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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第五章 ロウドン
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第33話 金色の水晶

 新暦6207年土の月29日、世界中に報せが届いた。それは近国と戦争を起こしていたロウドン王国の突然の敗北宣言だ。公表された内容は“第二王子の乱心により国王含む国の上層部が全て能力スキルによって呑まれていた”とのことだった。しかし真実はそれほど単純な話ではない。各国の上層部には中央政府より通達があり、歴史の破壊者(デスティニー)が関与しているということが伝えられた。当然、事情を詳しく知らない市民達からはそのようなことは納得し難いとの意見は少なくなかった。


 「……まぁ分からんでもないな。戦争のために死んだ人の数というのは端数が生まれるほどだ。この国の民に限ってはお前は国民に寄り添ってくれる為政者と思われてるしな。まさか国王を狂わせた張本人だとは思うまい。理解したくない気持ちも当然だろう。」


 オレは王城の地下牢獄に来ていた。戦闘後、オレ達はガラリネオさんの拠点に戻り療養していたのだが、早朝に兵士達がやってきたのだ。なんでも国王が礼をしたいとかなんとか。洗脳にかけられていた間の記憶は残っていたらしい。断ることでもないし話をしないわけにもいかないということで案内してもらったが、王と対面するのはガラリネオさんだけでいいと思ったのでオレはここに降りてきたのだ。ちなみにガラリネオさんが戦ったC72はさらに地下深くの魔障石でできた牢に拘束されているらしい。少しばかり不安だが、魔力を分散させる、魔障石よりもさらに強力な魔解結晶という鉱石でできた手錠や鎖で監禁しているから心配はいらないとのこと。実際ガラリネオさんが問題ないことを確認していたようだ。


 「………新聞の情報を全て信じろという方が無理な話だ。僕は能力保持者スキルホルダーだと明言したことはないからね。能力スキルってのはそんな都合良く発現するようなものじゃないだろ?」


 「今まで隠してたってか?」


 「そんなわけないだろ。そもそも僕は今だって能力スキルなんか持ってないんだよ。」


 「はァ?お前『洗脳』使ってただろ?」


 「アレはルシファー様から借りてただけだ。」


 カルテッドは弱々しい声でそう話した。力を借りた?そんなことができるのか?能力スキルを与えるのは創造神様にのみ許された力のハズ……。秩序を作り出すという力であればそんなことも可能なのか?……歴史の破壊者(デスティニー)からの借り物ということは今はもう使えないのか。


 「……しかしだ。そんなことはどうだっていい。それより僕が聞きたいのは、君、なぜ僕を生かした?なぜ殺さなかった?」


 「なんだ、殺して欲しかったのか。」


 「そうじゃない。僕は君を殺そうとした。それになぜあれほど怒っていたのかは知らないが、僕が人を殺していたことにも怒っていただろ?」


 「怒りに任せて人は殺さねぇよ。それに生きたまま捕まえられるほどお前が弱かっただけだ。」


 「そんなことが聞きたいんじゃない!どうせ僕は用済みなんだ!与えられた『洗脳』の力、その繋がりを元に呪い殺される。どうせ死ねば何も残らない。だから死ぬ前に知れるものなら知っておきたい。」


 ……つまりあれか。力を借りた代わりに命を預けていたのか。よくそんなことができるな。オレとしてはそっちの方が不思議でならない。


 「そういうことなら安心しろ。その魔力の繋がりってのはオレがぶった斬っといた。アイツらがお前を感知するようなことはねぇし、殺されることもねぇよ。感謝しろよ?なんとなく不穏だったからついでに斬っただけだが、そのまま放置してりゃお前に力を貸したヤツを逆に探知できたんだからな。結果論ではあるが、実利を捨ててお前の命まで助けてやったんだ。」


 「なっ……!?だからなぜ!君はそこまでする!?」


 「一国の王子を殺しちゃいくらなんでもマズいだろ。それにオレは何もされてないからな。お前は生きてるべき人間だなんて思えないし、許すつもりもないが……オレが殺すのはお門違いってヤツだ。」


 「………たったそれだけの理由なのか?結局死ぬなら誰が殺そうと、どう死のうとも同じだろう?」


 「お前が本当にそう思ってるのならオレとは一生分かり合えねぇな。だが心のどこかでそうとは思ってねぇから理由が知りたかったんだろ?」


 「……は?何のことだ?」


 「なんでもねぇよ。処遇は待ってるんだな。事実確認にゃまだ随分時間がかかるだろう。」


 オレはそう残して地下を出た。あの男は大嫌いだし気に入らないが、どうにも放っておけないような危うさを感じる。危ういというよりはすでにアウトといったところだが……どうも何かが欠如しているような雰囲気だ。人として大切なものを失っている。ずっと昔からそうだったのか……あるいは母親を亡くしてアイツこそ狂ってしまったのか。どちらにせよ許すつもりはないが。


***********************


 ところ変わってここは王室。玉座に座った国王とガラリネオが対面していた。この部屋には第一王子と必要最低限の騎士達も並んでいる。兵士の大半は損壊した城や街、さらには国民の不安を拭い去るために出張していた。


 「ガラリネオ殿、あなた方には一生頭が上がらない。息子の暴走を止めてくれて……いや、私の失態の尻拭いをさせてしまい申し訳ない……!」


 「そう責めなさるな。歴史の破壊者(デスティニー)の実態は我々も捉えられていない。これだけの損害で済んだのはマシな方さ。」


 「いや、どんな理由があれ国民を危険に晒し、多くの命を奪ったことに代わりはない。その被害はあなた方によって止められたのだ。どうか礼はできないだろうか?どんなことでも、私に……我が国にできることならやらせてくれ。」


 ロウドン王は頭を下げて懇願した。彼はかつての噂通りの国民想いの王に戻ったようだ。戦争によって多くの民の命が失われたことに心を痛めていた。


 「そりゃあアンタの気持ちは分かるがよ、俺ァ政府の人間だ。仕事としてやったわけで感謝されるような立場じゃねぇさ。グランデュースの小僧達も同じだ。」


 「しかし……賠償金も政府が背負ってくれると言うではないか。私にできることはないのか?」


 「………実は小僧から頼まれていてな。礼をしたいと言うのならオレからの質問に二つ答えてくれ。」


 「質問?ああ、私の知っていることなら惜しみなく話すが……。」


 ガラリネオは懐から一冊の日記を取り出した。それは執務室でミルアルトが見つけたものだ。国王に謁見するにあたり、できれば聞いてみてほしいと頼んでいた。


 「この日記は二年前、アンタがカルテッド王子に操られる前まで書いていた日記だ。これに記されている“仮面の男”、グランデュースはその男と遭遇したことがあるかもしれないと言っていた。それに少女との二人組と書かれている。コレは今回の件と関係が?」


 「ああ、あれは今でも覚えている。少女はルシファー、そして仮面の男はアルファと名乗っていた。あなたの想像通り歴史の破壊者(デスティニー)だ。」


 ロウドン王は顔を暗くして話した。ルシファー、その名前は法帝であれば耳に穴が空くほど聞いている。ガラリネオは衝撃を受けつつも当然のことだと平静のまま尋ねた。


 「奴らについて覚えていることは?」


 「容姿から話すと……ルシファーは長髪の黒髪の少女だった。背丈はグランデュースの少年やルーシュ君と同じようなものだ。歳もそう変わらないようだったかな。それでも一目で見て分かるほど異質な魔力をしていた。アルファの方は……特別魔力が多いようにも感じなかったが、どこか不気味な雰囲気だった。しかしアレは見て分かるような異質さは感じなかった。」


 「……それで、“忘れられない”とは何かあったのか?」


 「二人が来た翌日のことだ。彼らが私に“戦争を仕掛けろ”と伝えに来た。それを私は拒んだのだ。彼らは大人しく帰ったかと思ったら……この街はたった一日で火の海にされた。何もかもが破壊され……気づけば私はカルテッドに支配されていた。アイツは脅されたのか自ら下についたのか知らないが……。」


 ロウドン王は古い記憶を思い出しながら話していた。彼の顔色からその記憶が辛く苦しいものだということは容易に想像がついた。しかしその話を聞いてガラリネオは疑問に思うことがあった。


 「街が破壊されたとは言うが……その割にはキレイに見えるぞ?確かに相当の時間があっただろうが、街が崩壊したんじゃ復興も難しいだろ?」


 「……アレは実に不可解だった。崩壊した街も城も、全てが元通りになったのだ。……直ったとかそういう次元ではなかった。まるで時間でも巻き戻ったように……全てが無かったことになった。記憶が曖昧でどちらがそうしたのかは分からないが……。」


 「………時間を止める力は聞いたことがある。なんでも時間の流れを切断してほんの一瞬生まれる亀裂に入っているだけで、世界に干渉しているわけではないらしい。なんでも膨大なエネルギーが必要だとか。しかし時の逆行に関してはそうではない。それは世界干渉しているからだ。ユリハ様であっても極めて限定的な逆行しかできない。」


 「しかし事実なのだよ。もしかしたら巻き戻しではないかもしれないが……とにかく私の目にはそう映った。」


 ネフィル=ユリハの時の逆行、つまり“回帰魔法”は特定のものに対してしか発動しない。加えて元の状態に向かって回復するというものなので単純な時間の巻き戻しとも少し違う。どちらかといえば記憶している過去の状態への帰復だ。


 「……まぁそれならいい。それともう一つ、奴らの目的はなんだ?何か聞いてはいないか?」


 「一応、国を支配すれば裏から操ることで自由に動けると話していたのを聞いた。ただ少しばかり興味深いことも……。」


 「なんだ?」


 「いや、にわかには信じ難いのだが……なんでも華陽かようの宝を手に入れたいとか……。」


 「“金色の水晶”か?詳しくは知らんが、アレは伝説ではないのか?」


 「さぁ……。そもそもその伝説さえ知る者は少ない。調べれば得られぬ情報でもなかろうが……。」


 “金色の水晶”はそれほど有名な伝説ではない。そして当然、詳細などは誰も知らない。実在するというのなら、それを知っているのは華陽と呼ばれる国でも少ししかいないだろう。しかし歴史の破壊者(デスティニー)がそれを欲しているということはそれなりの価値があるということだ。


 「まぁいい。華陽には知らせておこう。オレはもう帰るぞ。小僧達が帰りたがってるからな。三日もすれば俺の部下が来るハズだから頼れ。」


 「何から何まで……感謝する。二人にも伝えてくれ。」


 「それくらいの礼は受け取っておこう。」


 ガラリネオはそう言いながら退室した。そして客室に戻ってミルアルトとルーシュを回収して城を後にした。来るときは彼の部下であるカナの転移術で入国した。帰りも同じように転移門を開いてもらい、ガラリネオの所有するビルへと一瞬で戻った。


 「さて、今回のところは解散だ!お前達には助けられたからな!グランデュース!アリベル!お前達に助けが必要なときはこの俺様を頼れ!借りは必ず返そう!」


 「ええ、いざというときには……期待しています。」


 ミルアルトはガラリネオと別れを告げ、少ししてからそのまま聖都に戻った。転移門や魔導列車をいくつも利用し、帰ったのは翌日の昼間であった。疲れは酷く溜まってはいたが、夜を過ごすと案外リフレッシュされていた。学園では霊明祭の最終日となっていたため、少しばかり休憩してから二人で回った。

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