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HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第二章 魔天皇の城
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第14話 わがまま

 「さて……お二人はもう帰られるのですか?もう少しゆっくりしても構いませんのに。」


 「身体を動かせるようになったので。もう少しユリハ様とセリアで話してほしいとも思うんですが、学園も心配しているでしょうから。」


 「私達は君が寝ている間にたくさん話をしたので気を遣って頂かなくていいですよ。またいつでもお越しください。歓迎しますから。」


 「それはありがたいです。………ところで、一つ伺いたいんですが、ユリハ様がオレに使ってくれた回帰魔法について……。時間を巻き戻す、例えば火事で無くなった家を元に戻すとか、そういうことはできるんですか?」


 「……?そうですね……私の使う魔法は“状態の回復”なので、前も言った通り無くなったものは元に戻りません。私が伝えられる範囲ですと……能力スキルによっては可能かもしれませんね。ただ時間を操るのは世界の流れに介入することなので大変なエネルギーを必要とします。かつて“時間を止める”能力スキルは見たことありますが……時間を巻き戻す能力スキルは見たことないですね。」


 ユリハ様は少し考えたあと、丁寧に説明してくれた。時間を巻き戻すことは不可能なのだろうか……。まぁでも色んな可能性を考えておこう。別に急ぐことでもない。


 「そうですか……。ありがとうございます。ならオレ達はもう帰りますね。またいつかセリアと遊びに来ます。」


 ユリハ様に帰ることを伝え城を出ようとしたとき、セリアがユリハに声をかけた。一瞬、まだもう少しだけ話したかったのかとも思ったが、そういうわけでもなさそうだった。


 「ユリハ、大事な質問なんだけどね。私とミラの関係を知ってる人って魔族の中ではユリハ以外にはいる?」


 「…………レイジ君からは通信で知らされたのでそれを管理している者なら知っているかと。」


 「ミラの周りには?」


 「オレの周り?そりゃセリアも知ってる通り父さんと母さん、ルーシュと……あとは学園の先生方は知ってるんじゃないかな?………ルーシュが口を滑らせてなければそのくらいだな。」


 「No.8は私とミラの関係を知ってた。たぶんアイツだけじゃなく歴史の破壊者(デスティニー)の間で共有されてると思う。」


 「うん。…………?」


 「つまり私をミラが召喚したことを知っている誰かが、歴史の破壊者(デスティニー)と繋がってる……!歴史の破壊者(デスティニー)が活動を始めたのは12年前から、それ以降に名を上げた人が怪しいわ。ユリハもできる限り調べてみて。」


 「分かりました。……12年となると限られますが、なんとか調べてみましょう。何か分かったことがあればお知らせします。」


 「お願いね。じゃあ私達は帰るわね。」


 セリアの話は終わりオレ達は今度こそ城を出発した。空港まで向かい、そこから南大陸へと向かった。ここまで来るときとは違い、途中魔物の狩りをしなかったため一日と少しで学園まで帰ることができた。夕暮れごろに寮に帰り、早々にベッドに顔を埋めた。飛行機内では寝ようと思っていても微妙に身体が痛んで寝ることができなかったから、疲労は異常なまでに溜まっていた。


 「セリアー……!オレもう疲れたよ……。」


 「怪我人だものね。しっかり寝ておかないとまた痛み出すわよ。」


 「うん……。学園の先生が……歴史の破壊者(デスティニー)と繋がってたりするのかな……。もしオレやルーシュと関わりのある先生だったらどうしよう……。」


 「………ちょっと熱が出てるわね。早く寝なさい。……しばらくは大丈夫よ。」


 「…わかった……。」


 夜は少し息苦しかったが、寝ると随分楽になった。朝日を浴びると頭もスッキリし、顔を洗えば気持ちもしっかり落ち着いた。授業が始まるまでは少し時間があるが、あまりギリギリに行くのもよくないだろう。今日は特に色々聞かれるだろうし。鞄に荷物を入れ、オレは部屋を出た。


 「グランデュース……!」


 「げっ!!」


 教室へ行くために廊下を歩いていると、後ろからオレを呼ぶ声がした。その声はよく知っているものだった。顔を合わせたことは少ないけれど、この学園にいればその声を、顔を知らない者はいない。学園内においては校長よりもずっと存在感のある教師だ。


 「“げっ”とは何だ?」


 「鬼……いや、ジンデール先生じゃないですか。……聞き間違いですよ。」


 ジンデール先生、学園外でも有名で、生徒からはよく“鬼教官”と呼ばれている先生だ。学園内では生徒会長含めて四人しかいない七星級の一人。確かルーシュの担任で、生徒会の顧問でもあったはずだ。わるい噂は聞かないけれど、その代わり怖いという話ばかり聞く。それでいて生徒からの信頼は厚いから“良い人”ではあるのだろう。


 「まぁ構わん。聞けばお前、獄境で大変な目に遭ったそうではないか。魔法学園は戦闘を教える場でもある。いずれ戦場に立つやも知らぬ生徒に対し、教師である俺からこの件に関して偉そうに注意することはできない。よく生きて帰った。」


 「ありがとうございます。」


 「………魔物にやられたと聞き、お前の守護者がいてそんなことはないだろうと思ったが……まぁ俺には伝えられない事情でもあるんだろうな。これからもくれぐれも注意して過ごしなさい。」


 「ええ、もちろんです。」


 少し話していても分かるが、怖い表情や声とは裏腹に、どこか優しさを感じられる。生徒からの人気があるのも分かるような気がした。


 「………で、ここらは一人の大人として言わせてもらうが、お前はもっと自分の身を大切にしなさい。無理して戦うな。命がなければ何を守ることもできなくなるぞ。できるだけ守ってもらうんだ。前に出なければ強くなれないのは分かる。俺も昔からそうしていたからな。その上で偉そうなことを言うが、何よりも自分の命を優先しなさい。だいたいお前の戦い方は大雑把すぎるんだ。繊細な技もあるのに、どこかで自分の身体を軽んじている。もっとお前は自分の強みを………」


 あぁ……これはダメだ。説教モードに入ってしまってる。たぶんしばらくは解放されないだろう。こうなると授業にすら間に合わないかもしれない。………いや、規則に厳しいジンデール先生に限ってそんなことはないか。


 「っと……まぁ俺からグチグチと言うのはこれくらいにしておこう。俺以上に色々言いたい人は多いだろうからな。」


 「……あっ!お久しぶりです……。」


 「お帰りなさい、ミルアルト君。心配しましたよ。」


 「ははっ……申し訳ありません。」


 振り返ると、そこに立っていたのはランファ先生だった。彼女はオレの、つまり一年特等クラスの担任だ。彼女もジンデール先生と同じく七星級だ。……オレは五星級になったわけだが、二人にはまだ敵いそうにない。


 「ジンデール先生からはなんと?」


 「あぁ……自分の身を大切にしろと……。」


 「そうですか。なら同じようなことを何度も言うのはやめておきましょう。………私はね、君が獄境で死にかけたと聞いたとき、退学を勧めようと思ったんです。まだ選択肢は多いですから、辛い思いをするなら辞めた方がいいんじゃないかって。でも今の君の顔を見ると………私から言えることはありませんね。生徒の道を応援するのが教師ですから。それに今回の旅で随分成長されたみたいですしね。」


 「………。」


 「まぁでも、辛いことがあったら誰かに頼ってくださいね。それができないなら逃げてください。私はいつでも君の味方をしますから。そして……今まで苦しい道を選んできた私が言えるようなことではありませんが、やっぱりどうか、苦しいことは避けてください。教師は……いや、大人は子供の苦しむ姿を見たくないものなんです。」


 先生の言葉が痛かった。言っていることは理解できるし、オレだって楽な道を進みたいという気持ちがないわけではない。オレの行動が人を心配にさせていることを考えると………だがオレとしてもやりたいことは、やらなければならないことはある。


 「……茨の道でしか得られないものもあります。ですがまぁ……先生の言うことならオレも極力従うようにします。あなたにはいつも世話になっていますから。」


 「そう………そうしてくれると嬉しいわ。………とりあえず教室に行きましょうか。」


 オレはランファ先生の後ろについて歩いていった。教室に行くのはいいが……あとでルーシュには会っておかないとな。今回のことで誰よりも心配かけただろうし、生徒会の件もある。


 (セリア、オレはランファ先生と校長先生は歴史の破壊者(デスティニー)とは繋がってないと思う。)


 (……理由は?)


 (二人はセリアのことを伝えたんだろ?もし敵って立場なら隠そうとすると思うんだよな。その方がオレに対して誰も気にかけないだろうし。)


 (確かにね。……まぁ二人候補から外れたところであんまり変わんないけどね……。)


 (最初はそんなもんだよ。ちゃんと調べないと……いや、調べても分からない可能性の方が高いか……。)


 セリアと少し話しながら歩いていると、教室にはすぐに到着した。もともと向かっている最中に先生に捕まったから当然か。オレが教室に入るや否や、クラスのみんながザワザワとし始めた。


 「ミルアルト!お前無事だったのか!!どっかに行っちまったかと思えばそこでなんか襲われたって聞いたから心配したぞ!」


 「ラルヴァか。心配してくれるのはありがたいが、お前に心配されるほどオレは柔じゃねーよ。」


 「ッ……!!人の心配をテメェは………!!」


 「ははっ。冗談だ、悪かったよ。」


 あまり心配ばかりされるのも柄じゃないしな。過ぎたことをそう何度も言われるのは気分の良いものではない。多少は生意気な方がみんなの気も楽ってもんだ。席につくと、後ろからリアンとカミュールが声をかけてきた。


 「君……魔力増えてないか?ついこの間四星級になったばかりだったろ?」


 「確かにな。昇級したのは序列戦だったか。あれから三週間も経っていないぞ。何をしていた?」


 カミュールは当然として、やはりリアンの感知力も相当なものだな。少し見ただけで分かってしまうのか。


 「色々やってたんだよ。だから帰るのが遅くなったんだ。………さて……。」


 先生から伝達事項やら何やらを聞き終わり、オレは教室を出た。一時限目の魔法論理学の授業が始まるまではまだ時間がある。………まぁ多少遅れてしまってもこの際構わないか。とにかくオレは授業のことなど忘れて、三年の教室へと向かった。距離が少しあるから鉢合わせるのは渡り廊下辺りだろうか。そう思って歩いていると、そこよりずっと手前側で彼女が見えた。


 「ミラ……!!」


 「っ!!」


 顔を合わせるや否や、ルーシュは有無を言わせずにオレに飛び込んできた。静寂に包まれた廊下の中で、彼女の腕だけがカタカタと小さく震えていた。傷の完治していない身体は腕に圧迫されるだけでもかなり痛みが走った。けれどそんなオレの痛みよりも、ルーシュの痛みの方がずっと上だろう。


 「ミラ……生きてる…………怖かったよ………!!」


 「……ごめんよ。」


 ルーシュは顔をオレの胸元に埋めていたせいで表情を確認することはできなかったが、わざわざ確認せずとも声の震えで分かった。オレはルーシュの頭に手を置いて、抱きついている彼女をさらに引き寄せた。これで安心させることも難しいだろうけど、ほんの少しだけでもオレがいることを実感させてあげたかった。


 「……謝ることじゃないけど…………。ねぇ、ミラ?」


 「……うん?」


 「もうさ……強くなろうと思わなくてよくない……?私がもっと強くなって守ってあげるからさ…………夢だって……ミラが命をかけてまで叶えなくったってよくない……?私…嫌だよ………。ミラが死んじゃうんじゃないかって…………怖いよ……。」


 「……ルーシュがオレを守りたいように………オレもルーシュを守りたいんだよ。守られてばっかじゃ格好がつかないだろ?大好きな人の前でくらいカッコつけたいじゃんか。」


 「…………それで否定したら私が悪者みたいじゃん………。ズルいよ………。」


 緊張は解けただろうか、ルーシュの震えは収まりつつあった。それでも心の奥まで染み込んだ恐怖を振り払うことは難しいだろう。そればっかりは責任を取らないと……。


 「じゃあ代わりに……私のお願いを一つだけ聞いて。」


 「オレのわがままを許してくれるなら、どんなわがままでも受け入れるよ。」


 「………怪我は最悪してもいいけど、絶対に死なないで。ミラは私より二つ歳下だから、私が死んでから二年以上は生きてくれないと許さない……!戦いは逃げてでも生き延びて、死ぬのは寿命だけにして……。」


 「ルーシュよりも長生きしなきゃいけないのか。無茶な願いだけど尽力するよ。」


 「うん。………それなら今回のことは許してあげる。約束だよ……?」


 そう言ってルーシュは笑ってくれた。震えはすっかり無くなり、腕の力も優しくなった。そっと身体に回された腕を解き、目に浮かんだ涙を拭ってあげた。少し腫れてしまっているな……。


 「そうだ……今日は授業が終わったら生徒会室においで。入るかどうかは別として、ジンリューが会いたがってるから。」


 「分かった。じゃあまたそのときに。」


 そう言ってルーシュとは別れた。一時限目開始のチャイムが少し前に鳴っていたので少し急ぎ足で教室に戻った。こっちに来るときよりも足が軽いような気がする。

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