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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第三章 会議
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第17話 神話に建てられし聖なる要塞

 シュベッツとの試合を終えてオレ達は各々の寮に戻った。とはいっても闘技場からはそれなりの距離があるため、少し話しながら歩いていた。


 「だからさ、学外学習はカミュールとヴァンルージはオレと一緒に迷宮ダンジョンにでも行こうよ。ついでにラルヴァとリアンも連れて五人でさ、それならそう危なくもないだろ?」


 「君……懲りてないのか?獄境で痛い目を見たんじゃないのか?」


 「そんなことにビビってたら強くなれないからな。死ぬつもりはねぇけど、死ぬ覚悟はできてるよ。もっとも、流石に学園の行事で死ぬようなところには行けないだろうけど。」


 「……迷宮ダンジョンは死ぬんじゃないか?」


 「イスダン迷宮の1〜2階層なら弱い魔物しか出ないだろうし、最悪すぐに逃げ出すから大丈夫だろ。もちろん最大限警戒はしておくけど。」


 迷宮ダンジョンというのは魔物が湧き出る場所のことだ。天然の魔素が充満していることで湧き地となっている“天然型迷宮オリジナルダンジョン”と、遥か昔に訓練場などとして使っていた施設が魔法などの多用によって魔素が溜まりやすくなり、その結果として湧き地となった“人為型迷宮メイドダンジョン”の二通りがある。

 そしてオレが行こうと思っているイスダン迷宮は地下に作られた階層型の人為型迷宮メイドダンジョンだ。深い階層ほど大規模な魔法が使われたことが多く、それによって強い魔物も深い階層に湧きやすい。2階層ならば基本はD級の魔物、強くてもC級の魔物しか出ないだろう。ヴァンルージは分からないけれど、それ以外の四人なら各々がC級の魔物なら簡単に倒せる実力はある。ヴァンルージも生徒会に入っているということは相応の実力はあるはずだ。3層以下に入らなければ、怪我をすることもないだろう。


 「まぁ君達が死ぬ未来は見えないが………分かったよ。最終的に許可を出すのは俺じゃないが、校長に進言くらいはしておくよ。」


 「私は一緒に行こうかな。迷宮ダンジョンというものに興味がある。」


 「ボクも行きたいな。君について行けばボクは強くなれる気がする。……でもAクラスのボクは一緒に行っていいのかな?」


 「そこに制限はないはずだよ。それより気にしなきゃならないのは先生の説得じゃないのか?ランファ先生は生徒をそういうところに行かせないだろ。」


 「それは多分大丈夫だ。説得できる自信がある。」


 「………楽しそうだし私も行こうかなぁ!」


 「ルーシュ、お前はダメだ。そもそもこの時期の学外学習は一年だけだろ。それに生徒会の仕事もあるからな。」


 「うぅ……。」


 目を輝かせながら言葉を発したルーシュに対し、ジンリューは冷静に言葉を返した。まぁでも……そりゃそうだろうな。一年の学習に三年が参加するなんて考えたらあり得ないことだ。

 話に区切りがつき、みんな寮へと帰っていった。ジンリューやカミュール、ヴァンルージを見送り、オレも自分の部屋に戻ろうとした。


 「ねぇミラ、少しお散歩しない?」


 「散歩?まぁいいけど。」


 そうしてオレはルーシュに連れられて学園の並木道を歩いた。外はすっかり暗くなり、昼には輝いていた緑色の木の葉は闇色に染まっていた。しかしここから見える建物はそれに反して昼間よりも一層輝いており、街灯に照らされた道は存在感を際立たせていた。空気も澄んでいて、夏だとは思えないほどに涼しい。散歩などほとんどしないから知らなかったけれど、案外気分の落ち着くものだな。


 「夜だとルーシュのブレスレットは目立たないな。せっかくならもう少し良いやつでも買えばいいのに。なんなら買ってやろうか?」


 「いや、これがいいの。古くてもいいんだ。」


 ルーシュが右腕に嵌めているブレスレット、これは昔彼女の誕生日にオレが送ったものだ。10年ほど前だっただろうか、当時持っていた小遣いを使って買ったものだ。10,000(ゴールド)もしない安物だった気がするが、そのときはまだキラキラしていて子供ながらに綺麗だなと思った。それが今では色褪せ、輝きを失ってしまっているけれど、ルーシュはそれがいいらしい。


 「それよりさ、あんなにカッコよく魅せたのに、自爆技なんて思わなかったよ。もう使っちゃダメだよ?」


 「気づいてたのか。まぁもっと身体が頑丈になるまでは使わないよ。それにもう痛みも引いたし心配はしなくていいから。」


 「それならいいけど……それよりさっきまで人がいたから聞けなかったけど、ユリハ様は腕も治せるの?」


 「うん。………うん!?なっ…えっ?なんで?」


 想定していなかったルーシュの言葉に、オレは分かりやすく動揺してしまった。なんで知っているのか、驚いたのは言うまでもないだろう。左肩を見れば違和感はあるだろうが、それを隠すために最近は長袖を着るようにしている。実際、今ルーシュに聞かれるまで誰にも言及されなかったのに……。


 「どれだけ長いこと一緒にいたと思ってるの?歩いてるときも左腕がぎこちない感じがしたし、よく見てみたら腕自体いつもとちょっと違うんだもん。…………痛いの?」


 「いや、痛くはないかな。ただ馴染むまでは時間がかかるっぽくて、まだあんまり上手く動かせないんだ。」


 「じゃあ、手を貸して。私が完璧に治してあげる。」


 「………?」


 よく分からなかったけれど、オレはルーシュに言われるがままに手を出した。彼女の小柄で柔らかい手のひらから、春の太陽のように温かい魔力が流れてきた。神経の隅から隅まで温まる感覚になった。血液が勢いよく左腕に巡り、ジンジンと熱を帯びていった。細胞が騒ぎ始め、痛みとも取れるその感覚はオレの腕に生きていることを感じさせた。


 「すごいな。いつの間に治療ができるように…?」


 「私の能力スキルって生命を生み出すものでしょ?治癒魔法とは少し違うけど、細胞を活性化させるの。どう?」


 「すっかり元通りだよ!感覚も握力も……!!」


 「そっ?良かった!」


 ルーシュはさっきまでの固い顔から、いつも通りの朗らかな笑顔を作った。安心したのかは分からないが、その顔を見れたのでオレとしては満足だ。それからもう少しだけ二人で散歩をして、寮の前で別れた。オレはベッドにダイブをして、そのまま深い眠りについた。


 次の日、学園に行って最後の時間は、クラスで学外学習についての授業だった。オレは昨日カミュール達に話したことをラルヴァとリアンにも話した。リアンはいつものようにうだうだと弱音を吐いていたけれど、ラルヴァは当然乗ってきた。リアンには強制でもないので無理はしなくていいと伝えたのだけれど、そう言うと“そんなこと言うなよ!僕のことを除け者にするのか?行くよ!行けばいいんだろ!?”と言って承諾した。なんか………面倒くさいやつだな。


 「許可は出せません。ミルアルト君、君はこの前大変な目に遭ったばかりでしょう?なんでそう危険な道を進もうとするんですか。」


 「オレと同じ歳でも迷宮ダンジョンに行く人はいますよ。2階層までならよほどのことがない限りはその辺の山と同じですよ。」


 「それはそうですが……ですけどね………。」


 「お土産も買ってきますよ。」


 「そんなことを言っているんじゃありません。学外学習でわざわざお土産なんて……ご両親に買うだけでいいですから。」


 「ウサギ饅頭でも買ってきますから。」


 「…………そこまで言うなら条件をつけます。まず全員がご両親から許可をもらうこと。何があっても3階層以下には入らないこと。迷宮ダンジョンに入る際には必ず帰還石を持って入ること。その上で引率を付けるので、その人には必ず従ってください。」


 帰還石とは転移魔法が刻まれた小さな魔石のことだ。一回限りしか使えないけれど、魔力を流し込めば転移魔法が発動して決められた座標に転移する。つまり危険が迫った際に迷宮ダンジョンの外に転移するための道具だ。多少値は張るけれど、大抵の冒険者は常備している。難点を挙げるのならば転移魔法は複雑であるために小さな魔石では扱いが難しく、迷宮ダンジョン内でしか発動しないという条約の上で成り立っているところか。


 「引率というと?」


 「それは校長先生に探してもらいます。私が行きたいところですけど、一つの班に付きっきりになるのもよくないですから。」


 「じゃあオレ達はとりあえず親に許可を取ればいいんですね。ありがとうございます!」


 授業を終え、生徒会の仕事も終わらせてから寮に帰り、通信魔導機で家に繋いだ。母さんと父さんに経緯を説明し、許可をもらおうとした。最初のうちは反対もされたけれど、階層が浅いこと、セリアもいることを理由に最終的には許可してくれた。ついこの間も心配をかけたばかりだからもっと強く反対されるかと思っていたけれど、オレのことを応援してくれているのか、想像よりはあっさりとしていた。だからこそ、オレは母さん達の期待に応えたいと思った。


 数日後、今日は週末で、つまり学園は休みだ。それなのになぜ学園の廊下を歩いているのかというと、校長室に用があるからだ。今日は以前から伝えられていた十法帝会議の日だ。校長が転移魔法で一緒に連れて行ってくれるらしい。


 「グランデュース=ミルアルトです。」


 「おお、来たか。なら少し早いが行ってしまおうか。途中で話もしておいた方がいいかもしれないしね。」


 「分かりました。お世話になります。」


 校長がオレの肩に触れ、渦巻くように何かに飲まれた。気づくと街の中に出ており、促されるままに準備されていた魔導車に乗り込んだ。法帝が乗るものであるだけに、乗り心地は非常に良かった。


 「さて、ここはアイズベール、これから向かうのは聖国議堂だ。十法帝の全員が参加するかは分からないけど……まぁ身構える必要はないよ。」


 「ありがとうございます。」


 アイズベールとは、聖都・ヘルダルムの北に隣接している小さな街だ。昔は周辺の街と合わせてヘルダルムのうちの一つの地域だったらしいが、街の機能性などを考えて今は分裂しているらしい。ちなみに聖国議堂は神話の時代にセリアが作り出した“煌焔”というクラン、つまり“冒険者によるギルドに次ぐ組織”の本部だったところだと聞いた。もちろん劣化はしているので定期的に補修をしているようだが、張られていた結界が極めて上質だったために今でも形を保っているのだとか。


 「まぁ、何かあったら私が守るから心配しなくていいよ。」


 「!おい、急に出てくるなよ。狭いじゃんか。」


 「いいじゃない。たまには私だって実体化しないと窮屈なのよ。」


 「我が強い法帝達でも、流石に英雄に大きな態度を取るような者はいませんから。ミルアルト君に危害を加えようとする者もいませんよ。」


 「そうなの?じゃあされるだけかもね。」


 セリアは含みのあるような言い方をした。オレも何もされないことはないだろうと思いつつ、魔導車の外を眺めていた。


 「ああ、しかしアレですね。中央政府の頂点にはラファエル様がいらっしゃるので、彼にはお気をつけ下さい。」


 「ラファエル……。」


 「天使様です。彼自身は人間界のいざこざや政治には関与しないのですが、立場的に崇められるお方ですから。彼に気をつけるというよりは彼に対する態度に気をつけていただきたいです。」


 天使様とは創造神様の子のことだ。創造神様はこの世界を創られた最高位の神様の一柱で、当然多くの宗教が、そして信者でなくとも崇めている対象だ。その子ともなれば彼らも世界中から信仰対象とされている。


 「ああ、ラファエルさんか。私天界で何回か話したことあるわ。」


 「そ、そうですか……。なら礼儀をどうと言うべきでもないですね………。」


 「しかし、人間界に干渉しないというなら何のためにおられるので?」


 「中立の証人としてだね。特に天使様が中立となればそれが創造神様の御意思となるので、宗教間の争いを少なからず抑制することにもなるから。」


 なるほど……信仰する対象が中立であれば、その信者も中立となるのか。もちろんそれが完全な抑止力になるわけではないけれど、意味が小さいわけではない。

 15分ほど車に揺られた後、やっと聖国議堂に到着した。現代に見るかつてと変わらぬ景色にセリアは感傷に浸っていたけれど、すぐに幽体化した。オレは校長の後ろについて行き、会議室の前までやってきた。無い重量を感じるのは、この奥に最高峰の魔力が集まっているからだろう。理解できぬほどに濃い魔力のせいで、魔力の数を正確に測ることはできなかった。扉を開くと、そこには写真で見てきた人達が八人並んで座っていた。

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