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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第四章 イスダン迷宮
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第26話 圧倒的存在

 「会話ができる程度には落ち着いたかな?」


 ただ一人部屋に残ったジンリューが話しかけてきた。他のみんなは部屋の外だが……だからこそか。オレとしても確認はちゃんとしておかないといけない。


 「……ああ、問題ない。……ありがとう。あいつらに話を聞かれるのはマズいから。」


 「気にするな。まずは君が気絶してからのことを話そう。」


 ジンリューはオレの感謝を軽く流して話を始めた。彼にとって気遣いがあったとかではなく、素でオレやみんなのことを考えてくれているようだ。


 「仮面の男は君に“何か”をした後、俺に対しては何もせず、何も話さずにすぐにどこかへ行ってしまった。だから正直なところ、あれからのことは話せるようなことはないな。」


 「……そうか。アイツは魔眼を持ってたよ。それだけが強さの秘訣とも思わねぇが。」


 「魔眼ね……。少しは調べておこう。次に俺から言いたいのはヤツの強さだ。……アレは異常だ。俺でも目に追えない……いや、もはやそんな次元ですらない。俺は八星級の実力に片足踏み込んでいると自負してはいるが………アレはそれを超越している。……九星級ですら指標としては足りていないだろう。空想的な表現だが、アレは言うなれば十星級だ。」


 十星級……それは決して過大評価などではない。セリアが似たようなことを言っていたのだから、仮面の男は人間に太刀打ちできるような力ではないというのは確かだ。


 「デス………いや、それは伏せておこうか。仮面の男は極めて悪質な組織に所属していると考えているんだが……その幹部を君は倒したんだよな?組織について、話せる範囲で聞きたい。」


 「仮面の男が組織の者なのは間違いないと思うが……話せるほどの情報を持ってはいないってのが正直なところだな。組織について分かってることなんてほとんどない。その全貌についてはもちろん、ヤツらの平均的な強さも一切分かっていない。確かなのはヤツらが“王”と呼ぶ存在が兵士を作り出しているというところか。」


 「“王”ね……。困った話だよ、まったく……。あんなのの上に更にいるっていうのか?」


 「仮面の男が“王がどうの”と言ってたから確かだろうな。」


 そうだ。あの男ですらトップではない。あれだけの強さを有していながら、組織を束ねる存在ではないのだ。一体どうなっているんだ……。そもそもそれだけの力をすでに持っていてなぜ大々的に動かない?それほどルシファーは慎重なのか?


 「まぁ分からんことは仕方ないか。君はしっかり休んでなさい。」


 「ああ、悪いな。」


 「そうだ。別に全然関係のないことなんだが……。」


 部屋を出ようとしたジンリューは、何かを思い出したように足を止めた。歴史の破壊者(デスティニー)についての話ではなかろうが……。


 「俺は個人的にだが、君のことを極めて気に入っている。」


 「はぁ……そりゃまた急なことで。申し訳ないがオレにはルーシュという大切な人がいてですね……。」


 「茶化すな茶化すな。そんな話をしてるんじゃないよ。俺は君に可能性を見ているんだ。」


 「それがイマイチ分からないって言ってるんだけどね。」


 「そう急がなくてもいい。ただ、本気でオレの一位(地位)を奪いに来い。」


 「……いいのか?そんなこと言ったらアンタ、せっかく得た序列を失っちまうぞ?」


 「変わらず口は達者だな。俺はそれをしてみろと言っている。」


 「……ははっ、敵わんな、やっぱり。よぉーく首洗って待っといてくれ。」


 「ああ、それでいい。」


 ジンリューはそれだけ言って出ていった。オレはずいぶんと買われているようだな。悪くない気分ではあるが……まぁいいか。オレは頭を枕に置いて布団の中をまさぐった。……?いや、そうか。置いてあるのか。オレは部屋の中を見渡した。……見えない箇所はない。部屋の全てを見れるはずだ。なのに……ない。どこにもない。


 「おい!セリア!どこだ!?アレがないじゃないか!?回収されてなかったか!?拾いに行かねぇと!!」


 「?何?どうしたの?」


 「200万で買ってもらったんだ!あんなに良いのは他にねぇし……無くしたとなっちゃいくらなんでもやり切れねぇよ!早く迷宮ダンジョンに行こう!」


 「え……だから何?」


 「“八雲”だよ!八雲の回収に行かないと……!」


 「あぁ、なんだ。そんなことね。」


 「“そんなこと”じゃないよ!………え、いや、そんなことなの?」


 その辺りの価値を分からないセリアじゃない。八雲ほど上質な刀も少ないからすでに誰かに拾われていてもおかしくはない……だから早く確認しなければと思うのだが……。どうもセリアの落ち着き具合が気になる。


 「……悪い。少し取り乱した。……何か知ってるのか?」


 「知ってるも何も、気づいてないの?左手。」


 「左手?………ん?何だコレ?」


 セリアに言われて自分の左手を見てみると、人差し指には見慣れない指輪が嵌められていた。白く輝く金属で綺麗なものではあるが……いつの間に嵌めてたんだ?こんなもの買った覚えはないぞ?


 「呪いの武器ってそういうものよ。まぁ物にもよるでしょうけど……妖刀ってなるとそれほど小さい装飾品になるのね。」


 「!?え、コレが八雲ってこと!?」


 「そうよ。主として認められたってことね。たぶん今までよりも扱いやすいんじゃない?」


 言われてみれば確かに……魔力も生命力もそこまで吸われていない気がする。何をきっかけに認められたのだろうか……。No.6との戦いでか?それとも幻術で何かされた影響か……?まぁ何にしてもこればかりは良いことだな。


 翌日の朝を迎えるまで、オレはベッドの中で回復に専念していた。異常な精神疲労だけは大して回復しなかったが、傷はほとんどキレイになくなった。昼になったら街を出なければならない。先生に渡すお土産の兎饅頭は買ったから……あとはギルドの方か。オレは朝食を摂ってからギルドに向かった。


 「あ!グランデュースさん!いらしたんですね!」


 「ん?……ああ、あのときの。」


 ギルドに到着すると、受付の方からオレを呼ぶ声がした。一瞬は誰かと思ったが、あの人はこの街に来たときに話していた人だ。名前は知らないが顔は覚えている。


 「お願いされていたお米、五キロ用意してありますよ!」


 「ありがとうございます。買いますね。」


 「……どこかお元気のないようにも見えますが、身体の調子でも悪いので?良かったら回復薬ポーションのおまけもしておきますよ?」


 「?ああ、すみません。別に不調ということでもないんです。ありがたいですが、お気遣いをもらうほどではありませんよ。」


 「そうですか!いえいえ、それなら良いんです!もう街を出られるんですよね?お探しだった兎饅頭は買われましたか?」


 「ええ、もちろん。教えてもらった店で買いましたよ。」


 「良かったです!ではまた気が向いたらいらしてくださいね!いつでも歓迎しますから!」


 オレは会計をしてから米袋をセリアから借りた空間収納アイテムボックスに入れた。……この街でやり残したことはないかな?まぁあったとすればまたいつか帰ってくればいい。オレは受付に軽く礼を言ってからギルドを出た。


 「おい!小僧!」


 「?」


 ギルドを出てみんなのところへ向かおうとしたとき、男の声がオレを呼んだ。馴染みがあるというほどでもないが、よく覚えている声だ。


 「……ロイドじゃねぇか。生きてて良かった。」


 「お前こそな。……ありがとう!お前のおかげで俺は自分を見つけられた!」


 「感謝されるようなことはしてねぇよ。こっちこそ刀をありがとうな。……酒に溺れて死ぬんじゃねぇぞ。」


 「ああ!いつかまた会おう!そんときは飯でも奢ってやる!」


 この街を心配する必要もなさそうだな。後腐れなく発つことができる。余裕ができたら遊びにこようかな。

 電車に乗ると、例のごとくすぐ隣にはジンリューが座った。他のみんなはすぐに寝てしまうから話す相手も彼しかいないが……。まぁ構わないか。


 「乗り物酔いは平気か?行きではだいぶやられていただろう?」


 「………まだ問題ないよ。ただ酔う前に寝てしまった方が楽なのかもな。」


 「今は平気なのか。アレ以降君は常に気分悪そうにしているから分かりづらいな。」


 「……言うほどか?」


 「そうだな。ただまぁ平気なら少し話そうか。えーっと……霊明祭がもうじき開かれるだろう?準備期間と本番はちゃんと出られそうか?」


 「うーん……どうだろうな。できるだけ出たいが、今回のことを校長に話さないといけないからな……。ガラリネオさんとの約束ももしかしたら被るかもしれねぇし……。」


 「……今回のことか。俺も引率としては先生達にちゃんと報告すべきだろうが……もし情報が漏れようものならルーシュが面倒臭いことになりかねんからな……。校長以外には俺は黙っておこう。」


 「何から何まで助かるよ。……ルーシュにはオレから軽く話しておこうかな。隠し事も何か悪いし。」


 ジンリューとの話を一通り終えた後、オレは乗り物酔いに潰されないうちに軽く眠り、数時間後には列車を降りて学園の寮に戻った。どうも日が暮れたようだ。校長やルーシュに話をするのは明日の朝でいいかな。……明日は一応休日だから会えるかどうか……まぁ急ぐ必要もないか。


 「さて………何を話せばいいかな……。」


 翌日、オレは校長室の前まで赴いていた。ジンリューが軽くは話しているらしいが……歴史の破壊者(デスティニー)についてはオレから話さないといけないからな……。仮面の男に関してはどう話したものか………まぁいいか!


 「失礼します。」


 「おお、待っていたよ!入りなさい!」


 扉をノックすると校長の声が聞こえた。久しぶりに聞く声だな。………言うほど久しぶりか?どうも最近聞いたような気もするが……いつの記憶だろうか。………気のせいか。

 部屋に入り、椅子に座ってから向かい合った。まずはNo.6のことから始めるか。


 「まずはそうですね……。」


 オレはNo.6との戦いのことを話した。そしてその中で得た情報として、“王”と呼ばれるのがルシファーで正しいだろうということ、そして歴史の破壊者(デスティニー)はそのルシファーに造られた者達だということ。気づいてはいるだろうが一応オレが七階層に踏み込んだことは伏せて可能な限り細かく説明した。


 「つまり、現れたNo.6と魔物達を現地の冒険者と協力して討伐したということでいいかね?」


 「結果を言えばそうですね。生け捕りにできるほど余裕はなかったので殺してしまいましたが、一応髪の毛は取ったので渡しておきますね。」


 「ああ、ありがとう。政府の研究所に送っておこう。殺しに関しては大丈夫だったかい?」


 「快いものではありませんでしたが……相手も相当の殺気だったので特には。やっぱり魔物を斬るのとはまた違った感じでしたね。」


 「立場的に勧めるべきでもないのかもしれないけど、その程度なら戦いの才はありそうだ。ところでそのNo.6っていうのはどの程度の強さだった?」


 まぁ……当然の質問だな。No.6はNo.8よりも弱かった。確か番号は強さに関係ないと言っていたか。……いや、まずは力について話すべきか。


 「結論から言うと平均的な七星級の下位といったところでしょうか。能力スキルは瞬間移動を扱うもので、召喚魔法を使っていましたがそれは能力スキルには関係なさそうでしたね。間違いなくNo.8ほど強くはありません。」


 「瞬間移動………となると固有能力者ネームドではなさそうだね。そして番号と強さは関係ないか。弱くはないが……。」


 固有能力者ネームドとは、グランデュース家などの継承能力者インヘリットとはまた違った能力保持者スキルホルダーだ。血の繋がりとは関係ない生まれながらの能力スキル持ち、それはつまり生まれたときから創造神の寵愛を受けているということだ。親や祖先が能力保持者スキルホルダーであれば固有能力者ネームドとして生まれる可能性も高いが、継承能力者インヘリットと違うのは受け継がれる力ではないということ。ルーシュやジンリューがその例だ。単に能力保持者スキルホルダーと呼ばれる一般的な能力スキルよりは強力なことが多い。No.6が固有能力者ネームドではないということはルシファーは望んで能力スキルを与えることはできないということだろうか……。


 「加えて言うと魔眼を持っていましたね。詳しくはないのでどういった効果があったのかは分かりませんが。」


 「魔眼か……。目を起点に発動するのか能力スキル効果の底上げといったところか……。よく勝てたね。正直私でも手こずるだろう。」


 「ええ、それと……正直信じ難いものの重要性の高いと思われることが……。」


 「……聞こう。アスダルト、メモを取れ。」


 「はい。」


 校長が指示をすると、後ろに立っていた副校長がメモ帳を取り出した。そういう態度を取るほどの情報では……いや、それほどの情報か。


 「まずNo.6との戦いの後、帰るところで黒い仮面の男と遭遇しました。言動からするにヤツも歴史の破壊者(デスティニー)でしょうが、オレはあの男の魔眼にやられて恐らく幻術にかけられていました。」


 「恐らく?」


 「その間の記憶を失っているため断言はできません。ただ間違いないかと。」


 「………それで、問題なのはどの辺りだね?」


 「仮面の男の強さです。あのときはジンリューもいましたが、とても敵う強さではありませんでした。セリア曰く彼女やベルドットさんでも足元に及ばないと。」


 「ほう………はぁ!?何……何!?」


 「それについては私が話すわ。」


 そう言って実体化したセリアが現れた。今回の件はオレがちゃんと話すべきではあろうが……こればっかりはセリアの方が分かりやすいか。


 「セルセリア様……!すみません。少々取り乱しました……が、今の話は?」


 「事実よ。天地がひっくり返っても私やベルドット君で勝てる相手じゃない。」


 「………しかしその男とベルドットの実力を実際に見たわけではないのでしょう?言い切れるものなので?」


 「確かに実力の上限は知らないけど、アレには勝てないわ。次元が違うもの。どう言っても納得はし難いでしょうけどね。」


 「………いえ、あなたがそこまで言うならそうなのでしょう。…………ならば全ての法帝で戦えばどうでしょう?」


 「それでも勝てるとは断言できないわ。足止めは充分できるだろうけど、殺せるとは言えない。」


 ……そんなに強いのか?本当なら次元が違うとかいう話でもないじゃないか。勝てるか勝てないかではなく、どうやって戦わないかを考えるレベルだろ。


 「………そんな化け物がいるなら敵いませんよ。」


 「打つ手がないというわけでもないわ。こればっかりは深くは言えないけど、そんな化け物がいるからこそどうにかなる。」


 「………よく分かりませんが分かりました。そう焦らずにいましょう。」


 セリアの言う“人”というのが誰なのかは分からないが、平気と言うのなら平気なのだろう。……いや、平気とは言っていないのか。


 「それでここからが重要なんですが、No.6は“番外”を除いた歴史の破壊者(デスティニー)には序列がないと言っていました。それはつまり“番外”という圧倒的な存在がいるということでしょう。そして恐らくその“番外”というのが仮面の男だと思われます。」


 「待て待て待て……。つまりそんな化け物が何人もいると?加えてルシファーだろう?………とりあえずその話は法帝達に伝えておくよ。報告ご苦労だったね。少し頭を冷やさせてくれ。」


 「ええ、では失礼します。」


 とりあえず報告すべきことは以上だな。校長も流石に頭を悩ませていたが、セリアが自信を持っているから胃が痛くなることもないだろう。オレは部屋を出て寮へと向かった。

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