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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第四章 イスダン迷宮
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第28話 “海帝”ガラリネオ

 「来週27日から4日間、ガラリネオがロウドンに行くらしいが、君もついて行くのだろう?準備をしておくといいよ。場所はあの男のビルらしいけど……かなり遠いからね。どこの転移門を使うかよく調べておくといいよ。」


 「……分かりました。ありがとうございます。」


 校長室に呼び出されたオレは来週末の話をされた。十法帝会議のときにガラリネオさんと約束していた件か。あの人は極めて自分勝手で一週間以上前の段階で連絡が入るのはだいぶ良心的だという話だが……なんてこった。まさかこんなピンポイントで予定が入ってしまうとは……。4日間なら霊明祭の最終日にはギリギリで帰ってこれるか?……最悪後夜祭になるな。まぁ後夜祭だけでも回れるならマシではあろうが……ルーシュには何と言ったものか……。


 「ほんっとーに申し訳ございません!」


 「はぁ……。」


 「……?」


 放課後、生徒会室に来たオレはルーシュに対して深く土下座した。昨日の今日でこんな状況だと許されないかもしれない。だが報告が遅れれば遅れるほどその分許されないだろう。オレは他数名に見られるという恥を忍んで謝罪した。


 「……会長?あの二人何かあったの?痴話喧嘩?」


 「茶化してやるな。死人が出かねん。」


 オレは姿勢を崩さないまま事情を一から説明した。本祭最終日には参加できる可能性もあるが、万が一のことを考えて後夜祭にしか間に合わないと伝えておいた。


 「……まぁ予定が入らなければって約束だったし、法帝様からのお誘いなら仕方ないとは思うんだけどさ……。ミルアルト君、私は今非常に怒っています。理由は分かりますか?」


 「………ロウドンだからでしょうか?」


 「分かってるじゃん。……なんでわざわざ戦時中の国に行くの?まさか観光だなんて言うわけじゃないでしょ?」


 「いやまぁ……ちょっとした調査の手伝いといいますか……別に危険なことをする予定はないんですよ……?」


 「戦争してる国が安全とは言えないでしょ。」


 「まったく……おっしゃる通りで……。」


 マズい……ルーシュが一番怒ってるのはそこだったか……。まぁ考えてみれば昨日のパニックのせいで心配をかけてしまっているし、それ以前に大洞窟に行ってからは常にオレの危機に対して敏感になっているのだろう。


 「……止めても無駄なのは分かってるけど……。」


 「オレだって危険を冒すのが趣味ってわけじゃないから……そんなに心配していただかなくてもですね……。」


 「なら私も連れてってよ。ミラだけ行かせても危ないもん。」


 「………それはダメだ。ルーシュは連れていけない。」


 歴史の破壊者(デスティニー)と衝突する可能性を考慮しなくても、ロウドンは戦争中の国だ。確実に何かしらの形で戦争に触れることになる。危険性で考えるならオレよりも強いルーシュを案ずる資格はオレにはないが、戦争に触れて辛い記憶を思い出す可能性がある以上、彼女を連れて行くことはできない。たとえガラリネオさんに頼まれてもそれだけはオレは拒否をする。


 「……それは戦争中だから……?私のことを心配でもしてるの?」


 「………。」


 「ふざけないでよ!私だって我慢してミラの無茶を認めてるんだよ?今のミラが何か大変だって分かった上で行くのを止めてないんだよ?私だって子供じゃないんだしさ!昔の辛い記憶くらいなんでもないよ!前は君の無茶を認めようって思ってたけど……やっぱり私の知らないところでミラが苦しんでる方がよっぽど辛いんだよ……!」


 ルーシュは少し呼吸を整えてからボソッと“ごめんね。”とだけ言って駆け足で部屋を出てしまった。……オレがガキだった。自分のことばかり考えて……結局ルーシュのためだと思ってたことも全部オレのためじゃないか……。彼女を悲しませて、泣かせただけじゃないか……!


 「あの……ルーシュさんが普段と違う雰囲気で出ていったけど……何かあったのか?」


 「な、なんかすごい雰囲気になっちゃった……。ルーシュちゃんの方はウチが見てこようか?」


 ちょうど今カミュールがこの部屋にやってきて、一部始終を見ていたミライアさんが事の深刻さを考えて第一に動こうとした。


 「………やめておけ。アイツは普段からふざけた奴だが、あんなに取り乱した様子は見たことがない。君が行ってどうなる?」


 「うーん………。」


 「君もそう思うんだろう?」


 「……そうだな。ルーシュは普段どこに………あぁ、いや、いいや。心当たりがある。」


 屋上か教室か……中庭か。誰でも行けるようなところはいくらでもあるが、ルーシュの性格からしてこういうときに行く所はだいたい見当がつく。恐らく……いや、間違いなくあそこだろう。


 「ミルアルト君、それを正解だというとまた違うのかもしれないが、少なくとも君の考えは間違ったものでもない。ただ食い違いをしただけだ。君達の過去なんて俺は何も知らないが、ちゃんと話し合いをすればいい。遠慮するようなことでもないんだろう?」


 「……ああ。悪いな。」


 オレはジンリューに背中を押されるように部屋を出た。全力疾走にはならない程度に駆け足で廊下を走り、目的の部屋まで向かった。放課後でよかった。そうじゃなかったら生徒達で溢れて到着が遅れていただろう。


 「……先生……ルーシュは……。」


 「ああ、やっぱり来たのか。すぐそこにいるよ。……私は用があるからこの部屋は若者達に任せようかな。仲直りするんだよ。」


 そう言ってリュウラ先生は保健室を退室した。気を利かせてくれたのか。ありがたいな。二人きりでちゃんと話したかったから。


 「ルーシュ……?」


 「……さっきはごめんね……ミラの優しさだったのに言い過ぎた……。」


 「謝んないでよ。オレの方こそルーシュの気持ちを無視してたんだ。オレがルーシュの優しさに甘えてたんだよ。」


 オレはルーシュの寝転がっているベッドに座った。ルーシュもそれを見て、上半身を起こして話す姿勢になってくれた。


 「まずはハッキリとさせておこう。オレはたぶん、ルーシュにどれだけ止められても無茶をやめようとは思わない。もちろん無茶にならないように極力努力するけどね。」


 「うん……。」


 「それでいてルーシュには無茶をしないでほしい。平穏に、何事もなく生きていてほしいって思う。」


 「………うん。……でもミラが危険を冒すなら私はハラハラしちゃうよ。平穏になんてムリ。」


 ルーシュは少しだけ元気を取り戻したように話した。やっぱりオレはルーシュには安全に生きていてほしい。そのためならオレが危険な目に遭ったって構わないと思っている。けれどそれはルーシュも同じなのだろう。


 「ルーシュがロウドンに一緒に来たいっていうならできるだけオレは止めたい。でも止める権利がオレにあるわけじゃない。」


 「じゃあ行きたい!いや、行く!私も!」


 「……ならガラリネオさんに掛け合ってみよう。それで断られたときは流石に諦めてくれ。」


 「うん!それでいい!」


 「じゃあ生徒会に戻ろう。みんな心配してるよ。」


 「うん!」


 オレはルーシュの手を取って生徒会室に戻った。ガラリネオさんと直接の連絡は取れないから校長に頼むか。なんてお願いすればいいかは……まぁなんとかなるだろう。


 「しかしミルアルト君がいなくなると……想定していたより忙しくなるかもな。一人分の人手が減ってしまうのだから。」


 生徒会室に戻ると、メンバーが全員揃っていた。今オレ達が話していたのは霊明祭における生徒会の仕事についてだ。クラスやサークルによっては出し物をするため、“霊明武会”の運営に加えてそれらの予算を決めなければならない。予算はある程度決められてはいるものの、余りや過剰な分も一旦は計算する必要がある。


 「……?私が行くなら二人分でしょ?」


 「まさか。ルーシュはもともと戦力外だろ。」


 「……え?」


 「当日はともかくオレはやれるだけの手伝いはするつもりだぞ?面倒臭いけど表作りとか。」


 「法帝との任務があるのに疲れを残されては大変だろ。手伝いは嬉しいが……君がいなくなる前の引き継ぎなどを考えると最初から任せない方が楽だよ。」


 「それもそうか。………じゃあサポートに徹することにするよ。」


 細かい仕事の調整のため、一時間ほど話してから解散になった。みんなは寮に戻り、オレは校長室に向かった。校長はまだ帰っていなかったのでガラリネオさんとの任務にルーシュも連れて行きたいと伝えた。それ自体は了承されたが、ガラリネオさんになんて連絡しようかと考えていた。


 「……面白くなりそうだからと伝えればいいのでは?」


 「……確かに。分かった。ルーシュさんを連れて行くのは私が許可しよう。ガラリネオにも伝えておこう。」


 「ありがとうございます。それと、ルーシュとジンリューに歴史の破壊者(デスティニー)について教える許可を頂きたいです。ジンリューにおいては気づいている上で気づいていないフリをしていますし。」


 「……構わないよ。ルーシュさんは今回触れるかもしれないし、ジンリュー君は後任になるかもしれないからね。」


 「後任?」


 「聖都魔法学園ここの先代校長、“暴帝”カナレア=バンドールさんのね。あの人はもうお歳だから引退しようとしているのさ。その際知っていることが多い方がジンリュー君も楽だろう。ただ伝えるのは私がしよう。」


 「ええ、もちろん。オレは正しい情報を伝えられないかもしれませんから。」


 しかし……となるとジンリューは今最も八星級に近い七星級ということか。まぁあんなに強いヤツが他にいても困るが……案外世界は狭いものだな。

 校長との話も終え、その日は寮に戻った。後日校長から知らされたが、ルーシュの件は快諾されたらしい。一週間ほど生徒会の仕事は手伝い、出発までの残り数日は休ませてもらった。ルーシュに関してはジンリューの言う通りほとんど戦力になってはいなかったが、他のメンバーだけで充分なほどに順調に仕事が回っていた。


***********************


 それは東大陸の北西に位置する小さな島国、そんな国の都市に建てられた世界最大の建物だ。どれだけ離れていてもすぐに見つけることができるほど大きく派手なその建物の最高層で彼は待っていた。エレベーターでそこまで上るのにも数分はかかる。それほど高いところに彼は構えていた。


 「よく来たな小僧!ソイツがアリベル=ルーシュだな!?」


 「はい。同行の許可をありがとうございます。」


 「堅苦しいのはいい。どうせ大して思ってねぇだろ。とりあえず話をするからそこに座れ。」


 オレとルーシュは遥々とガラリネオさんを訪ねに来ていた。用意されていた椅子に座り、彼の話を耳を傾けた。


 「まず俺達がロウドンですることは一つ。王城や貴族の屋敷に侵入し歴史の破壊者(デスティニー)と繋がる証拠を見つけること。ただ最悪、外部の“何者か”と繋がる証拠が見つかればそれでいい。その際に戦闘が必要ならして構わない。問題が起こったとしても全て政府が誤魔化してくれる。」


 政府が正規な手順を踏んだ戦争に介入することは基本的には禁止されている。しかし政府が悪と判断している組織などが加担している場合、政府の者が介入することは問題ない。だからこそ完全な証拠がない限りは法帝も介入はしないのが規則だが、どんな理由があれ歴史の破壊者(デスティニー)は無視できないというわけか。


 「……でもあの国は鎖国状態では?そもそも入国が可能なの?」


 「それはウチの部下が上手くやっている。空間転移で不法入国だ。」


 「脳筋ですね。」


 「当初の予定では俺様と小僧で動くつもりだったが、アリベル、お前がいるなら小僧とセットで動け。俺様が一人で動く。初日は街の様子などを調査してもらうが、二日目以降は本格的に資料の調査をしていく。」


 ……確かにいきなり動くよりは色々と様子を伺った方が把握はしやすいか。最悪街中で戦闘が起こることも考慮して地形なども見ておきたい。戦時中ならば市民の生活も苦しかろうが……恐らく貴族達は豪遊しているのだろうな。


 「そしてここはハッキリさせておこう。お前達が危機に瀕すれば優しい俺様は助けてやろうと考えちゃいるが、もしお前達を見込み無しと判断したら見捨てはせずとも助けもしない。いいな?」


 「ははっ。もちろんですよ。むしろオレが助けてあげますよ。」


 「だはは!そうか!楽しみにしておこう!……さて、もう一つ共有すべきは能力スキルについてか。お前達のものは知っているが……小僧、お前剣はどうした?」


 「ああ、この指輪ですよ。ついこの間妖刀を買った……というか貰ったんです。」


 「妖刀だぁ?くっく……やっぱりお前は俺様を退屈させねぇな!好きだぜ。そういうイカれた奴ァよ!」


 妖刀と聞くだけでイカれたヤツとは……失礼な話してだ。それとも手懐けてるからか?……すぐ隣でルーシュが驚いているのは無視しておこう。


 「少し逸れたが、俺様の能力スキルは『青の大賢者』、大規模かつ強力な水系統魔法を使うことができる。まぁ俺様の力量を遥かに超えるようなモンは使えねぇが、魔力消費も抑えられるからなかなか便利だ。……で、これを聞いてお前ら、どう思った?」


 「『青の大胸筋』とかの方が似合ってるなと。」


 「失礼ながら魔法と聞くと一般的な能力スキルには劣るのかなって思いました。」


 「……小僧はともかくアリベル、お前の言うことはおおよそ正しい。魔法を能力スキルのように扱えるわけだが、能力スキルと魔法には隔絶した差がある。今回はどうということもないだろうが、大抵の奴ら……まぁお前らみたいな奴よりは強力だが、他の法帝と比べれば破壊力は低い方だ。加えて俺様には守護者もいねぇ。」


 「それはまぁ……珍しくはありますね。」


 「まぁなんだ。昔はなんというか……ヤンチャしてたからな。天界にいるような優等生には振り向かれなかったのよ。」


 ……なんか含みのある言い方だな。ただまぁ詮索はしないでおくか。オレには関係のないことだ。


 「さて……。カナ!三人分の転移にはどれくらいかかる?」


 ガラリネオさんは秘書と思われる女性に話しかけた。十法帝会議に付き添っていた人だ。転移ということは“上手くやった”という部下だろうか?流石にここから北大陸へ転移魔法を発動することはできない。あらかじめ設定した一つの座標にのみ発動する転移術、といったところか?


 「いつでも行けますよ。ただ相当な長距離で酔いやすいかと思います。」


 「良い仕事だ!ならばすぐに出発しよう。お前らもいいな?」


 「ええ。」


 「もちろん。」


 「ならば行こう!北の国、ロウドン!」


 開かれた転移門に入ると、少しの間歪んだ空間に揉まれた後に見知らぬ土地に立っていた。酔いのせいで気分が悪くなっていたのは言うまでもないだろう。しかしオレの気分が極めて悪かった理由はそればかりではなかった。

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