第35話 黄金の魔力
朝はすっかり静かになっていた。霊明祭はもう終わったんだな。半日しか参加していなかったせいで短く感じるが……みんなはたぶん疲れてるだろうな。今日は授業はないが生徒会の方には行かないといけない。オレは生徒会の制服を身に纏ってから寮を出た。途中でルーシュと合流し、一緒に生徒会室に向かった。十分ほどゆっくり歩くとやっと到着したものの……そこには紅茶を嗜んでいる少女の姿があった。
「………ちょっと早くねぇすかね。」
「あら、何事も早い方がいいのですよ?私は余裕のある淑女でありますから。……ねぇ?ジンリュー様。」
「そうだなぁ……ここは何も自由にしていい場所じゃないからな……。茶は出すがそれ以上のもてなしはしないぞ?」
「ええ、もちろん。そこまでお世話にはなりませんわ。」
星香は当然のようにソファに座って話していた。確かに生徒会室に来るとは言っていたが、まさか朝から来てるとは思わなかった。そして星香を見ると変わらずルーシュは警戒している。いや、昨日よりも警戒してるかもしれない。
「星香とジンリューは知り合いなのか?」
「ええ。遠いのでお会いする機会はほとんどありませんが、何かと縁がありまして。私としてはミルアルト様との縁があればと思うばかりですが。」
「ミルアルト、モテる男はツラいな?こんな女に気に入られたんじゃ困ったもんだろ?」
「ご冗談を。ミルアルト様があなた様のようにつまらぬ感性をお持ちなわけがないではありませんか。」
……この二人は縁があるというか、だいぶ仲が良いんだな。星香も優雅に笑ってはいるもののどこか圧を感じるというか、独特の雰囲気を発している。オレと話しているときのやけに興奮しているのも素だろうが、たぶんこっちも冷ややかな感じも素の表情だろうな。
「そのようなことよりもミルアルト様、お決めになりましたか?」
「ああ、連れて行ってくれ。君に少し興味がある。」
「まぁ!ならばこれは婚前旅行ということですわね!?はぁ……病気でも患ったかのように胸がときめきますわ……。」
「誰もそこまでは言っちゃいねぇ。」
「おう。旅行でも偵察でも好きに行ってくれ。コイツがいたんじゃうるさくて敵わん。」
「私はあなた様と違って淑やかでしてよ。」
「ちょっと!私もついてくからね!あななとミラを二人にはできないわ!」
「もちろんですわ!私もルーシュ様と仲良くないたいと思っておりましたから!」
オレとルーシュは星香に学園外へと連れて行かれた。後から確認したことだが、校長の方には星香が直々に説明していたらしい。つまりアレだ。この人はどう転んでもオレを連れて行くつもりだったということだ。質問をしておきながら……。
機械竜に乗り込むと、そこから見える景色はそれは素晴らしいものだった。遥か遠くに見える山や海が流れるように視界から消えていく。列車とは違って酔うこともない。
「………せっかくだから景色を楽しんでいたいけど、流石に少しくらいは話してくれないか。」
「ええ、もちろんですわ。まず……。」
「待て!なんであなたがミラの正面に座ってるのよ!私だってミラの顔を眺めてたいんですけど!」
「おい、落ち着け。暴走しかけてるぞ。」
別に隣でも正面でも大して変わらないだろうに……。ルーシュが星香に対抗心を燃やしているせいでどうにも厄介なことになりつつある。
「落ち着いてくださいまし。ルーシュ様はその位置が最も運の良いところなのです。ルーシュ様はその……大凶ですから。」
「大……!!なんですって!?」
「ちなみに今日は私は末吉、ミルアルト様は大吉でございます。流石私の運命のお人ですわ。」
「だからミラはあんたにあげないって言ってんでしょ!」
……アレだな。ルーシュはだいぶ手玉に取られてるせいで上手く会話ができねぇな。とりあえずこの場を収めねぇと……。
「星香、まずオレはお前と結婚するつもりなんて毛頭ないし、君の期待するような付き合いにはならない。悪いけどオレにはオレの立場ってのがあって……。」
「……女を振るのに長々と言葉を連ねるべきではありませんわ。」
「い、いや……それは申し訳ない。」
「ふふっ……冗談ですわ。あなた様がそう答えるであろうことは分かっておりましたから。そうですね……まず私の力からお話ししましょうか。」
話してくれるのか。まぁ機械竜なら他に聞かれることもないだろうからな。操縦している執事さんは知ってるということか。
「私の目、これは“黄金の魔眼”という魔眼なのです。一族で同じ魔眼が発現するのですが、少し特殊で常に一人しかこの眼は持たないのです。つまり私は特殊な継承能力者でございますの。」
「オレ以外の継承能力者に会うのは初めてだな。魔眼ってのも珍しいんだろ?」
「その通りです。特に魔眼そのものが能力となると希少ではありますね。そして力というのが簡単に言わせていただくのなら“的中率100%の占い”といったところでしょうか。そしてそれが我が国の宝、“金色の水晶”と呼ばれるものにございます。」
金色の水晶ってのは能力だったのか。意外というかなんというか……そうなると歴史の破壊者は星香を狙ってるというわけだな。まだその辺はバレちゃいないだろうが……そうなると放っておくわけにもいかない。
「的中率100%というと……未来予知みたいなもんなのか?」
「全てを占えるわけではありませんが、似たようなものにございます。しかしジンリュー様のそれとは少し異なりますわ。少し違いますけれど、あの人の力は言ってしまえばどのようなエンディングに辿り着くかを見るもの、私のはトゥルーエンドに辿り着く方法を見るものにございますから。」
「庶民的なたとえを出してくれてありがたいよ。それでそのトゥルーエンドってのがオレを連れていくことだと?」
「はい。しかしその内容については今は伏せさせていただきたいです。こればかりは私とミルアルト様のお二人だけで話さなければならないのです。」
「分かった。君がそう言うのなら従おう。」
星香はどこか寂しそうな表情で“ありがとうございます”と答えた。彼女はルーシュのことを口の軽いヤツだと思っているわけじゃない。たぶんあまり聞かれたくない話なのだろう。恐らくオレにも積極的には話したくない内容だろうということはその表情から見て取れた。
「ところでミルアルト様、あなた様の指輪はどこか不思議な感じがいたしますわ。」
「ん?あぁ……これは八雲って名前の妖刀なんだ。すっかりオレのことを主人として認めてるらしいよ。」
「なるほど。八雲を打ったのは200年以上昔の華陽の刀鍛冶、金丈一という方ですの。そしてそのお方は私の“花酒”を打ったお方でもありますわ。」
そう言って星香は一振りの刀を取り出した。空間収納か。……しかし星香が剣士だとは驚いたな。ミライアとの試合のときは武器など使ってはいなかったから……まぁ守護者の力を優先的に使っていたのだろうが。
「そしてこの二振りを使っていたのがた鈴旗玄雷そのお方です。ご存知ですか?」
「そりゃ知ってるが……マジか。」
鈴旗玄雷、オレでもその名くらいは知っている。アーサー=ベルドットが現れるまでは歴史上ただ一人の九星級として記録されていた人物だ。そして史上最強の侍として世界中でその名が知られている。ベルドットさんを除けば神話の英雄に匹敵しただろう数少ない人物だ。嘘か真か、魔物との戦いでは海を二つに割るほどの剣術だったという記録もある。
「こうもあなた様と縁深いとは……私、感激で前が見えませんわ。」
「偶然だから!縁なんかじゃないよ!」
ルーシュは変わらず星香に噛みついた。どうにも気に入らないようだが……まぁ口は出さずにいようか。
それからしばらく空を飛んでいると、いよいよ華陽が見え始めた。華陽の地形は帝都周辺が海に囲まれており、さらにその海を囲むように土地があった。貴爵邸は帝都と同じ中央の島にあるようだ。そこに向かっている間に大きな魔力を感じた。
「……なぁ、星香。客ってのはオレ達だけじゃないのか?」
「ミルアルト様は最近色々と大変だったそうではありませんか。校長先生はあの人がいるからあなた様の同行を許可してくれたのですよ。それと、彼は運命のお方ではありませんので、ご安心ください。」
「だからそれは認めてないって言ってるでしょ!」
なるほど……校長が何もアクションを起こさなかったから少し変だとは思った。あの人がいるなら確かに安心だ。恐らくこの世界のどこよりも安全だろう。しかしオレとしても彼に会えるのは嬉しい。ちょうどもうすぐ夏休みも始まるし、そろそろ頃合いだと思ってたから。
「さぁ!案内いたしますわ!ここが私の屋敷にございます!」
「君のっつーか……当主様のじゃねぇのか?」
「………申し上げておりませんでしたっけ?私が神社家の当主にございましてよ?」
「あっ……そうなの。そりゃ悪かった。」
若いのに大変だな。……当主のくせに抜け出してオレに会いにきたのか。まぁそれほどに占いの力が信用されているということだろうけど。
街の風景は圧巻だった。瓦造りの屋根がどこまでも広がっていて、聖都とは違い剣よりも刀を持っている人達が多い。写真でしか見たことのない景色が目の前にあるというのはなんとも不思議な感覚だった。
オレ達は星香に案内について行った。彼女の屋敷はとても広く風情があった。屋敷は基本的には木造で、部屋はほとんど畳が敷かれていた。カーペットを敷かずとも柔らかい床というのは心地よいものだった。ルーシュは客室に案内され、オレは別の部屋に案内された。ルーシュは嫌がっていたものの渋々と承諾していた。オレと二人で話したいから別の部屋にしたのだと思ったが、そこにはオレと星香の他にもう一人来ていた。
「お久しぶりです。まさかこんなところで会うとは。」
「私も君に会えるとは思わなかった。金色の水晶について星香さんから話を聞いていてね。十法帝会議以来かな?しかしあのときはあまり話もできなかったからね。」
部屋にいたのはベルドットさんだった。上空からその魔力は感じていたが、まさかこんな形で会うこととなるとは。オレと星香、ベルドットさんは座布団に座り、茶飲みで緑茶を飲みながら話をした。
「私はミルアルト様と二人でお話したいことがございますので、今はお二方……というよりもベルドット様にお伝えしたいことをお話させていただきますわ。」
「私にかい?」
「はい。ベルドット様……もちろんミルアルト様でも構いませんが、“黄金の魔力”というものをご存知ですか?」
「……?」
黄金の魔力……?オレは聞いたこともないが、セリアが反応しないということは彼女も知らないのだろう。そしてベルドットさんの様子からするに彼も知らないようだ。
「オレも知らないが、何なんだ?それは……。」
「私も詳しくは知りませんが、魔力を超越した魔力だと聞いています。普通の魔力とは違って常人には感知できないそうですが、信じ難いエネルギーを発するとか……。私の占いではベルドット様はお持ちの力だと出たのですが……。」
「私が?……あぁ、心当たりがないこともないけど、それがどうかしたのかい?」
「その力は歴史の破壊者と……ルシファーと戦う際に重要なものとなります。今はそれだけお伝えいたしましょう。」
「なるほど……アレは後天的なものではあるけど誰でも手に入れられる力ではないし、同時に極めて危険な力だ。そして私は人に教えられるほど自在に扱えるわけでもない。」
「構いませんわ。私はただ助言をするだけでございます。それからのことに関して私が言えることはございません。」
なんか話についていけねぇな……結局ベルドットさんは“黄金の魔力”がなんなのか知ってるってことか。そしてそれは歴史の破壊者やルシファーに有用だと。けれど他者に教えられるほど彼もまだ使いこなしてはいないというわけだが……。
「ではベルドット様、地下はご自由にお使いください。それから私にできることなら何でもご協力いたしますわ。」
「ありがとう。ミルアルト君とはまだ話があるのかな?」
「はい。とても大事なお話がございます。」
「ならそれが終わったら私のところまで案内してくれ。ああ、もちろん用があるなら私のことは後回しで構わないし、急ぐ必要もないのだけれどね。」
「かしこまりました。ではミルアルト様、こちらにお越しください。」
「ああ。ベルドットさん、ではまた。」
ベルドットさんには一時の別れを告げ、オレは再び星香の後ろをついて行った。そして案内されたのは……自室だろうか?まぁここなら確かに誰にも聞かれはしないか。少しすると彼女は覚悟したように話し始めた。




