもずっと強いだろうと思われるから仮面の男、アルファがそうだろうと考えているが……。


 「ついこの間、番外と呼ばれる者と戦ってね。エプシロンと名乗っていたが、その戦いでこの傷を負ったんだ。」


 「!!」


 服を脱いだベルドットさんの背中には、大きく痛々しい生傷があった。まるで火傷のような、それでいて引っ掻き傷のようだった。彼にこれほどの傷を負わせられる存在がどれだけいるだろう。少なくともオレの知っている者にはいない気がする。


 「生意気な子供のような男だったがね、多少の情報は得られたが恥ずかしながら取り逃してしまったよ。アレは強かった。正面から戦っても確実に勝てるとは思えないね。」


 「……多少の情報というのは?」


 「まぁそれほど意味のあるものじゃないとは思うがね。番外の全容を知れたってところさ。まず最も強いのが君の遭遇したという仮面の男、アルファ。それに次ぐのがベータ、ガンマ、デルタ、そしてエプシロン。当然、彼らもルシファーに創り出された存在だ。」


 「……待ってください。つまりあなたに傷を負わせ、さらに逃げたヤツが五番目だと?」


 「その通りだ。レイジから聞いていたけど、仮面の男が私と比べても化け物だと……あれは誇張でもなさそうだね。」


 番外は全員九星級(ベルドットさん)に匹敵する上、No.8、つまり番外でなくても八星級(法帝)に匹敵する。加えてボスにルシファーがいるわけで、戦力では中央政府を圧倒的に凌駕している。アルファと会ってから常に疑問に思っていることだが、それほどの戦力を有していながらなぜ大々的に動かないのか。心当たりがあるとすればNo.8が言っていたという“王の準備”というものだが……それは考えても分からないか。


 「私達の戦力ではとても敵う相手じゃないね。だから法帝でない君達にも強くなってもらわないと。」


 「なら一つお願いが……。良ければオレにベルドットさんの師匠を紹介していただけませんか?」


 オレはそう言って八雲を抜いた。獄境でベルドットさんと会ったときの約束だ。彼の一撃に対応できれば師匠を紹介してもらえると。セリアの教えもいいが、そればっかりではつまらないだろうと彼女から常日頃言われている。オレとしても色んな戦いたい方を学びたいとは思っているから……。


 「ほう……あれから一ヶ月か?ずいぶんと自信がついたようだね。」


 「若者の時間は長いんですよ。」


 「参ったな。私も若者なんだが……。」


 ベルドットさんはそう言いながら長い槍を取り出した。オレは彼の魔力に押し潰されそうになった。殺意は一切感じない。それでもアルファを除く今まで相対してきた誰よりもずっと恐ろしく見えた。能力スキルを失った今のセリアよりも強いだろうということを肌で感じる。


 「行くぞ……。よく見ろ……!」


 「……ッ!!」


 彼はほんの一瞬の間に目の前に現れ、オレの腹に向かってその大きな槍を振った。刃は当てないように柄で攻撃してもらえたからよかったが、あまりの衝撃にオレは地下の壁に打ちつけられ、大きな穴を空けた。魔眼があったから辛うじて受け身を取れた。どう動けばいいかを知れたし、ベルドットさんの動きがほんの少しだけ遅く見えたから。それをもってもまだ遠い。見えないほどに彼の力は遠かった。


 「驚いたな……これは。……師匠はプリセリドにいるよ。行けば分かるから深くは言わないけどね。」


 「……ん?いいんですか!?」


 「もちろんだとも。元々対応できなくても目で追えればいいと言ったろう?こうもされるのは予想外だったけどね。」


 彼はそう言って右腕を見せた。そこには八雲によってできた斬り傷があった。薄皮が斬れた程度ではあるが、オレの攻撃カウンターは届いていたようだ。もちろん真っ二つに斬るつもりで振ったから些か不服ではあるが、まぁ今はこれで良しとしよう。

 ……しかしプリセリドか。英雄の街と呼ばれるあの街には何度か行ったことがあるが……強そうな魔力を感じたことがあったかな?しかしあっちに行くなら家にも顔を見せようか。そうなると夏休みになるかな。


 「なら今週末にでも向かおうと思います。……せめて容姿でも教えてもらえると……。」


 「いや、行けば分かるよ。見つけられなかったら諦めなさい。」


 ベルドットさんは意地悪そうに微笑みながらそう言った。彼がここまで言うということは心配する必要もないんだろうが……。少し不安に思いながらもオレは地上に向かった。今日はこの屋敷に泊まるから聖都に帰るのは明日になるかな。……帰りは星香が送ってくれるのかな?そうじゃなかったら相当の時間がかかるけれど……そのときはそのときか。一旦オレは屋敷に戻ってルーシュの部屋に向かった。

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