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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第五章 ロウドン
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第32話 ロウドンの戦闘

 ガラリネオは青く冷たい魔力を身に纏い、対するC72は黄色く激しい魔力を纏った。互いの魔力がバチバチと音を鳴らしながら衝突し、嵐のように渦巻き、石壁を破壊した。そして軽い準備体操をした後、突進しながら拳を交わらせた。


 「“海帝”ガリヌラ=ガラリネオ……魔法師と聞いていたが、思っていたのと違うな?」


 「俺こそ歴史の破壊者(デスティニー)は強く厄介だと聞いてたんだがな。どうやらそこまで警戒すべきでもないらしい。」


 魔法師は近距離戦闘にすこぶる弱い。それは魔法師にとって身体能力や身体強化の魔法を鍛えることは効率が悪いからだ。だから彼らは基本的に後方から高火力の大魔法を発動することが多い。手練れの魔法師であれば近接でも対処できることが多いが、それは何かしらの魔法で受けているだけだ。真正面から殴り合う魔法師など存在しない。ただこの男を除いて。


 「魔法師がそんなにデケェのはどうなんだ?もっと魔法の研鑽に力を入れた方がいいと思うがな?」


 「……そもそもお前、何をもって戦士となり、何をもって魔法師となるのか知ってんのか?」


 「知らねぇわけねぇだろ。舐めてんのか?」


 「おぉ、怖ぇ怖ぇ。情緒は大丈夫か?テメェこの野郎。」


 戦士は魔力を纏う能力に長けている者達で、魔法師は魔力を放出する能力に長けている。放出することは比較的簡単なため、魔法師に求められるレベルは戦士のそれと比べて極めて高い。実際には魔法系能力(スキル)を持っている者がほとんどだ。能力スキルを伸ばす方が能力スキルに影響しない魔法を鍛えるよりもよっぽど簡単で強力であるため、肉体を鍛えることもほとんどしないというわけだ。


 「俺様はなァ、生まれつき身体が頑丈なのよ。能力スキルは確かに魔法系だが、俺様にとっちゃぁ肉体を鍛えるのは効率的に強くなる方法だったってワケよ!」

 「『海龍装兵マリンヴェール』!」


 ガラリネオは渦潮を身に纏い、甲冑のように身を包んだ。青い鎧はところどころ白い波を立てており、流動的であった。流動的であるからこそその鎧は鉄よりもよっぽど硬く防御力が高い。加えて海流によって破壊力も上昇させる技だ。


 「器用貧乏か?格闘でこの俺と戦おうなんざ思っちゃいねぇよな?」


 「むしろお前、この俺様に勝てるとでも思ってんのか?」


 「くっくっ……。さぁ、始めよう。何を言おうと勝つのはどちらか一人だ。」


 海のような深く重い魔力と、雷のような鋭く速い魔力が衝突した。街には雷鳴が轟き、海の匂いが押し寄せた。拳と拳が交わり合い、その衝撃で両者吹き飛ばされ、蹴りが交差すれば弾けるような音と共に周囲の瓦礫と人影が消し飛んだ。


***********************


 カルテッドの突きが頬や腹を何度も掠め、浅い切り傷がいくつもできた。血の流れる感覚や痛みに気を取られて少しずつ集中力が削がれる。そして当然体力もすり減っていくわけだが、それは相手も同じだ。しかしオレの刃は斬ろうとすると減速してしまう。どれだけ斬ろうと覚悟しても、心のどこかで何かが邪魔をする。


 「………千日手だな。だがそれはつまり僕が優勢ってことさ。」


 「どうだかな。オレはいつでもその首を落とせるんだぞ?」


 「いいや、無理だね。確かに君は強いが、僕には敵わないよ。戦えない奴は強くても無意味だ。」


 ………何か知っているような口調だな。実力では劣っていると自覚しつつもこちらを見下しているヤツはどうにもムカつくな。


 「まともに戦えなくとも勝つのはオレだ。温室育ちのモヤシ野郎にどうして負けるよ?」


 「強がりもここまで来ると滑稽だな。しかしまぁ、彼らが言っていたことは本当らしい。詳しくは知らんが……グランデュース=ミルアルトはとても戦えるような精神ではないと。可哀想になぁ!強いくせに負けるなんてどんな屈辱だ!?」


 「ぐッ……!」


 強力な突きがオレの肩を貫いた。それだけなら傷は深くとも小さく済むというのに、引き抜く際に振り下ろすせいで肉と骨が切り裂かれる。……異様に速く感じるのはオレが遅くなったからか?ヤツの能力スキルは『洗脳』、つまりそれから身を守るためにオレは常に魔力を消費している状態なのだろう。そのせいで少しずつ身体強化が弱くなっていっている。


 「なんだお前?オレが不調だから勝てるとでも言いてぇのか?」


 「だから?どこか間違っている?」


 「アーサー=ベルドットがなぜ人類最強と呼ばれているか、分かるか?」


 「?急になんだ?」


 「この世の誰も、彼より弱いからだ。決闘タイマンについても同じだ。相性や体調コンディションなんざ二の次だ。勝負ここは“強さ”が物を言う世界だ。オレが弱いんじゃなければ、勝つのはオレさ。」


 「……なるほど、なら君は弱い。僕が勝つのだからな。」


 刃は水平に降る雨のように鋭く襲ってきた。身体を捻りながら後退した。やはり恐るべき剣術というわけでもなく、特別なものというわけでもない。この程度の者に押されている自分が不甲斐ない。どうしようか……目でも瞑れば斬れるか?……いや、どうせ魔力で感知してしまうからな……。しかしオレはコイツを斬ってやらないと気に入らない。


 「……ムカつくんだよ!死ぬのは君だ!勝つのは僕だ!それなのにスカしている君が気に入らない!」


 「おいおい、冷静さを欠いちゃ勝てる戦いも勝てねぇぞ。」


 「邪魔なんだよ!子供ガキでも人質にすりゃ君のような雑魚は手も足も出ないくせに……!」


 「……。」


 相当のストレスを負ってそうだな。……ムカついてんのはこっちだって話だ。罪のない者達を殺して……それを改めようとも考えない。誰もコイツを裁けない。……クソッ!考えたらまた腹が立ってきた。


 「『剣突ビアーダッツ』!」


 「うがッ!」


 大量の魔力を込めた突きが、一瞬のうちに十も二十も打ち込まれた。なんとか刀で受け止め、頭には刺さらなかったが、胴体や四肢にはいくつもの小さな風穴が空き、城壁に向かって吹き飛ばされた。オレは一体、戦闘中に何をしていた?何か変なことを考えていなかったか?


 「ふふっ……やっと効果が出てきたらしい。操るほどの効きは出ないが、どうだ?洗脳される気分は?」


 ……。脳に何かしら影響が出てたようだ。ヤツの魔力を破壊するおかげで精神を支配されることはなかったが、少しずつ蝕まれていたらしい。……集中力が切れていたな。

 オレは尻もちをついたまま上体を起こし、刀を鞘にしまった。引き裂かれた肉は尋常ならざる痛みに耐えていた。もう眠ってしまいたい気分だ。これ以上傷を負うわけにも、動くわけにもいかない。一瞬だ。躊躇うことがないように、瞬きよりもずっと速く……。


 「安心したまえよ。私は殺しに苦痛は与えない主義なんだ。死、それが罰で代償なのだから、それ以上の罰は不要だろ?」


 「“抜刀”……。」


 カルテッドは細剣をオレの首に当てながら話した。しかしオレはそれが首を斬るよりも速く、カルテッドを通過して袈裟斬りにした。


 「『枯風からかぜ』………!」


 「ぐぁッ!?」


 腕の震えに耐えながら、拒絶反応を起こす前に居合の一撃を放った。冷たい汗が頬の傷口を伝った。恐ろしかったけれど、もう過ぎたことだ。無駄に考えることはない。カルテッドの傷は深い。起き上がることはないだろう。


 「ミラ!終わった?」


 輪状の森の外からルーシュが飛び込んできた。そこそこの数を相手にしていたと思うが……怪我はしてなさそうだな。良かった……。


 「ああ。ありがとな。」


 ルーシュに浅い傷だけ癒してもらい、結界を壊した。思ったよりも時間がかかってしまったな……。もっと早くに覚悟を決めていれば……いや、よしておこう。とりあえず今は勝てたからいい。


 「……殺さないの?」


 「殺したいのか?」


 「…………だって、ミラを殺すつもりだったんだよ?それに色んな人が殺された。……私は複雑だよ。殺さないように斬ってるんだもん。」


 「裁くのはオレの仕事じゃないからな。」


 ………疲労がすごいな……。身体の方は割と元気……いや、傷は相当負っちゃいるが、精神がぐっと疲れた感じだ。……なんでこんなに戦うことが怖くなったのか。人の顔を見るだけでも疲れるようになっちまったっていうのに……。


 「ガラリネオさんは?」


 「戦ってるよ。たぶん歴史の破壊者(デスティニー)だと思う。」


 「戦況は?」


 「……良くはない。アイツ、かなり強いよ。相性が悪いのと、こんなところじゃ大規模魔法も使えないから。」


 オレはルーシュの肩を借りて立ち上がった。確かに凄まじい魔力がぶつかり合ってるな。魔力の大きさで言うならガラリネオさんの方が上のようだが……。参ったな……手伝おうにもステージが違う。ルーシュが手を貸しに行かないのも、多少は戦いが成立しても結果として足を引っ張ることになると分かっているからだろう。ただこのまま戦えば負けるのはガラリネオさんの方だな。


 「人の戦いに手ぇ出すのは好きじゃねぇんだがな………。」


 「ん?」


 「背に腹はかえられねぇか。ルーシュ、あそこの塔のてっぺんまで連れてってくれ。」


 「……分かった。」


 ルーシュに少しずつ傷を癒してもらったおかげでだいぶ楽に動けるようになった。心の方の疲れは変わらないが、痛みが和らぐだけでずっと楽だ。城から500メートルほど離れたところにある高い塔に向かい、それを駆け上がった。階段は使わずに、ルーシュが生み出した蔓を利用して外から頂上に上った。そこに着いたら片膝をついて身体を安定させた。


 「ルーシュ、木でも蔓でもいいんだが、弓形でしなりのあるヤツ作ってくれるか?」


 「弓形?……まぁいいけど。」


 ルーシュは困惑しながらも枝を数本と蔓で補強したものを作ってくれた。……うん。魔力の通りも頑丈さも充分そうだな。想定以上に良い物を作ってくれたな。


 「こんなところから何するの?」


 「これだけ離れてりゃバレないだろうからな。射つ。」


 「射つって……矢なんて持ってるの?」


 「飛ばすのは魔力の刃だ。」


 オレの能力スキル、『殲滅の騎士(ディザス・ナイト)』は魔力そのものに刃を乗せることができる。そしてそこにセリアの炎も上乗せし、矢の形を模した。先の戦いで天現融合も“叢雲剣”も使わなくてよかった。おかげで今、全ての技をこれに込められる。矢の先端には白天を作り、歴史の破壊者(デスティニー)、C72に照準を合わせた。


 「ッ……!!ルーシュ!たぶん……コレ撃ったらオレはもう動けなくなる……っていうかたぶん身体が壊れる……から!後は頼む……!」

 「『火剣矢カグヤ』!」


 余った全ての力をその矢に込めて放った。その矢は音を斬り裂くほど速く力強く突き進んだ。ちょうど今、C72に大きな隙ができていた。


***********************


 時は少し遡り、カルテッドが斬り伏せられたときのこと。彼に洗脳されていた兵士達、そして国王と第一王子が正気に戻った。そしてそれにいち早く気づいたのは戦闘中であったガラリネオとC72だった。


 「アイツらは上手くやったみてぇだな!俺達ァ大取りだぜ!?」


 「参ったな……。カルテッドの野郎との接続も切れちまった……どんな負け方をしたってんだ……。」


 こちらの戦闘は依然として停滞……いや、ガラリネオが次第に押されつつあった。水の鎧は非常に強力だ。しかしC72の貫通力はそれを上回っていた。拳の一つ一つが砲弾のように重く、体重を乗せた蹴りは並みの兵器と比較にならないほどの破壊力であった。加えて雷属性の魔力がその強さに拍車をかけていた。雷に乗せられた衝撃は鎧を貫通し、少しずつ、けれど確実にガラリネオの身体を焼いていった。C72は能力スキルは一切使わなかった。いや、持っていないから使うも何もなかったのだ。つまり彼の強さとは魔力制御と身体強化、素の身体能力から来る単純で圧倒的なパワーなのだ。故に小細工などはことごとく払いのけられ、魔法師のガラリネオは殴り合いを強制されていた。


 「はぁ……はぁ……。さっきから痛ってぇなぁ!」


 「お前が頑丈タフなのが悪ぃんだぜ?もっと柔ければ痛い思いはしなかった。」


 両者ともほとんど拮抗した戦いによって疲弊していたが、余裕の大きいのはC72の方であった。殴り合いでは押され、距離を取ろうとすればそれ以上の速度スピードをもって隙を突かれる。得意の大規模魔法も市民に被害が出る可能性を考慮すると発動さえできない。たとえ結界があろうともC72を倒すほどのものとなると耐えられる保証など一切ない。しかしこの程度の不利ハンデで八方塞がりになるのなら、彼は“法帝”の名を賜ってはいないだろう。


 「……そろそろ精算をしようか。」


 「何?」


 「殴られた回数、106回。蹴られた回数、38回。壁に打ちつけられた回数、19回。………拘束された時間、“34分”。」


 「数えてたのか?」


 「正確性は高くないがな。たぶんこんくらいだ。もう充分だ。俺もそろそろ反撃といこう。」


 「………!?」


 瞬間、一帯の空一面を水の線が埋め尽くした。当然その数は100や200では収まらない。その一本一本が矢であり槍であった。

 魔法師の神髄は環境の支配にある。ガラリネオは削られた鎧からでた水分を伝って大気中の水へと魔力を流した。それを何度も何度も繰り返し、一帯の水を己の支配下に置いたのだ。


 「利子は10倍でいいかァ!?」


 「ッ……!!」


 「『落水盤面オルフォール』!!」


 空から降り注ぐ雨は、地面に落ちると細く深い穴を空けた。2メートルほどだろうか、まるで元からあった穴に吸い込まれるかのように落ちていった。C72は身体中に穴を空けながらも魔力による防御で致命傷は避けていた。水を弾き、逸らしながら降ってくる雨を数十秒間耐えた。


 「ふぅ……これで終わりか?」


 「コレで終わるなら法帝なんかにゃなれねぇよ!」

 「『大海大波たいかいだいは』!!」


 「この程度……ッ!!」


 地下に沈んだ大質量の水が噴き出し、津波のようにC72を飲み込んだ。最初はただ水の塊が傷口を刺すばかりだったが、一転、温度が急激に低下し氷の山が出来上がった。魔力も込められているためにその硬度は鉄を遥かに凌駕している。が、それだけの硬度でもC72に対してはほんの少しの足止めにしかならない。


 「はぁ……あと一押し……!」


 「この程度!この俺に通用するとでも……!!」


 「……!?……ハッ!」


 巨大な氷壁を破壊してC72がガラリネオを襲おうとしたその刹那、どこからか炎の矢が彼の肩を貫いた。その矢は実体を持っていない、ただ魔力の塊であった。しかし魔力の塊がどうしてこれほどまでの威力を持っているのか、彼には理解できないことだった。


 「生意気な小僧め!まさか本当にこの俺様を助けるとはな!!」


 「ま……待てッ……!!」


 ほんの一瞬生み出された隙が、勝負を決するに充分な時間を作り出した。ガラリネオは破壊されかけていた氷壁を全て拳に圧縮し、それを全魔力をもって強化した。拘束の解けたC72は回避しようと試みるも、肩から焼かれる痛みのせいで速度スピードで勝つことはできなかった。


 「『海穿ギュード』!!」


 拳から放たれた高圧の水の中には氷塊も混ざっていた。そしてそれがC72の身体を貫き、結界をも破壊して空を貫いた。これから数十時間、この場所には魔力による空間の歪みによってやや小規模で高湿度の竜巻が生成されていた。

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