第23話 完成した能力
No.6の動きは速いなんてものじゃない。仮にオレの目で追えないほどに速かったとするならオレではとても敵わないわけだが……それならばさっきの蹴りでオレは殺されていただろう。つまりヤツの力はそうじゃない。
「瞬間移動か……?空間転移だとか、そういう次元の速さじゃねぇよな?」
「さっきの一瞬で見破ったか!なるほど、センスも並じゃないな!!そう、私の能力は『瞬間移動』!多少のインターバルは必要だが、視界の中なら“移動”という過程を飛ばして動くことができる!!」
「能力まで明かしちまって親切なこったね。余裕のつもりか?」
「私の勝因が“相手が私の力を知らなかったから”じゃロックじゃねぇだろ?貴様も単純な実力差で負けられるのだから嬉しいだろ?ああ、貴様の力はある程度知ってるから説明は要らんぞ。」
本気で勝つ自信があるようだ。確かに実力はあるようだが、どうにもならないような相手ではない。相手が慢心してくれるならそれに越したことはない。話を終えたNo.6が瞬く間にオレの目の前に現れ、オレは咄嗟に刀を振った。ヤツは速さは足りているために全ての魔力を破壊力に回しているようだ。斬れ味が半端ではないはずの八雲の斬撃をその拳で受け止めている。
「ハッハッ!!なんだその刀は!?メチャメチャにロックじゃねぇかよ!!」
「想像以上ではあるんだが……お前の硬さの方がどうかしてんだろ……!!」
八雲の斬撃はNo.6を斬るには至らなかったが、防がれなかったところは奥の壁まで斬れていた。特別力を込めて刀を振ったというわけではない。今のはただ受け止めただけだ。それだけのものなら、攻撃力は充分足りている……と思う。
「ガキの振るう刃は恐ろしくて敵わないね。防御はちゃんとした方が良さそうだ。」
「だいぶ硬いんだが、脅威には感じてるのか。お前の硬さの限界を見極めなきゃならねぇな。」
No.6は瞬時に目の前に現れ、攻撃に失敗するとすぐにどこかへ避難してしまう。オレの攻撃は全て受け止められてしまうが、効かないわけではない。鋭い剣筋で斬りかかることができれば、かろうじて皮膚には傷を残せる。だがヤツもボルテージが上がっていってるようだ。瞬間移動が発動するテンポもそうだが、身体の動きなども少しずつ速くなっている。しかし長期戦になれば有利なのはオレだろう。
「貴様に触れると魔力を持っていかれるな……。残念ながら、そういうのは好きじゃねぇ!!」
「ぐはッ……!!」
No.6はオレのすぐ横に現れ、オレは腹に強烈な蹴りを喰らった。胃が迫り上がってくるような不快感と激痛が走った。瞬間移動には攻撃力がないはずだから、これは単純な身体能力によるものだ。身体の中で出血しているようだ。腹の奥でドクドクと鳴っているのを感じた。
「そうだそうだ。私は優しいから教えてやろう。貴様、No.8にやられたとき、殺されなかっただろ?」
「ごほッ……はぁ……それが……?」
「王はな、貴様を殺さないよう命じていたのだ。貴様を殺すことで計画に何かしらの支障が出ると考えられたのだろうな。だが王はその命令を変更した。“邪魔になるなら殺せ”とな!」
「つまり……前とは違って本気で殺しにくると?」
「その通り!命を懸けた戦いこそ、ロックだろ?」
No.8には殺されかけてはいたんだがな……。しかしコイツは強いな。動きを見極めるだとか、そんな悠長なことは言っていられない。消耗はするだろうが、温存して戦えるような相手じゃない。
(セリア、左腕借りるぞ……。)
(いいけど……私が直接出ちゃダメなの?)
(オレとアイツの実力はそこまで離れているわけじゃない。セリアが出たら相当の制限を喰らうハズだ。まともに戦えやしないよ。)
(……なら私の剣まで持っていきな。今の君ならそれくらいはできるよ。)
(ありがとう。)
セリアに話を通し、オレは天現融合を発動した。左腕にセリアの魔力を融合させ、加えて名剣“オーディラン”も八雲に融合させた。守護者の所有物は幽体化させられるため、天現融合も可能だ。魔力を流すと風を巻き起こす剣の特性と相まって、オレの左半身は山火事のように燃え盛った。
「ほう……!中途半端な天現融合じゃないか!!だがその力は恐るべきものだな……流石は神話の英雄の力か……!」
「おいおい、お前に刃を向けてんのはオレだぞ……?」
「ッ……!!」
オレは刀を握ってNo.6に突進した。ヤツはその刃を受けることなく、瞬時に後退して距離を取った。左腕に魔力が流れてくるが、それが全身に流れることで力が溢れ出していた。自信の魔力を遥かに超える量を制御しないといけないため身体にかかる負荷は相当のものだが、それを我慢すれば問題ない。ただ当然、少しずつ動きは鈍くなるだろうからこうなったら早いとこ決着をつけておきたい。
「速いな……。いや、悪かった!確かに私の相手は貴様だ。敬意を込めて、今から貴様を破壊してやろう!」
瞬間移動して攻撃してくるNo.6を、オレは手や脚を使って受け止めながら斬りかかった。炎の熱で消耗させることはできているが、未だに優勢にはなれない。が、一見無敵のようにも思える瞬間移動という力にも対抗することはできそうだ。まず特徴が三つ。一つ、ほんの少しの時間も経たずに移動することができる力ではあるが、発動する直前、ヤツの瞳は紫色に光る。恐らくは視力を介して超常の力を発揮する“魔眼”というものだろう。二つ、発動は視界に依存するため、オレの背後に移動することは不可能。三つ、距離が遠ければ遠いほど予備動作、つまり魔眼を発現させる時間が長くなる。慣れていけばおおよその移動地点を予測することも難しくはない。
「魔眼……実際に見るのは初めてだな。」
「もはや最も警戒すべきはその観察眼だな!しかし貴様、魔眼の何たるかを知っているのか?」
「初めましてだっつってんだろ。」
「ハッ!そう言うな!そうだなぁ……魔眼ってのは王の力なのさ。王ってのは肩書きや素質のようなものだがな、さして偉大なものではないが支配力においては極めて大きなものだ!!」
「??」
No.6は魔力を解放したかと思えば、魔法陣を描いて何かを呼び出した。空間を繋ぐ召喚魔法と瞬間移動は相性がいいのだろうか。召喚した魔物は人型でさほど大きなものでもなかったが、その魔力量は混沌竜に匹敵するものだった。アレは骸骨騎士や魔装騎士の上位種である彼岸騎士という魔物だろうか。
「まさかとは思うが……主か?」
「そうさ!最下層に赴いていて良かった。正直私の力だけでは貴様の炎を越えて殺すことは叶わなかったかもしれない。」
「なるほどね………こりゃ驚いた。」
「私達は天転召喚などしていないからな。天現融合などはできないが、魔物を取り込み力を増すことはできる。名付けるなら魔幻従顕……!」
No.6は彼岸騎士を分解、吸収した。見た目こそさほど変わっていないものの、発している威圧感や魔力量は別物のように変わっていた。特に魔力量に関しては八星級に匹敵するものになっていた。出力もそれ相応のものだろう。
「基本的には人間と変わらねぇと思ってたんだが……お前らは魔物か魔族なのか……?」
「うん?……ああ、そういや名乗ってはなかったか?私達は歴史の破壊者だ!!」
No.6は二振りの短剣を握ってオレに斬りかかってきた。オレは上半身を逸らして回避しようとしたが、完全には避けきれずに刃は頬を掠めた。小さな傷ではあったけれど、痛みは抉られたかのように強く走った。その上電気でも走っているかのように顔の筋肉が痙攣している。
「……毒でも…塗られてんのか……?」
「王が作られた“生きた毒”だ!体内に入った毒は成長し、蝕んでいくものなのだが……どうやら貴様の炎とは相性が悪いようだな……!!」
これで“相性が悪い”か……。セリアとの天現融合を習得していなかったらどうなっていたか、考えたくもない。オレは両手の短剣を刀で受け、炎で防ぎながら攻撃にも転じた。ヤツは短剣を宙に舞わせながら打撃も加えてくるせいで対処が難しい。確実にオレに向かってくる攻撃にだけ意識を集中し、フェイントのために放り投げられた短剣は無視することにした。
「ぐッ……!??ガハッ……ハッ……!?」
「ふふ……貴様はやはり切り替えが早いな…!それがセンスというものか……仇になったな……!!」
宙に投げられていたはずの短剣が、なぜかオレの右肩に突き刺さっていた。オレに刺さるような位置には投げられていなかったはずだ。仮にそのような位置だったとしても、落下してオレに当たるまではまだ時間があったハズだ。なぜ刺さった……?
「不思議に思っているようだな!貴様は“昇華”というものを知っているか!?」
「“昇華”……?」
いつだかセリアから聞いたことがある気がする。なんだったか、考えながらNo.6の攻撃をいなしていた。痛みのせいで動きは鈍くなっている。この際短剣による攻撃に集中して打撃は甘んじて受ける方がいいのかもしれない。オレは大きく後退して肩の傷を焼いた。動脈が損傷したため出血が酷かった。早くポーションを使って治すべきだろうが、コイツを野放しにしておくべきでもない。最悪、帰還石を使ってしまえばいいのだからまだ退くわけにはいかない。
「今は気分がいいから教えてやろう!私の完成した能力は触れたものをも移動させる!貴様が対処すべきは私だけではないぞ!!」
「…………。」
手数が増えたってとこか……。だがNo.6もある程度は消耗しているようだ。だが強い。どうも……オレも後先考えずに全力でやるしかないかもしれん。
「『叢雲……剣』……!!」
「ほう………!!」
八雲を纏った炎は、魔力のせいか白く変色した。熱気はさらに勢いを増して刀とオレの左半身を包み込んだ。もって三分ほどだろうか。オレは全ての魔力でNo.6を迎え討とうとした。
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ところ変わってここは迷宮の二階層、一行は昨日と同じように魔物を狩っていた。定期的に出現する階層ボスを狩りながら、基本的には下級の魔物を狩り尽くしていた。
「やっぱ二階層じゃ歯応えがねぇな。なぁ、リアン?」
「君なぁ……無茶をした奴から死んでいくんだぞ!弱くていいんだよ!敵は!!」
「まぁでもラルヴァの言うことも理解はできるな。せっかくの学外学習だというのに……まぁ迷宮は危険の伴う場所だから仕方ないがな。」
「………………。」
「どうかしたんすか?ジンリューさん。」
迷宮の主が現れた影響か、あるいはミルアルトとNo.6が激しい戦闘をしているせいか、迷宮は微かに震動していた。ジンリューにそれを知る由はなかったが、何かが起こっているという異常性は理解していた。
「君達、今日はこのあたりで引き上げよう。」
「それはまたどうして?」
「嫌な予感がする。」
「嫌な予感ってのは魔物が出るっつーことですかね?それならいいじゃないですか。」
「もう一度言う。今日は引き上げよう。」
「………分かりました……。」
ジンリューの言葉で全員武器を収め、一階層に上がる階段へと向かった。ラルヴァに関してはどうしてか説明されないためにイマイチ納得できていなかったが、何が起こるよりも彼を怒らせる方がよっぽど恐ろしかったので抗議はしなかった。




