第22話 休日
オレは自分の部屋を出て、隣のジンリューの部屋に来た。ドアノブに手をかけて扉を開き、部屋の中を見渡した。彼の姿はぱっと見確認できないが………。
「ミルアルトでーす。ジンリューいるか?」
「そういうのはノックをしてから尋ねてくれるかな?知らないのかもしれないが、一応プライベートの空間なんだよ。」
「そっか!知らなかった!」
「騙す気もない嘘をつくような後輩ほど面倒なものはないな。何の用だ?」
死角から現れたジンリューは、迷惑そうにしながらもオレの話を聞こうとしてくれた。相変わらず後輩に優しいというか……元々想定でもしていたのだろうか。
「明日のことについて少し。」
「なるほど、そう来たか。茶は出せないがまぁ座れ。」
ジンリューに促され、オレは部屋に上がった。オレの部屋よりも良い雰囲気だ。まぁ部屋の良し悪しはそこまで気にする必要もないか。
「明日は休みにでもするのか?」
「ああ。生徒会の特権だもんな。自由に休めるのは。“学外授業”外なら何階層に入ろうとも問題ないもんな。」
「………一応理由を聞いても?君は約束を雑に扱うような男じゃないだろ?」
歴史の破壊者についてはまだ機密情報だったよな。ジンリューがそれについて知っているとはいえ、オレがそれを話すわけにはいかないか。
「詳しくは話せねぇけど、三階層以下で怪しい動きがあったようだから。片付けておきたい。」
「歴史の破壊者か?それなら俺も簡単には首を突っ込めないが……校長に連絡はしておこうか?」
「いや、まだ全然確定してるわけじゃないんだ。読み通りなら帰ってから交流しておくよ。」
「ははっ。勝つのは前提か。それでこそ君だ。………で、正直俺が一番気になってるのはその物騒なものなんだが。」
そう言ってジンリューは八雲を指差した。やっぱり見て分かるのか。そりゃあまぁ見た目も魔力も禍々しいものだからな。
「武器屋で買ったんだ。“八雲”っつーんだが……。」
「なるほど、妖刀ね。そこらの呪いの装備よりタチが悪いが、その質は比べるまでもなさそうだな。最大値だけを考慮するなら名槍“バイデント”と比べても遜色ないんじゃないか?」
「ベルドットさんの槍か。アレを使ってるところ……っていうかあの人が戦ってるのを見たことないからどうだかな。」
名槍“バイデント”は世界で最も有名な武器だ。人類最強と呼ばれるベルドットさんが使っているということもあるのだが、そもそも“名”と名につく武器が現状三つしか存在しないらしい。名槍“バイデント”、名剣“オーディラン”、名刀“鬼火舞《おにのほのまい”。オレは詳しくは知らないが、それら三つの武器は成り立ちが何やら特殊らしい。
「ま、とりあえず話はそれくらいだ。明日は体調を崩したってことにでもしといてくれ。」
「そんな理由じゃ誰も納得しないだろ。そうだなぁ……“兎饅頭にハマって食べ歩きしてる”ってことにしておいてあげよう。」
「……まぁそれでもいいけど。そういえば、今回オレが死ぬ未来は見えるか?」
「前にも言ったが俺が見た未来では君はしばらくは死ぬことはない。ただ……遠い未来であればある程度正確なものではあるけど、君の死が世界にとって些細なものならばそれも確実とは言えない。油断はするな。」
そうか、そういえばジンリューの予言はあくまで世界の運命を見るもの。死ぬ可能性は少なくとも、オレが世界に及ぼす影響が分からない以上“オレが生きている未来”を見たとしても確実性には欠けている。
ジンリューとの話を終え、オレは自分の部屋に戻った。歴史の破壊者がいるとするなら決して安全とは言えない。No.8よりも強いヤツがいる可能性だってある。その場合逃げられるなら逃げた方がいいだろう。とりあえず今はできることをやるしかない。オレは坐禅を組んで八雲を握った。戦っている最中に力を吸われてはたまったもんじゃないからな。今のうちに懐かせておくしかない。
気づくと窓から陽が差していた。普通に眠たかった上に思った以上に気力を吸われていたようだ。身体は少し重くなっているが、満足したのか八雲はこれ以上オレの力を吸おうとはしなかった。時計を確認すると針は10を指していた。ジンリュー達は迷宮に入っている時間だな。オレはシャワーを浴びて出発する準備をした。
「大丈夫かな?まぁなんとかなるか。」
「危ないときは私が出るわよ。」
「いざってときは頼むよ。………そういえばオレが急に寝たのにセリアは起こしてくれなかったのか?」
「死にはしなさそうだったし。」
「なるほどね。」
オレは八雲を腰に差し、宿を発った。ギルドまで歩いていき、食堂の扉の近くに座っているロイドの向かいに座った。同時にオレンジジュースとサンドイッチ、白米を注文した。
「悪いね。待たせたか?」
「悪いと思ってんなら呑気に朝飯を食おうとしてんじゃねぇよ。」
「腹が減ってちゃ剣も振れねぇよ。何事も準備ってのが大事なんだ。」
「んなことを言うならよ……いや、やっぱいいや。とりあえず話をするか。オレが案内できるのは八階層までだ。それまでに例の冒険者に会えなかったら悪いが諦めてくれ。」
ロイドの説明をオレはジュースを飲みながら聞いていた。ここの迷宮は十五階層まであるのだったか。そのなかで八階と聞くと微妙に聞こえるかもしれないが、実際は冒険者としては相当の実力者だ。十五階層まで進めるのはSランクの冒険者くらいのものだろう。最深階層に入れば迷宮の主が現れる。その主というものが異常に厄介なのだ。ちなみに大抵の魔物は死ねば武器も魔素に還ってしまうけれど、主の場合は稀に戦利品として獲得できる。呪いの装備は大半がそういったもののため、倒す価値は大いにある。せっかくだから会ってみたい気もするが………。
「魔物を全てオレが倒すっていうならどこまで案内できる?」
「………一応十二階層までなら見たことがあるが……あそこはA級の魔物も少なくない上に魔物も数も多い。案内をするのは十一階層が限界だ。」
「そうかぁ……それなら八階層まででいいや。じゃあもう行こうか。オレの仲間に見つからないように行かねぇと。だから回り道するかもしれねぇな。」
「見つかっちゃマズいのか?」
「何を言われるか分からないからな。」
「面でも着ければいいだろ。コートでも羽織っていればバレやしねぇだろうに。」
「目立つだろ、それ。」
ロイドの提案は却下し、オレ達はそのまま迷宮に向かった。迷宮に入ってからは魔力感知を全開にしながら、セリアの感知能力も頼りにしながら進んだ。一階層は最短のルートで進み、二階層に進んだ。そこで魔物を狩っているカミュールを避けるように回り道をし、そのまま三階層に進んだ。そこからは順調に進んでいき、五階層に入ってから雰囲気がガラリと変わった。
「迷宮の深層ってのはどこもこんなものなのか?」
「全部がこうとは言えねぇな。まぁ珍しいものでもない。」
五階層は四階層までとは一気に変わり、大木が生え、まるで森の中の古びた遺跡のようだった。大量の魔素に晒されたせいなのか、新しく自然を形成しているのだ。光を発する特殊な植物も生えているおかげで階層全体が浅層よりもずっと明るかった。不思議な熱も発しているため、ここよりも深い階層なら灼熱の階層や極寒の階層などというものもあるのかもしれない。それなら深層は魔物に加えて環境も厄介ということになるな。
(…………いるわね、歴史の破壊者が。)
(ホントか?オレは感じないけど。)
(たぶん……七階層じゃないかな?No.8ほど大きな魔力ではなさそうだけど……。)
(そっか。そりゃ運が良かったな。)
オレはロイドに七階層に目標がいることを伝え、そのまま階を二つ降りた。五階層から七階層の雰囲気はそう違わなかったが、少しずつ気温……室温?が下がっているようだった。七階層ともなると木の葉は凍っているものもあり、霜の降りた地面はシャリシャリと音を鳴らした。……地面に土が張っているのは朽ちた樹木のせいだろうか?
七階層に茂っている葉を払いながら進むと、オレでもその魔力を感知することができた。確かにNo.8ほどではないが、ヤツと変わらず嫌な感じの魔力だった。そしてその魔力量はおよそ七星級の上位といったところか。ロイドと共に進んでいくと、少し開けたところで大量の魔物とソイツが見えた。
「なるほどなぁ………この前とは打って変わって、随分と魔物と仲が良いじゃねぇかよ。」
「うぅん?誰だアンタ?…………あぁ!いや、アンタか!この前は助かったぜ!本当によ!!」
「そう思ってる割には忘れてたようじゃねぇかよ。」
ここまで近づくと、オレでもあの男がNo.8と近しい存在だということを理解できた。やはり感知能力が向上しているようだ。セリアの反応からも歴史の破壊者だということは確実だ。そうなるとコイツの正体をロイドに知られるわけにもいかないな。
「ロイド、悪いがアンタにゃ魔物を任せてもいいか?七階層の魔物に引けは取らないだろ。」
「そうだな。俺も思うところはあるが、あの野郎に用があんのはお前だもんな。せめて邪魔にならねぇように離れたところに引き寄せておこう。」
そう言ってロイドは全ての魔物に軽く攻撃し、ヘイトを買ってからどこか遠くへ行ってくれた。これなら何にも気にかける必要もなく戦える。いや、戦う前に聞きたいこともある。
「お前は歴史の破壊者の一員ということでいいか?」
「私達のことを知っているか!いや、それも当然か。貴様はグランデュース=ミルアルトだな!!私はNo.6だ!!」
「オレのことを知ってるのは光栄だが、No.6か……。魔力からするにNo.8よりは大したことねぇと思うんだがな。」
歴史の破壊者は全員オレのことを知っているのだろうか。なぜ顔まで割れている?……いや、No.8に関してはオレに気づくまでは時間がかかっていたし、オレの情報が細かく共有されたのは最近のことか?
「“番外”を除いた私達ナンバーズの間に序列はない。確かにNo.8は私より強いが、それは与えられた名には関係のないことだ。………そんなことよりグランデュース、私は貴様に聞きたいことがあるんだ。」
「オレの好物はいちごパフェだぞ。」
「そんなことはガールフレンドとでも話してやがれ。そうじゃあなくてだな……王はえらくグランデュースにご執心だ。貴様と……貴様の背後にいる剣姫にな。一体王に何をした?」
「分からねぇな。オレとしてはなんでその“剣姫”の存在を知っているのかが不思議でならねぇんだ。」
「心当たりはねぇのか。平和な頭の野郎だぜ。」
オレの周り、少なくとも学園にはにコイツらと同じような魔力を持った者はいない。いるとすれば歴史の破壊者と繋がっている人間だ。今のところは一切手掛かりを得られていないが、歴史の破壊者と戦えばいずれ何かしらの情報を得られるかもしれない。
「オレもお前に聞きたいことがあるんだが……。」
「答えられるものなら答えてやるよ。私は優しいからな。」
「お前達の王というのはルシファーのことか?」
「その通りだ。王とはルシファー様のこと。肉体は若いが私達の生みの親であり偉大な世界の王になられる存在……!!」
生みの親か……やはりルシファーが歴史の破壊者のボスらしい。となるとコイツらは読み通りルシファーの力によって生み出された人工生命体ということだろうか。
「ならもう一つ、ルシファーとルシフェルの関係は?」
「それは答えられんな。王は生前の記憶を失っておられる。貴様らはそう考えているようだが、私達も王の正体は知らん。」
「生前の記憶はないか……当然のことだな。」
「質問はそれだけか?」
「そうだな。そろそろ始めよう………!?」
「なら貴様とはここでおさらばだ。」
目の前からNo.6が消えたかと思えば、オレは後ろから頭を蹴られ、地面に強く踏みつけられた。大きく割れた地面に顔の骨が砕かれるような感覚だった。
「ガキはロックじゃねぇから好きじゃねぇのよ。苦しまずに死ねて良かったじゃねぇか。」
「…………おうおう、言ってくれるじゃねぇか。ちと痛ぇが、まさかお前この程度で人が死ぬとでも思ってんのか?」
オレはチカチカと点滅する視界を抑えて立ち上がった。魔力を纏うのがあとコンマ数秒遅れていたら、オレの頭蓋と脳がかき混ぜられていただろう。速いとかいうレベルじゃなかったな。
「ハッ!頑丈なガキだな!良いぞ!貴様は多少はロックそうじゃねぇか!!」
「困ったな。オレはお前みたいなヤツにゃ認められたくねぇんだが。」
頭が痛むせいでテンションが若干変になってるな……。まぁいいか。どんなテンションでもオレはコイツを倒せばいいんだ。オレは話しながら八雲を向いて、剣先をNo.6に向けた。




